91 宣言
シャン、シャン、シャン
シャン、シャン、シャン
京平は、自転車を押しながら鈴の音が聞こえてくる社へ歩いて行く。
「やっべ、もう始まってんのか?」
陽中の陽は、午前六時から十二時の間だ。朝七時にやってきただけでも十分早いと思っていた京平は、鈴の音が既に聞こえてくるため、少し慌てて参道を駆け上がった。
「京平兄ちゃん!おはよう!」
社の入り口で、受付係としてお出迎えをしていた朱丸に声をかけられた。
正面にには、今まで見たこともない舞台が設置され、面をつけた巫女達が、鈴を鳴らし、神楽を舞っていた。
「巫女さん?」
「うん、神さまが、人形を使って奉納祭の神楽を舞ってもらってるんだって」
舞台の周りには、神さまに招待された鴉天狗達が、神楽を見て楽しんでいた。
鴉天狗を見つけた京平は、鼓動がドキンと跳ね上がった。
「鴉天狗って……も、もしかすると」
ドキドキと高鳴る胸を右手で押さえながら、京平はあたりをキョロキョロと視線を彷徨わせた。
「京平兄ちゃん、まずはそちらの手水舎でお清めをお願いします」
「お、おう。っていうか、舞台といい手水舎といいなんか立派になってないか?」
朱丸に背中を押され、少し冷静になった京平は、一週間前から様変わりした神社の様子を朱丸に尋ねた。
「すげぇだろ。浅葱どんと鴉天狗どんたちが、今日のお祭りのためにトンテンカンって大工さんしたんだよ」
「じゃあ、あの鴉天狗たちって」
「そうだよ、準備を手伝ってくれた鴉天狗たち。スセリビメさまが、人手を手配してくれたんだ」
京平は、後ろから佐久夜に声をかけられて、振り返った。佐久夜は真っ白な和装に水色の袴を履いていた。
「うわぁ、カッコいいじゃん」
佐久夜は、照れ臭そうに頭を掻いた。
「昨日、神さまから手渡されたんだ。浅葱に着付けをしてもらったんだ」
「今日の主役の一人だもんな。気張れよ!………で、ヒィちゃんは、来るのかなぁ」
朱丸が、京平の袖口を引っ張って、手水舎へ連れて行こうとするため、わかったよと言いながら、京平は手水舎へ足を向けた。備えられた柄杓で清水を掬い、左手、右手と清めた後、口を濯ぐ。
「スセリビメも奉納祭には、来てくれるそうだよ」
ぶわわわわと、全身の毛穴が開いていくのを京平は感じた。佐久夜に振り向いた京平は、とても残念に見えるほど情けなく蕩けた表情を見せた。
「祭りの後にでも、二人でゆっくり話せよ」
佐久夜は、嬉しそうな京平の肩を叩いたて言った。
舞台では、鴉天狗たちのお囃子の演奏が始まっていた。
「佐久夜、ひぃが到着したにゃ」
朧が、スセリビメの到着を伝えに佐久夜の元へやってきた。佐久夜は、襟を正すと大きく息を吸い込んで深呼吸をした。
舞台から鴉天狗たちが、降りていくと参道に両脇に並んで頭をさげた。牛鬼に轢かれた牛車が舞台脇に停車した。鴉天狗の一人が扉を開けると煌びやかな着物に袖を通したスセリビメが、鴉天狗の爺に手を引かれ降りてきた。
そのまま舞台に立つと、くるりと前を向いた。牛車は静かに退場していった後、凛としたスセリビメの声が、境内に響いた。
「此度は、妾の兄上の鏡が完成したと聞く。妾は、見届け役として立ち会うことを宣言する」
壇上からの宣言が終わると、鴉天狗たちの歓声が轟いた。
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