55 記憶の扉
鴉天狗の案内の下、拝殿に連れて行かれた。
「ひい様、お客人を連れて参りました」
鴉天狗は、一礼すると佐久夜たちに向き合う。
「お客人は、そちらへお座りください」
目の前には数段の階段があり、佐久夜たちはが座る場所よりも数段高い場所に、スセリビメは、座っていた。
佐久夜たちも、板の間に並んで座った。
真ん中に佐久夜、両隣に朧、朱丸、そして両端に浅葱、京平である。
「お客人は、『オモテ』へ戻る為、我が社の黄泉比良坂への通行を希望していると聞いたが、間違いないか?」
階段の真横に座った鴉天狗が、佐久夜たちの希望を伺う。スセリビメは、ただじっと朧を見つめ続けていた。
「はい、俺たちの不注意で、『ウラ』へ迷い込んでしまいました。願わくば、末席に座る天狗も俺たちと共に、『オモテ』連れて行くことを許して欲しい」
佐久夜は、代表として鴉天狗に答える。
「お客人は、天狗を連れて行くと申すか?」
浅葱は、頭を床に擦り付け、鴉天狗に発言をする。
「俺は、佐久夜さまに名前を名付けて頂き、今は浅葱と申すでござる。団ではなく、個となりましたでございます」
「何を勝手に!」
鴉天狗が、膝を立て立ちあがろうとした時、スセリビメは、パチンと音を立て、扇を閉じた。
「あい、わかった。妾は、皆を返すことを約束しようぞ」
いきなり、口を挟んできたスセリビメに、鴉天狗は慌てた。
「ひい様!何を勝手に約束をしてますのじゃ。天狗は、『ウラ』の住人。それを『オモテ』に送り出す意味をおわかりか!」
「爺、解っておる。妾の神力が、弱まるだけのことよ」
解っているなら、なおさらと鴉天狗は、スセリビメに詰め寄った。
「あの、俺たちにも解る様に説明してもらえませんか?」
佐久夜たちは、ただ『オモテ』に帰りたいだけだ。ただ、鴉天狗たちと揉めるつもりは全くない。
「これは、失礼した。『オモテ』へ妖を送り出す時は、それ相当の対価が必要。失礼ながら、お客人は、天狗を連れて行くための対価を持ち合わせておらん。ならば、その対価は誰が払う?」
「もしかして、それがスセリビメ様だと?」
「ご明察」
スセリビメに使える鴉天狗だからこそ、自分たちの主だけが、負債を請け負うことが納得出来なかった。
「朧、こっちに俺たちが来た時、朧が京平に妖力を与えたのと同じことなの?」
「そうだにゃ」
スセリビメは、すくりと立ち上がり、神座からゆっくり階段を降りて来た。そして、朧の前にペタリと座り込んだ。
「逢魔……妾の兄さまの妖」
「お、覚えてないにゃ」
スセリビメは、ほろほろと涙を流し、朧の頬を両手で包み込む。
「ま、まさか、ひい様」
「爺よ。妾の記憶は、甦っておるよ」
スセリビメは、朧の額に自身の額を重ねた。
「うにゃあぁぁぁ!」
大きく声を上げる朧。佐久夜は、スセリビメから朧を引き剥がした。佐久夜の腕の中で、朧がヒクヒクと痙攣している。
「朧!朧!」
佐久夜は、朧に声をかけるが、視線が全く定まらず、口から泡を吹いている
「アンタ、朧に何したんだ!」
「妾の記憶を共有しただけよ」
「記憶って、あの記憶か?」
スセリビメは、少し目を細め佐久夜を見た。昔日鏡で垣間見た過去について、佐久夜は誰にも伝えていなかった。
「お前、兄さまを知っているのか?」
スセリビメは、佐久夜の胸元を掴み詰め寄った。
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