55. 処罰
聞き取り調査が終わり王宮を出る時には、もう外は真っ暗になっていた。クライヴ様は始終私のそばに付き添い、帰りも馬車寄せまで肩を抱いて送ってくださった。
そこには深刻な表情をした父と兄の姿があった。……知らせてくれたのも、クライヴ様だろう。兄は私が現れるやいなや駆け寄り、息もできないほど強く抱きしめた。
それから数週間。調査と対応は迅速に進められた。
エメライン王女が王妃陛下の名を騙り、通行証を偽造し、貴族令嬢を私的空間に誘い込み暴行を加えようとしたという前代未聞の犯罪行為。その全容は、しばらくして判明した。
協力者は、王妃陛下付きの侍女だった。
今回の事件のふた月ほど前、彼女は王宮内で一人の文官と不貞行為に及んでいたところを王女に目撃され、その弱みを握られていたという。
『信頼していたご自分の侍女があんなことをしていただなんて、お母様が知ったらどれほどお嘆きかしら。あなたも、あなたの実家も、お咎めは免れないわね。……でもね、安心して。あたくしは慈悲深いの。あなたがあたくしのお願いを聞いてくれるのなら、あたくしが見てしまったものは胸の中にしまっておくわ』
王女に脅された侍女は、王妃陛下の印章を勝手に持ち出し、通行証を偽造した。そしてルパート様を王宮内に手引きし、さらに私が王宮を訪れるよう、王妃陛下からの呼び出しだと偽り誘導した。案内を担当した衛兵は、この侍女に上手く騙されていたにすぎなかった。
事実を白状した彼女は、王妃陛下の印章を不正使用した罪により、長期間の拘禁刑が科せられることとなった。さらに王宮侍女の資格を剥奪され、その後は王宮からも永久追放されることが決まった。この取り調べ中に名が上がった、侍女の不貞行為の相手である文官も、芋づる式に処罰されることになったという。
ルパート様は、王妃陛下の名で偽造された通行証を使い王宮へ侵入した罪、貴族令嬢への暴行未遂で、取り調べ終了後、投獄された。
また、彼の実家であるフラフィントン侯爵家にも厳しい審問が行われた。
侯爵家が意図的に関与した事実はなかったものの、嫡男の重大な犯罪行為と、過去の我が家との婚約破棄による多額の違約金、さらに社交界での信頼失墜が重なっており、損害は深刻なものとなった。
結果として、フラフィントン侯爵家は爵位の返上と家門の縮小を命じられ、侯爵家の地位を失うことになった。元侯爵夫妻は田舎の小さな屋敷へと移り住み、残されたわずかな領地は、元侯爵の弟が継いだようだ。
けれど、領地に社会的信用、財産に家臣たち……。その何もかもを失ったフラフィントン家の残骸は、再興などほぼ不可能と思われた。
ルパート様は、実家から勘当されたそうだ。今は投獄された牢屋の中で、うつろな目で宙を見ながら日々を過ごしているらしい。
そして、王族でありながら王妃陛下の名を利用し、正式な許可のない者を犯行目的で王宮内部に招き入れ、一人の貴族令嬢を陥れようとした、全ての首謀者であるエメライン王女。
彼女は王宮からの永久追放という、王族としては非常に重い処罰が下された。
取り調べ中、彼女はずっと錯乱していたらしい。クライヴ様を自身の「誓いの騎士」なのだと妄信する奇妙な精神状態にあったことも考慮され、外面上は静養の名目がとられた。けれど、それによって罪が軽減されることはなかった。
彼女が送り込まれたのは、王都よりはるか北方に位置する、古い石造りの離宮だった。冬になれば深い雪に閉ざされ、春になっても外界の音はほとんど届かない、寂しく暗い場所。ここで彼女は、生涯を送ることになる。
外出は決して許されず、そばにいるのは最低限の人数の侍女だけ。さらに面会に訪れるのも医師のみだとか。
幼い頃に読んだ絵本の世界に逃げ込んだ彼女が現実と向き合う日は、永遠に訪れないのかもしれない。
人の少ない区画で起こった事件ではあったけれど、あの日の大きな騒ぎは、たまたま近くの回廊を通りかかっていた、とある貴族家の人間に目撃されてしまっていたらしい。
事件はそのたった一人の口から、あっという間に社交界全体に広まった。繊細な王女が心を病み、静養のために王宮を離れることになったなどと通達が出たけれど、送られた場所が北の離宮であったことも含め、誰もが真相を察してはいた。
けれど、王家の醜聞を大っぴらに追及する者はおらず、かくして、王女の狂気に端を発した事件は幕を閉じたのだった。




