33 青い炎
「アハハハハハハ!オッチャン、顔泥だらけじゃん!」
後ろを振り返った朱丸は、朧の顔を見るなりケタケタと腹を抱えて爆笑していた。ボロボロの朧を揶揄うように、ふよふよ飛び回っている。
「グゥゥッ」
鳩尾体当たりをかまさた天狗は、朱丸の後ろで蹲って呻いている。天狗の呻き声を聞いて、朱丸は、自分が突進して突き飛ばしたことを思い出し身構える。
「オマエ、オッチャンを虐めた悪い奴!」
「ハァハァ、クソ餓鬼の分際で…ハァハァ…」
「オッチャン、これ持ってて」
朱丸は、風呂敷包みを朧に預けると、天狗に向かい合った。大きく息を吸い込んだ朱丸は、妖気を静かに燃焼させていく。
オレンジ色の身体が、黄色、白色と変化していった。
「朱丸!その長い鼻をへし折ってやるにゃ!」
「おう!」
白色になった朱丸は、ぐるぐると回りながら速度を上げていく。白色の身体が青味ががかった色へとさらに変化した。
天狗は、朱丸を叩き落とそうと八つ手の葉を振り落とす。朱丸に触れた瞬間、八つ手は姿形なく燃え尽きた。
「この!天狗の妖気を纏った八つ手を…」
朱丸は、天狗の周りを駆け巡る。身体の側を朱丸が走るだけで、身体の肉が焦げて削ぎ落ちていく。腕、脚、翼、色々な部位が爛れていく。朱丸に触れていなくても、水ぶくれを通り越して肉がなくなる。
天狗は、必死に朱丸を避けているが、側から見ると一人で踊っているように見えた。
「やめて、やめてくれ!俺が悪かった」
天狗は、涙を流して許しを乞うた。
「えい」
朱丸が、小さな手で天狗の鼻先をチョンと触ると、長い鼻がどろりと解けて地に落ちた。
「んぎゃあぁぁぁぁ」
「大袈裟だなぁ。オマエ妖だろ?」
完全に戦意を喪失した天狗は、短くなった鼻を押さえながら泣き喚いていた。
「オッチャン!僕どうだった?強かった?」
自身の活躍を褒めて欲しくて、朧にキラキラした表情で朱丸は迫った。
「ハァ…三十点にゃ。天狗、悪かったにゃ」
「えー!どうして!僕、勝ったのに」
「大バカにゃ!白いままで十分だったにゃ!鼻を折るだけで、良かったにゃ!手も脚も翼も、使えなくなるところだったにゃ」
朧は、泣き崩れている天狗の側にたった。
「天狗、オイラに妖気を分けて欲しいにゃ。そうしたら、鼻以外全部治してやるにゃ」
喉も焼かれて声が出せなくなった天狗は、コクコクと頷くと朧に腕を差し出した。
「うにゃ、いただくにゃ」
朧は、天狗が差し出した腕にガブリと噛みついた。
「三十点かぁ、チェッ」
妖気を充填している朧の側で、朱丸は肩をしょんぼりと落としていた。




