51 朧の尻尾
「佐久夜…オイラの尻尾は、気にする必要ないにゃ」
朧は、ぐるぐると喉を鳴らしながら、佐久夜に身体を擦り寄せた。
「逢魔さまは、朧さまのことでございましたか。……俺は、何と失礼な態度をしていたか……申し訳ない」
「そういえば、僕がオッチャンのところに駆けつけた時、泥だらけだったもんね」
佐久夜と京平は、掻い摘んだ説明しかされていなかったため、二人の間でどのような攻防があったかは、見ていない。
結果として、朱丸が、浅葱を懲らしめたことと、朱丸が、浅葱の長い鼻をへし折ったこと。そして、朧が、浅葱の妖気を奪いとって、幼児体型の可愛らしい天狗になってしまったとしか、聞いていなかった。
「もう良いにゃ。今は、佐久夜と契約した朧という名にゃ。逢魔は、尻尾と一緒に捨てた名前にゃ」
「名前を捨てたって、……朧センセ、どういう事なんだ?」
佐久夜もスセリビメと朧について、知りたかった。京平の質問に対して、朧が、警戒せずに話しやすいように、背中を優しく撫でながら、様子を伺う。
「逢魔は、オイラが千年以上前に、ある神さまから名付けてもらった名前にゃ」
朧は、ふぅっと息を吐くと、困った表情をして、話を続けた。
「神さまの名前も顔も、真っ黒なモヤモヤが出て、全く思い出せないにゃ。『ウラ』『根』『スセリビメ』の名前は、記憶として覚えているにゃ」
「じゃあ、…センセ……元々『ウラ』に棲んでいたのか?」
「………悪いにゃ。それも覚えていないにゃ。押さえつけられ、二本の尻尾をだーんってナタでぶった斬られたにゃ。その記憶は、鮮明に残っているにゃ」
朧は、額に皺を寄せて、話した。出来れば一生思い出したくなかった記憶を思い出したのだ。佐久夜は、朧が、『スセリビメ』の名前を聞いた時、凄く動揺していた事を思い出した。
『スセリビメ』は、朧にとってトラウマの一つだった。朧の尻尾を奪ったのは、『スセリビメ』なのだろう。
「その後は、佐久夜と出会う頃までは、余り記憶がないにゃ。……早く帰って、ちんちくりんを安心させてやろうにゃ」
朧は、佐久夜の撫でる掌に、頭を擦り付けた。
「そうだね、早くみんなで帰って、神さまを安心させてあげなきゃね」
「佐久夜兄ちゃん!戻ったら、僕、赤ウィンナーが食べたいな」
「オイラは、ツナの缶詰めにゃ!!」
「ハイハイ、そして、神さまにもおにぎり用意してあげなきゃね」
佐久夜は、朱丸と朧に、優しく応えた。
「俺は、納豆と卵焼きが良いな」
「京平は、自分の家で食えよ」
「えぇ~!俺も飯食いたい!」
浅葱は、ソワソワと身体を揺さぶり、会話に参加したくて、うずうずとしていた。
「もちろん、浅葱も一緒に食事をしようね」
「よ、よろしいでござりますか!!是非是非、ご相伴に預からせて頂くでございますぞ!」
牛車の中で、重苦しい空気だったが、気がつけば、和やかな雰囲気となっていた。
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