73 轟 大吾
京平が、顔を顰めて鼻を摘んで見せるが、佐久夜には何も匂いを感じることが出来なかった。
「カビ臭いって言うか、ドブ臭いって言うか、近寄りたくない匂いなんだな。あ、こっちはなんかヤバイぞって匂いで直感が働くんだ」
「お前、肩こりはどうなった?」
佐久夜に言われ、京平はしばらく考える。ぐりんぐりんと違和感を感じていた肩を回すが、今はなんの違和感も感じなかった。
「めっちゃ軽いって、その臭いの俺の肩から移ったとか?」
京平は、肩に鼻を寄せくんくんと匂う。
「まったく匂いないぞ?」
「因みに、ヤバイ匂いがした後、京平はどうなったんだ?」
「階段から落ちたり、車に轢かれそうになったり、自転車がパンクしたり……取り敢えず、よくない事が起きる。だから、敢えて匂いを避けるようになった」
「帰ったら、神さまか朧に聞いてみる」
そうした方が良いと言って京平は、弁当を持って教室に帰って行った。
佐久夜は、気休めに手を洗ってこようと席を立つ。手洗い場は、校舎の各階の両端に設置されている。
レモン型の石鹸を使い、佐久夜はゴシゴシと手を洗うが、黒いモヤは取れなかった。
諦めて顔を上げると、目の前の鏡に写り込んだ一人の生徒に釘付けになった。
相手に気付かれないように、タオルで手を拭きながら、気になった生徒から少し離れて、後を歩いた。
つかず、離れず、その生徒は、京平のクラスに入って行く。
「京平!京平!英和辞書貸して!」
大きな声で、京平を呼ぶ佐久夜。例の生徒は、京平の席の後ろに座った。
「ちょっと待ってろ!」
机の中からからゴソゴソと辞書を取り出すと、京平は佐久夜の元にやって来た。佐久夜は、京平の肩に手をかけ、教室から引きづり出した。
「お前の席の後ろ、名前何て言うんだ」
「轟?」
轟 大吾、佐久夜とは、特に接点は何もない。京平も何か思うところがあるのか、少し考える。
「京平、まさか惚れた?」
佐久夜は、京平から借りた辞書で、バコンと頭を殴った。
「辞書ありがとう」
「お前、言葉と態度が合ってないぞ」
ヒラヒラと手を振って、佐久夜は教室に戻って行った。
轟 大吾の身体半分が、黒いモヤで覆われていることは、京平に話さなかった。
「京平、最近あの陰キャとよく連んでるな」
席に戻ってきた京平に轟は、声を掛ける。
「陰キャ?」
「親戚ん家追い出され、火事で住処も無くなって、バイトばかりして、なんの取り柄もない貧乏人だろ!絶対つまんない奴じゃん」
京平は、笑いながら轟の頭を思いっきり叩いた。
「バーカ、お前の方が、つまんね~よ」
「ああん」
京平に頭を叩かれ、頭にきた轟は、京平の胸ぐらを掴んだ。京平の鼻を掠る強い異臭に目を顰める。
「やめてよ!」
「ケンカか?」
クラスが騒然とする。
「俺の友達を侮辱すんなよ」
京平は、胸ぐらを掴んだ轟の手を取り、払い除けた。
「叩いて悪かった」
そう言って京平は、自分の席に座った。
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