48 京平の下心
全身の毛を逆立てて威嚇する朧と対照的に、京平は呆然と棒立ちになって目の前の女性を見つめていた。
「久しいのう…逢魔」
「そんな名は、とうに捨てたにゃ」
クスクスと笑いながら、女性は手首に巻かれた黒いファーに唇を寄せた。
「そうだったのう。妾の元をコレと引き換えに去ったんじゃったのう」
ゆっくりと口角を上げ、笑顔を見せる。
朱丸が、不安そうな表情をして佐久夜の袖を掴んできた。
浅葱は、膝をついて、礼の姿勢をとっていた。
周りを見れば、人も妖の両手を合わせ、拝むように礼をしていた。
「ひい様!急に社から出て行かないでくだされ」
女性の後ろから、鴉天狗数名が大きな声を上げて追いかけてきた。
「じい、久しぶりの客人が来たのじゃ。妾も顔を見たくなったでのう」
客人と言われ、鴉天狗は、目の前にいる佐久夜たちを一瞥していった。そして、朧の前で、視線が固定されると片方の眉をピクピクと上下に動かした。
「逢魔さま?」
「じい!社に戻る。客人たちを連れて参れ」
女性は、くるりと踵を返すと何も無かったように振り返る事なく戻っていった。
朧は、姿が見えなくなるまで、警戒を解く事はなく、京平もその後ろ姿を黙ったまま姿が消えるまで見つめていた。
「さて、お客人方。ひい様が、我が社にて歓談を所望しておりますので、一緒に来ていただけますか?」
にこりともせず、小さくため息を吐いて鴉天狗は、佐久夜たちに声をかけて来た。まるで、面倒だけど、仕方なしにもてなしてやると言わんばかりの態度だ。
「はい、俺は、是非彼女と話をしたい」
「京平!!」
佐久夜たちが答える前に、京平があっさりと鴉天狗に承諾をしてしまった。
「どうせ、会わなきゃならないだろう?だったら、向こうから会ってくれるってのに乗っかるべきじゃないか」
「……そうだにゃ。オイラも覚悟決めてるんだし乗っかるかにゃ」
「だろ?」
普段は、息のまったく合わない二人が、にっこりと微笑みあった。
「京平……何で、お前が彼女と話をしたい」
「えっと、佐久夜…そこ気づいちゃう?」
朱丸、浅葱、朧が、キョトンとした表情で佐久夜を見た。京平は、視線を逸らしながら頭を掻いていた。八つ手の面で、表情は見えないが、佐久夜には予想がついていた。
「な、良いじゃん。親友のために、この通り」
京平は、手を合わせて佐久夜を拝んだ。妖三人は、なぜ京平が、佐久夜を拝むのか理解が出来ない。
「お客人、牛車を用意していますので、ご足労いただけますか?」
「はい、今行きまーす」
京平が、佐久夜の追求を逃れるため、鴉天狗に手を挙げて明るく答える。
佐久夜は、小さくため息を吐いた。
モチベーションにつながりますので、
楽しんで頂けた方、続きが気になる方おられましたら、
評価、ブックマーク、感想、宜しくお願いします!




