86 御守り
儀式を終え、夕食の準備をしているであろう朱丸と浅葱に報告するため、佐久夜たちは、土間へ戻った。
釜戸の前では、浅葱がせっせとおにぎりを握り、朱丸は味噌汁が吹きこぼれないように鍋の火の番をしていた。
「朱丸、浅葱」
佐久夜の声に反応して、同時に振り返る二人。朱丸は、すぐさま佐久夜に飛び付いて、身体中の匂いを嗅ぎ出した。
「いつもの佐久夜兄ちゃんだ!」
佐久夜の周りを嬉しそうに朱丸は、飛び回る。浅葱もほっとした表情を見せていた。
小さなちゃぶ台を四人で囲み、ちゃぶ台の傍にある朧用の座布団の前には、鯵の開きが用意されていた。猫舌の朧でも食べやすくしっかりと粗熱もとれて、うまうまと美味しそうに鯵に齧り付き咀嚼していた。
「神さま、俺今日はバイト先でも失敗だらけで、散々だったんだけど、あの黒いモヤモヤが原因だったのか?」
あの時は、心も体も重くて怠くて、どうして自分ばかり不幸に見舞われるのかと嫉み、歪な感情が渦巻いていた。
「うむ、負なるものは、負を呼び込むからのう。今は、どうじゃ?」
佐久夜は、朱丸、浅葱、朧の顔を順番に見て、最後に神さまを見つめる。今までとは異なり、面には目立つ亀裂が走っている。だけど、神さまの面は、優しく笑っているように見えた。
「うん、心が軽い。春の日差しの中で日向ぼっこをしているぐらいに気分が良い」
「うむ」
神さまは、佐久夜の答えを聞き満足そうに唇に弧を描き、緑茶をズズズっと啜った。
「じゃが、此度と同じ様に穢れに触れると、今日と同様に穢れに囚われてしまうぞ」
神さまは、懐から小さく折り畳まれた紙を取り出して、佐久夜に渡した。
「即席ではあるが、主の厄除けにはなるじゃろう」
「御守り?」
「うむ、佐久夜に纏わりつくであろう穢れをその紙片が、肩代わりしてくれるじゃろう。ただし、匂いを穢れを吸いすぎたらその紙片が黒霧が纏うぞ」
朱丸が、黒霧と聞いて鼻を摘む動作をした。
「また、臭いのか?」
「うむ。その時は、火を焚べ燃やせば良い。新しい紙片と交換じゃな」
佐久夜は、小さな紙片を手に取ってじっくりと眺める。ふと、神さまの面にある亀裂が目に入る。
「もしかして、交換する度に面のヒビが大きくなるとか言う?」
「うむ。やはり佐久夜は、誤魔化せぬか。あまり気にするでないぞ」
カラカラと笑う神さまだった。
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