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神さまのお家 廃神社の神さまと神使になった俺の復興計画  作者: 枝豆子


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54/58

54 昔日

 たった一人神社に残る神さまは、暗闇の中、床板の上で正座をしていた。


「すまぬのう……ひい」


 ポツリ呟き、夜空を見上げ月を見る。名を失い、語ることを許されない神。ただ、今は皆が無事戻って来ることだけを願い祈り続けていた。



「佐久夜…大丈夫か?」


「あぁ、悪い」


(あれは、なんだったんだろう?断片的な誰かの記憶?)


 佐久夜は、浅葱に貰った鏡を覗き見るも、先程のように急激に意識を持っていかれる様子はなかった。


(朧は、普通に毛繕いをしてる。だけど、あれは朧の逢魔だった時の記憶なのか?)


 じっと見る佐久夜の視線に気がついた朧は、首をコテンと傾げる。


「どうしたにゃ?」


「いや、別に……」


 佐久夜は、視線をもとに戻し、再び鏡を覗き込んだ。


「そんなに気に入ってもらえるなんて、嬉しい限りでございます」


「あ……いや…うん。浅葱ありがとうな」


 襖がスッと開き、鴉天狗が再び部屋に入ってきた。お辞儀をして、顔を上げると佐久夜の持っている鏡に視線を移した。


「おや?お客人、それは、昔日鏡(せきじつきょう)ですな。なかなか珍しい物をお持ちで」


「せきじつきょう?」


「はい、名前の通り、昔日。過去を覗き見る鏡ですぞ。過去を稀に見ることができる鏡ですな」


 鴉天狗の目が細くなった気がした。


「へぇ、そうなんだ。あはは、恥ずかしい過去とか、思い出したくない黒歴史とか見たら嫌だなぁ」


 後頭部を掻きながら、鴉天狗の言葉を濁した。


「そうですか、ならばウチで処分しておきましょう。代わりに、それよりももっと良い鏡を用意させていただきますぞ」


「いや、其れは俺が買った!?」


 佐久夜は、抗議する浅葱を腕を出して制した。


「是非、お願いします」


「さ、佐久夜さま?」


 佐久夜は、鴉天狗に鏡を渡した。鴉天狗は、先程の表情とは変わり、にっこりと微笑んで見せた。


「しかと。お客人が喜ぶ物を用意して見せましょう。それでは、ひいさまの準備が整いました故、案内いたしましょうぞ」


 佐久夜たちは、立ち上がり鴉天狗の後に続いた。佐久夜は、浅葱の袖を引き、列最後尾に連れていった。


「浅葱、悪いな。訳はまた話す」


「佐久夜さま、判断にお任せするでございます」


 浅葱も短い間ではあるが、佐久夜が無闇に好意を蔑ろにする人物ではない事をわかっていた。


「勿体無い!スセリビメちゃんの過去が見れたかもしれないのに」


 京平は、残念そうに後頭部で手のひらを組んで、ボヤいた。


(それが、されたくないんだよ!鴉天狗は!!)


「ほほほ、ご冗談を」


 鴉天狗は、全く笑っていない顔で、京平を睨みつけた。

モチベーションにつながりますので、

楽しんで頂けた方、続きが気になる方おられましたら、

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