34 天狗の鼻が長い理由
「おぉ?オマエ、お子様だったのか?」
先程まで、大きくて筋骨隆々だった天狗。朧が腕に齧り付き、妖気を吸い取ると大きな身体が、みるみる小さくなっていった。
「いえ、蓄えていた妖気の殆どを差し上げましたので、俺の身体が元の大きさに戻っただけです」
「ふーん」
「ぷはっ。ごちそうさまにゃ。朱丸、風呂敷の中身に神社の水はあるかにゃ?」
「うん、あるよ。神さまが持っていけって用意してくれた」
朱丸は、いそいそと風呂敷包みを開けると、竹筒の水筒を朧に見せた。
「天狗に渡してやるにゃ。その水で傷を洗えば、朱丸にやられた火傷は治るはずにゃ」
朱丸は、朧に言われた通り、天狗に竹筒を渡した。天狗は、朱丸、朧を交互に見た後、栓を外して中身の水を火傷に振りかけていった。えぐれた肉、焦げた皮膚、痛々しかった火傷が、光を帯びて治癒されていく。
「この水は、『オモテ』の清水ですか?」
「そうにゃ!オイラたちは、『オモテ』の妖にゃ」
「そうとは知らず、大変失礼しました!」
天狗は、土下座をして謝り出した。
「かまわないにゃ。……ちなみに、オイラ、八つ手の葉を探してたんだけど、何処にあるか教えてくれるかにゃ?」
「知っております。案内しましょう、朧さま」
背中の羽根パタパタさせ、嬉しそうな笑顔を見せた天狗は、八つ手が生息している場所に朧たちを案内する為に立ち上がった。
「朧さま、朱丸さま、こちらです。俺について来てください」
「朱丸さま!?」
いきなり『さま』呼びをされ、朱丸は驚いたが、朧は平然としていた。
「いやいや、『オモテ』の妖とは、神の御使さまではないですか。しかも名が与えられているとは、妖としても高貴な証拠。呼び捨てなんて恐ろしくてできません」
「そうなの?」
天狗の説明に目をぱちくりさせる朱丸は、朧に尋ねた。
「ちんちくりんでも、一応は、神だからにゃ。七光りは使える時に、使うのもんにゃ」
「でも、僕たちの名前は、佐久夜兄ちゃんが名付けたんだよ?」
「佐久夜は、ちんちくりんの神使にゃ。オイラたちは、神使と契約を交わした妖にゃ。同じことにゃ」
朱丸に、妖の先輩として説明をする朧だが、その顔は、未だ泥だらけで汚れていた。
「だけど、オッチャンどうして神社から突然いなくなったんだ?」
「あ……う…。それは…京平に、『ウラ』に来る方法を喋ってしまったからにゃ」
朱丸に聞かれ、自分の失態を思い出してしまった朧は、歯切れが悪いが朱丸に経緯を説明した。
「じゃあ、鏡を合わせて道が開いたって事?」
「そうにゃ…まさか、実践するって思わなかったにゃ」
「じゃあ、佐久夜兄ちゃんも京平兄ちゃんも無事なんだね。良かった」
佐久夜の気配は、朱丸も感じ取っていたが、実際にまだ会えていない。朧から見られた無事を聞かされ、ほっと胸を撫で下ろした。
「なんと、他にも#御使__みつかい__#さまが、お越しになっているのですか?」
「うん、佐久夜兄ちゃんって言って、僕のご主人さまだよ」
「なんですと!それは是非、お会いしなければ…」
力強く拳を握る天狗。朱丸は、佐久夜が崇められるのが嬉しくて、天狗に佐久夜について語った。
「だけど、ずいぶん性格変わってない?」
「朱丸が、鼻をへし折ったからにゃ。天狗は、鼻が長ければ長いほど、攻撃的な性格にゃ」
朱丸は、ふよふよと天狗の顔に近づき、覗き込む。天狗は、朱丸にまじまじと見つめられ、頬を赤らめた。
「さっきは、痛くしてごめんなさい」
「いえいえ滅相もございません。俺こそ、朧さまを食べてしまおうと襲ってしまい、申し訳ありませんでした!」
「え?オッチャン食べられそうになってたの?」
「………オイラが、食べてやるつもりだったにゃ。実際、食べたのは、オイラだし」
プイっとそっぽを向いた朧。だけど、朱丸が現れなかったら、朧は無事ではなかったろう。
「朱丸。助かったにゃ」
礼を述べ、顔を泥だらけにした朧は、スタスタと前へ歩いていった。思いがけず礼を言われた朱丸は、にっこりと満面の笑みを浮かべた。
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