21 神さまの頼み事 その2
神さまは、食事の為ずり上げていた愛嬌ある招き猫の顔をした面を被り直し、姿勢を正した。
「佐久夜には、常に感謝の限りだ。我のために、社をここまで盛り立ててくれて礼を言うぞ」
神さまは、ペコリとお辞儀をした。
「我も神として、名を授けられる様努力を惜しまぬ事を誓うぞ。その為に手始めとして、我に捧げてほしい物がある」
「ちんちくりん、勿体ぶるにゃ!欲しい物を早く言うにゃ!」
すっかり神さまをちんちくりんと、呼び方が定着してしまった朧に佐久夜も苦笑いを浮かべる。
「わかった、俺神さまが欲しい物を用意するよ。何が欲しいんだ?」
「……鏡を、我に神体となる鏡を奉納して欲しい」
神さまは、佐久夜にしっかり頼み事を伝えた。
「この社に命を灯す為には、我の依代となる鏡が必要じゃ」
神さまは、深く腰を折り額を床に擦り付け頭を下げた。
「神さま、頭を上げてよ。俺は、神さまの神使なんだろう」
神さまは、顔を上げる。佐久夜は、神さまと目が合うとにっこりと微笑んだ。
「うむ、佐久夜は、我の神使ぞ」
「じゃあさ、いつもの様の献上しろってぐらいで良いんじゃね?」
「じゃが…」
「ほら、朱丸も心配してるよ」
佐久夜の後ろから、こっそり顔を覗かせる朱丸。目が合うと、パッと佐久夜の後ろに引っ込んだ。
「ちんちくりん!まさか、迷惑をかけるとか思ってるんじゃにゃいか?」
丸くなって様子を見ていた朧が、ゆっくり立ち上がり、グググっと前脚を投げ出し、伸びをする。短い尻尾が二つピンっと点を向いている。
そしてゆっくりと佐久夜の側に来て、当然かの如く膝の上に乗ってきた。
「おバカさんにゃ!このちんちくりん!とっくに迷惑かけてて、今更何言うにゃ!」
「いや、俺は迷惑かけられてないよ?むしろ感謝してるくらいだぞ」
膝の上から佐久夜を見上げ、朧はハァっとため息をついた。
「普通、廃神社の神使にゃんて、面倒ごと喜んでやるヤツ、佐久夜くらいだにゃ。ちんちくりんもちんちくりんで、佐久夜にガラにもなく遠慮しているにゃ」
さあ撫でろと言わんばかりに、佐久夜の膝で丸くなる朧。佐久夜は、朧の背中に指を入れて手櫛で背中を撫でまわす。
「神さま、鏡が必要なんだね」
「うむ、我も佐久夜に恥じぬ神となりたい」
「わかった、神さま一緒に探そう」
佐久夜の答えを聞いて、神さまの肩の力が抜けていくのが目に見えてわかった。
「何か急に腹が減ったぞ」
「神さま、マヨネーズいる?」
「うむ、マヨネーズを献上するが良い」
神さまが、トマト全てにマヨネーズをたっぷりかけると、慌てて朱丸が飛び出てきた。
「神さま、僕のトマトまで食べるな!」
神さまと朱丸のおかずの取り合いが始まった。




