12 猫
神社がある竹林は、人里から少し離れている。街灯もポツリ、ポツリと距離が有り、陽が落ちれば暗闇が広がる。
佐久夜は、【貮号】のヘッドライトを頼りに、夜道を進む。
ニャウン
竹林の入り口付近で、佐久夜は猫の鳴き声が聞こえた。【貮号】のブレーキをかけ足を止めて、周囲を見渡す。
ニャア
佐久夜の足元に、身体を擦り付ける丸っとした顔付きの黒猫を発見。
「おぉ!真っ黒だから、気付かんかった」
グルグルと喉を鳴らしながら、佐久夜の足に纏わりつく。
「ハハッ。人懐っこいニャンコだなぁ」
佐久夜は、【貮号】のストッパーを立てて黒猫の側に座った。丸々とした愛嬌のある顔、両手で首元をわしゃわしゃ撫でてやると、気持ちよさそうに首を伸ばした。
「ちょっと待ってろ」
バイト先で貰った弁当を開けると、唐揚げ五個、海老フライ二本、赤ウインナー二本が入っていた。
佐久夜は、手頃な落ち葉を見つけ皿代わりにして、唐揚げを一つ乗せた。
黒猫は、大きく目を見開くとジッと佐久夜を見つめた。
「唐揚げ、一つだけどお裾分けだ」
にゃーっと黒猫は、一鳴きすると、パクパクっと唐揚げをあっという間に平らげた。まだまだ欲しいと言わんばかりに、佐久夜の膝をカリカリっと軽く爪を立てるが、佐久夜は後ろ髪を引かれる思いで立ち上がった。
「悪いな、おかずを楽しみにしている奴が、他にもいるんだ。また、今度会えたらお裾分けしてやるよ」
お弁当の蓋をしっかりと閉めて、ビニール袋にしまうと、【貮号】のカゴに乗せた。
もう一度、黒猫を撫でるとそのまま【貮号】に跨り、ペダルを踏み込んだ。
「じゃあな」
手を振って、佐久夜はその場を去っていった。
「提灯よーし、灯籠よーし、行燈よーし」
朱丸は、神社周りの提灯、境内の灯籠、社の中の行燈に全て明かりが灯されているのを確認していく。
「あぁ、早く佐久夜兄ちゃん、帰って来ないかなぁ」
点検を繰り返しては、参道の入り口まで行き、佐久夜が見当たらないとまた灯りの点検を繰り返す。
遠足前の小学生の様に、胸を躍らせて佐久夜の帰りを待っていた。
「朱丸よ、ジッと待って居れんのか?我の気が散る」
神さまは、組み紐をぎっちら、ぎっちらと編み込んでいる。朱丸に呆れた口調で諭すが、その声はとても優しかった。
「でもさぁ、佐久夜兄ちゃん、いつもより遅くないか?」
「ふふん、赤ウインナーが食べたいだけじゃろ?」
「ムッキー!神さまだって、海老フライ楽しみにしてるんだろう!」
朱丸に対して余裕を見せる神さまだったが、マヨネーズの魅力にはまってから、タルタルソースを塗した海老フライを想像して、腹の虫が騒ぎ出す。
「確かに、ちと佐久夜の帰りが、いつもより遅いかもしれんのう」
「僕、ちょっと竹林の入り口まで迎えに行ってこようかなぁ」
「仕方ないのう、我も付き合うぞ」
朱丸と神さまは、帰りの遅い佐久夜を迎えにいく事にしたのだった。
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