4 廃神社
小人もとい神さまは、懐から大幣という棒の先に解された麻紐が括りつけられている物を取り出し、佐久夜を数回払った。
「うむ、穢れを払った。ついて来るのじゃ」
周りを強い風が舞い、佐久夜は一瞬目を閉じた。ざざっと竹林がしなる音が聞こえたかと思うと、御神体の脇に今まで無かった道が開いていた。
「ウソん」
「少しは、我が神と信じたか?」
神さまは、少しばかり揶揄うように佐久夜に語りかけると、開いた道の奥へ進んでいった。佐久夜は、慌てて荷物を持って立ち上がり、神さまを追いかけた。
ふよふよと浮きながら進む神さまの少し後ろを佐久夜は歩く。竹林の隙間から漏れてくる木洩れ日が、とても幻想的で綺麗だと思った。
「なんか清々しい場所じゃね?」
「そりゃ、我の神域の中じゃからのう。ほれ、新道を抜けるぞい」
「………うわぁ」
道を抜けると、少し開けた場所の真ん中に、何とも云えないくらい朽ちた社が建っていた。
「ボロい…」
「仕方なかろう。ずっと放置されてたんじゃ。ほれ、そこの清水で、手と口を清めるのじゃ。杓がない故素手で構わん」
神さまが指し示す場所を見ると、岩の隙間から、ちょろちょろと水が流れていた。
「えっと、生水じゃないのか?腹壊したりしないか?」
「うむ、安心せい。生水じゃない、歴とした清水じゃ」
「飲めるのか?」
「うむ、飲むと内の穢れも浄化できるぞい」
佐久夜は、清水に近づき右手、左手と洗った後、両手で清水を受け、口を濯いだ。
「あ!」
ふんわりと温かな何かが、身体を纏い包んでいった。
「よし、では社の中に案内してやろう」
「えぇ?床抜けんじゃねぇ」
佐久夜は、恐る恐る足場を確かめて社の中に入った。ギシリ、ギシリ床が軋みながら音を鳴らす。神さまは、正面の棚から盃を三宝の上に置くと、神棚から徳利を取って、盃に注いだ。
「神使の儀じゃ、その盃を飲み干すが良い。我からの盃を受けることで、我に仕える神使となるのじゃ」
佐久夜は、三宝の前に座り、盃を手にした。
「飲み方とかしきたりはあるのか?」
「ないぞ。飲み干すだけで良い」
そして盃を口に当て一気に飲み干す。
「佐久夜よ、これでお主は我の神使となった。この社の管理を頼むぞい」
「………ハァ?管理だ、どういうことだよ」
「我は、神ぞ。社の管理はしておらぬ。この朽ちた具合で判るとかと思うぞ」
目の前の小さな神さまは、胸を張って堂々と社の管理はしていないと言い放つ。
「じゃあ、神さまって何ができんの?」
「うむ、良い質問じゃ。我にできるのは願いを願うことのみ。願いが叶うかどうかは、その者達の行い次第じゃ。行動無くして、結果は得られん」
「えっと、願いって彼女が欲しいとか、金が欲しいとかか?」
正解だと神さまは、頷いた。
「彼女が欲しい、即ち恋愛運じゃ。金が欲しいは、金運かの。願いを我が願えば運気が上がる。後は願い人が、上がった運気を元に行動する。その結果、願いが叶うか叶わぬかは、願い人が行動した過程次第じゃ」
「何もしなければ?」
「他力本願は、神の技では無い。仏門の教えじゃ」
「ふーん、じゃあさ、神さまは何の願いを願えんの?」
今まで饒舌に語っていた神さまは、突然黙り込んだ。明らかに肩を落として、しょぼくれた雰囲気を醸し出していた。
「我は、名が無い。それは、神格を与えられただけなのじゃ。お主が現れなければ、あのまま神体で目覚めることはなかったろう」
「何だろう、すごく俺責任ある感じ?」
「佐久夜のせいでは無い。我に元々力が無いだけじゃ。力有れば、願い自体が神を呼び起こす。力無ければ、廃れ朽ちる。それだけのことじゃ」
佐久夜は、改めて神さまが、自分と同じ境遇なのだと理解した。
「そっか、神さまも人間と一緒なんだな。エリートもいれば、落ちこぼれもいる。アハハ、俺たちそれで良いんじゃね?」
佐久夜は、ニッカリと微笑んだ。
「俺が願ってやるよ!神さまが立派な神さまになれるように」
「佐久夜!!」
思いも寄らぬ佐久夜の言葉に、神さまは駆け寄り抱きついた。というか、佐久夜の腕にしがみついた。
「我も、佐久夜のその願いを願うぞ!」
ちょっぴり、神さまと佐久夜の神力が、向上した。
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