47. 王妃陛下からの呼び出し
サザーランド公爵領への旅は、一生の思い出になるであろう素晴らしいものだった。
王都に帰ってきた私は、長期休暇の残り少ない日々を、家族やノエリス、そしてクライヴ様と楽しく過ごした。
以前から約束していたとおり、ノエリスともあのラプルのカフェに足を運んだ。そこでサザーランド公爵領のお土産を手渡すと、彼女はとても喜んでくれ、クライヴ様の優しさや気遣いを手放しで褒めていた。
カフェに行く時には事前に知らせてほしいと言われていたので、クライヴ様には伝えていた。そのためか、対応は至れり尽くせりだった。満席にもかかわらず個室が準備されており、それぞれが注文したもの以外に、私たちだけの特別メニューが提供された。
「まだ店では出していない、試作の菓子でございます」
にこやかに挨拶に来た店主が、そう説明してくれた。
帰り際にはお土産も手渡され、さらには「お代はすでにサザーランド様から頂戴しております」と、店主が恭しく頭を下げていた。ノエリスは大満足で帰っていったのだった。
こうして楽しい休暇はあっという間に終わり、新学期が始まった。勉強に、友人たちとのお喋りに、そしてタウンハウスに戻ればサザーランド公爵領についての勉強や高位マナー教育に。息つく暇もないほど、毎日が忙しく、そしてとても充実していた。
そんなある日のことだった。
学園から帰った私は、居間で母が私を待っていることを侍女から伝えられた。二階の私室に荷物を置いて着替えると、階下に下り居間へと向かう。ソファーに座って手元の書簡を見ていた母が、私に気付き顔を上げ、目を輝かせた。
「あら、お帰りなさい、ローズ。……つい今しがたね、王宮から使いが来たのよ」
「ただいま、お母様。……王宮から?」
ローテーブルを挟んだ向かいのソファーに腰かけると、母は興奮した面持ちで、持っていた書簡を封筒とともに私に差し出してきた。
厚手の上質な紙。封には、王妃陛下の紋章が押されている。その宛名は私になっていた。
(どうして王妃陛下から、私にお手紙が……?)
胸の鼓動が早くなる。
これまで一度として、王妃陛下と直接的な関わりなどなかったのに。
震える指で書簡を開くと、丁寧な筆跡の文面が目に入った。
『王妃陛下より
このたびの、サザーランド公爵家ご子息クライヴ殿とのご婚約につき、ロザリンド・ハートリー伯爵令嬢におかれましては、将来の公爵夫人としての心得、並びに宮中における振る舞いについて、王妃陛下より直接お話し申し上げたく存じます。
明日午後二時、王宮に参内なさいますよう──』
侍女が書いたと思われるその内容に、思わず母と顔を見合わせる。
「王妃陛下御自らが、あなたにお会いになるそうよ、ローズ」
「え、ええ……」
無意識にそう返事をしながらも、私はなかば呆然としていた。まさか王妃陛下から、私個人に宛てた手紙が届く日が来るだなんて……。
サザーランド公爵夫人となれば、いつかは王妃陛下と接することもある。そうは思っていたけれど、突然のお呼び出しに驚き、鼓動が速くなる。
母が立ち上がり、いそいそと隣に移動してくると、私の両手をそっと握った。
「サザーランド公爵令息であるクライヴ様の婚約者として、あなたがそれだけ重んじられている証よ。お母様、胸がいっぱいだわ」
「それは、もちろん私もだけど……あ、明日ですって。急なお呼び出しよね」
「ええ。王妃陛下ともなればとてもお忙しいでしょうし、どうにか時間を作ってくださったのかもしれないわね。こちらも急いで準備を整えましょう」
母はまるで自分に言い聞かせるように、力強く頷いた。そして私の手を引くと、張り切って私の部屋へと向かった。
夜、食事の席で父と兄にそのことを伝えると、二人は驚きつつも頑張っておいでと励ましてくれたのだった。
翌日は早朝から侍女たちの手を借り、準備を整えた。
選んだのは、柔らかく落ち着いた色合いのシェルピンクのドレス。胸元と袖口には繊細な銀糸の刺繍が施されているものの、過度な派手さはない。サザーランド公爵令息の婚約者として恥じることのない品格を保ちつつ、王妃陛下の御前でも失礼のないよう意識し、控えめな装いを選んだ。
アクセサリーは小さな真珠の耳飾りと、同じく真珠を一粒だけあしらった控えめな首飾り。髪は緩やかに編み込み、後ろでまとめ上げてもらった。決して盛りすぎず、ただ品よく整えただけのまとめ髪だ。ところどころに小さな真珠の髪飾りを差し込んだため、動くたびにそれらがかすかに輝く。
母に見送られ、私は侍女一人を伴って馬車に乗り、王宮へと向かったのだった。




