50 逢魔
「朧…大丈夫か?」
佐久夜の膝の上で丸くなっている朧の背に、指を差し込み毛並みに反って撫で上げると、朧の背中に指の筋が並ぶ。柔らかい毛並みの間に何度も指を通して、毛並みを確かめた。
「にゃあ…、アレを目の前にしたら、吹っ切れたにゃ」
佐久夜に指を嫌がる事なく、喉をぐるぐると鳴らし、朧は答えた。
「逢魔って?」
「俺、噂で聞いたことございますぞ!何でも、大妖怪で、悪い妖をギッタンギッタンと倒していく。最後は、妖たちに平和をもたらしたっと言う伝説が残ってございますぞ!」
「…知らないにゃ。ただ、覚えているのは、オイラの遥か昔の名前だったってことにゃ」
浅葱が、ガタンと座席から転げ落ちた。
「逢魔さまですと?伝説では、長く黒くしなやかな二本の尾を揺らめかし、大きな体躯、金色の瞳、膨大な妖気を持って……胸に白い満月の形をした胸毛……」
朧は、ゴロリと佐久夜の膝の上でひっくり返る。普段は、弱者の証と人前で腹を見せる事はないが、論より証拠と意地悪い顔をして朧は、腹を見せた。
全身真っ黒かと思えば、二本の前脚の間に真丸に生え揃った真っ白な胸毛が見えた。
「さっき、体大きくなってなかったか?」
「うちの神社の狛犬と周りの白壁を一気に治したし、妖気は膨大だと思う」
ヒソヒソと佐久夜と京平が、耳打ちし合うが、浅葱には全て聞こえていた。
「でも、朧のオッチャン、尻尾短いぞ?」
朱丸は、コテンと首を傾げ、浅葱に尋ねた。
「そうですぞ!朧さま、伝説の逢魔さまは、尻尾がとても長くてしなやかなと聞いているでございますぞ?」
「あー!」
佐久夜は、大きな声を上げると朧を抱えあげ、短い尻尾を目の前に晒した。
「佐久夜…何にゃ」
佐久夜は、尻尾を見た後、朧を膝の上に下ろし、両手で二本の尻尾を弄った。
「にゃっ、にゃっ。ちょっと止めるにゃ」
にぎにぎと両手で、朧の尻尾の感触を確かめていく。朧は、嫌がるも佐久夜の手に噛み付いたり、蹴り上げたりはせず、体を捩って悶えていた。
「やっぱり!!」
佐久夜は、改めて朧を胸に抱き上げた。
「スセリビメの両腕の黒いファー。アレ、朧の尻尾だろう!」
朧の尻尾を触り、指に引っ掛かる尻尾の先の違和感。二本の尻尾どちらも同じではなく、不揃いな跡。自然に出来た跡ではなく、傷が塞がって出来た跡だと気がついた。
佐久夜は、朧を抱き締め目尻から涙を零す。八つ手の面のお陰で、周りに涙を流しているのがバレずに済んだ。
「今度は、俺が守ってやりたい」
朧は、目を細め佐久夜にそっと頬ずりをした。
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