81 呪
神さまは、土間の中をうろうろ彷徨き、時折耳を欹て、外の様子を伺い、そして、土間をうろうろと彷徨う、そんな事を繰り返していた。
佐久夜の助けを求める声を聞き、神さまも社を飛び出ようとしたが、続け様に朧の声を聞き、ぐっと耐え、社の中で待っていた。
土間の扉が開き、浅葱が慌てた様子で桶に清水を掬い、白い麻布を裂いて長いサラシを浸して行く。
「ど、どうしたのじゃ?」
「佐久夜さまが、腐臭に塗れてござりまする。おそらく、呪の類かと思われるでござります」
手短に説明をすると、浅葱は佐久夜たちの元に戻って行った。
「我は、何をしとるのじゃ!」
小さな手のひらを広げ、両頬をパチンと叩くと、社に祀っている神棚の前に急いだ。白い徳利を手に取ると、土間に戻る。徳利の中に、清めた塩を入れ、杓子で湯を掬い徳利に注いだ。
再び、神棚まで戻ると、元々徳利が置いてあった三宝の上に塩の湯が入った徳利を戻すと両手で大幣を持ち、徳利の前でわっさわっさと言葉を紡ぎながら振っていく。
小さな体では大きすぎる大幣ではあるが、神さまは一心不乱に振っていた。
「佐久夜さま、朧さま~!これをお使いください」
ぽてぽてと桶を持って浅葱が小走りで近づいてきた。桶にはサラシが浸してある。佐久夜の前に桶を置くと浅葱は、柄杓で水を掬い、ゆっくりと佐久夜の腕に清水を垂らした。
「にゃにゃー!」
倒れたままになっている朧に水がかかり、絶叫する。
「わざとにゃ!浅葱、絶対わざとにゃ!」
腐臭を嗅いでしまったため、脚に力が入らず、倒れたままの朧が恨めしそうに浅葱を睨む。
浅葱は慌てて朧を抱きかかえたが、時すでに遅し、朧はビチャボチャに濡れてしまった。
「朧さま!申し訳ないでござりまするぞ!」
浅葱は、必死に謝っているが、側から見ると、黒猫を抱きかかえた、幼い男の子という微笑ましい様子にしかみえなかった。
「朧、ごめん。俺のせいで、浅葱も必死だったんだよ。やっぱり、今日は何もかも上手くいかないや…それで、このサラシはどうするんだ?」
「あ、とりあえず、左腕に巻いていただきたいでござりまするぞ」
佐久夜は、桶に浸されたサラシを右手掴み軽く絞ると、包帯を巻く要領で左腕に巻き付けていった。
「あ、少しは臭く無くなったぞ?」
朱丸が、左腕を見て呟いた。
「少しって言うことは、まだまだ匂うんだ…」
佐久夜自身も、万能だと思っていた清水でも腕の黒ずみが取れなかったことは、気がついていた。
「やはり、呪の類でござりまするぞ」
浅葱は、ぎゅっと朧を抱きしめて言った。
「呪?」
「穢れ、呪い、厄災、不幸ってことにゃ」
朱丸の疑問に朧はポソリと答えた。
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