17 猫又の思い その2
皆が寝静まり、神社が闇に包まれると猫又は、そっと足音を立てずに土間に入った。
やはり、用意されている猫又のご飯。ただ、いつもと違うのは、側に綿がしっかりと詰まった紺色の座布団が置かれていた。
「それ……佐久夜……兄ちゃんが……持って帰ってきた……猫……に…どう…ぞ」
釜戸の中でうつらうつらしてい朱丸が、猫又の気配に気づき、寝ぼけながら話してきた。
「おい、鬼火の小僧!」
猫又が話しかけたが、朱丸は再び夢の中に落ちていた。ご飯を食べた後、座布団の上に乗ってみる。ふっかりと体が沈み、心地が良い。
「何でかにゃ…」
付かず離れず邪険にされず。まるで、ここにいても良いんだよと、暖かく包まれる。優しい気持ちが、猫又を癒やしていく。
………ッ!
猫又の耳がピクリと動く。誰の耳にも届かなかった小さな物音。何かが小石を蹴った音。
猫又は、ゆっくりと座布団から立ち上がる。
風で笹の葉が揺れる音。闇に紛れて黒くしなやかな身体は、社の外に出た。音がしたのは、境内の壁が崩れている穴。猫又は、体を低くして地面を這う様に進んでいく。
ザッザッと石を蹴る足音。壁の穴から足音の主が姿を見せた。
「ひくいどり…にゃ」
猫又は、神さまから聞いた事を思い出す。朱丸は、ひくいどりに喰われかけたところを佐久夜が救い出したと言っていた。
朱丸は、炎の妖気を増幅するべく、日々鍛錬をしていた。この神社は、炎の妖気が充満している。
「狙いは、あの鬼火の小僧にゃ」
空腹な目をギラギラさせて、涎を垂らしながら、ひくいどりは真っ直ぐに釜戸のある土間へ向かって行った。
妖の世界は、弱肉強食。弱ければ一瞬で強者に喰われる。それが、妖の理。弱いながらも佐久夜のために、修練に励む朱丸の姿を猫又は思い出す。
神さまと佐久夜と楽しそうに過ごす朱丸。眠くて仕方がなかったのに、猫又に座布団について話しかけてきた朱丸。
「クソにゃ!」
猫又は、闇の影から飛び出し、ひくいどりの喉元に喰らいつく。
強靭な猫又の顎が、ゴリっと鈍い音を奏でた。瞬殺。喉元に開けられた穴からひくいどりの妖気が溢れて洩れ出した。
霧散していく妖気とともに、ひくいどりは、ただの獣だった頃の骸に戻っていった。完全に骸となると、骸はサラサラと塵となり消えていった。
猫又は、何もなかったかの様に土間に戻ると、座布団の形を整え上に乗った。位置が定まると、丸くなって釜戸で幸せそうな顔をして眠る朱丸を一瞥し、金色の瞳を閉じた。
そして何事もなかったかの様に朝日が昇る。
佐久夜は、座布団の上で、気持ち良さげに眠る猫又を見て、嬉しくて目を細めた。
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