88 青銅鏡を磨こう
水を張ったタライの前後に向かい合って、佐久夜と京平は座り、手に持った青銅鏡を水に潜らせては、竹籤で残っている石膏を穿る。再び水を潜らせて、竹籤で穿る。何度も何度も、その作業を繰り返していた。
「こりゃ一日じゃあ、終わらねぇな」
京平が、凝った首を左右に傾けながら解している。
佐久夜も立ち上がり、腕や腰を回しながらストレッチを始めた。
「だけど、俺、今めっちゃ楽しいわぁ」
「せやなぁ、ガキの頃組み立てたプラモデルに塗装したり、バリ削ったり、リアルに仕上げする感覚を思い出すなぁ。あの頃は、なんでも遊びに真剣やったからなぁ」
「あぁ、そっか。俺、ストンと腑に落ちた」
佐久夜は、幼い頃両親を失くし、親戚中をたらい回しに預けられ育った。保護なく生活する力もなく、只々、迷惑にならない様に生きていた。
世話になっている以上、家事、炊事は率先してやって来たが、佐久夜へは最低限の衣食住のみ与えられていた。
食事をさせて貰えるだけで有り難く思え。屋根が有る所で寝れるだけでも、十分だ。学校に行かせてもらって、何か不満があるのか?
厄介者の分際で、贅沢を言うな。
「だから、俺は、一人で暮らす生活を選んだんだ」
佐久夜は、笑って京平に言った。
「佐久夜さまは、もう一人ではござりませぬぞ」
「そう!だから、今がめっちゃ楽しい!」
神さまとの出会いが、佐久夜の今までの価値観を全て覆してくれた。
「俺って本当に生きる屍だったんだな」
「佐久夜、言葉と表情が噛み有ってないんだけど?とにかく、今は幸せってことで良いんだな?」
「そうだ!それで間違いない!」
この溢れる感謝の気持ちを全てこの鏡に注ぎ込む。そんな思いで再び作業を始めた。
「耐水性の紙ヤスリ?」
「そうそう、ジャブっと水に浸けて、鏡の面を真っ直ぐに磨く。とにかく磨く。めちゃめちゃ磨く」
「磨き方は、上下上下!ぐるぐるとはせずに、縦に磨く。で、向きをずらして、また縦に磨く」
図書館やネットで調べた青銅鏡の作り方を参考にしながら、佐久夜と京平は、耐水ペーパーを使って鏡を磨いていく。
150 番、400 番、800 番、1500 番と荒い目のものからザリザリと磨いていく。
「これもなかなか肉体労働だな」
「せやな」
「仕上げは、このピカールで裏も表も磨くんやろ?」
「そうそう!まずは、この紙ヤスリでペカペカにな」
タライの水を何度も変え、作業は日が暮れるまで続けられた。最初の予想通り、研磨作業には数日かかった。
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