40. 甘く幸せな休暇
新商品の中から三つを選んで、二人で分け合って食べる。どう切っても崩れてしまいそうなムースやシューのタワーを、クライヴ様はいとも簡単そうに美しく切り分けてくれた。個室の中に控えている店員が、温かい紅茶を注いでくれる。
「……このタワー、とても綺麗に食べられそうにありません」
「そんなことは気にしなくていい。個室だし、俺しか見ていない。好きなラプルを君が存分に楽しんでくれれば、それでいいんだ。……ほら」
ナイフとフォークを持って格闘している私のそばに自分の椅子を近付けたクライヴ様が、隣から手を伸ばして小さなシューを一つフォークに刺し、私の口元に運んでくれる。びっくりして肩が大きく跳ねた。
「ク、クライヴ様……っ! こ、これじゃまるで、私が子どもみたいです……っ!」
「ふ……、いいじゃないか。たまにはそんな姿を見せてくれても。俺は大歓迎だ。ほら」
「……っ」
目を細めてそんなことを言うクライヴ様の楽しげな表情も、甘やかすようなその言葉も、胸が痺れるほどときめいてしまって。
急かすように口元に運ばれるシューを、観念して口を開き受け入れる。頬が焼けるほど熱くなった。
「…………おいひいです」
「……いいな。このメニューは二人きりで食べるためのものだな」
以前よりもずっと分かりやすく、私への愛情を表してくれるクライヴ様。そんな彼に翻弄される私の胸は、彼への愛おしさと喜びでとめどなく満たされていく。
あまりにもじっと見つめられるので恥ずかしくて、私は彼から目を逸らした。
「そ、そういえばノエリスも、ここに来たいと言っていたんでした。二学期中は結局一度も一緒に来られなくて。休暇が明けたら連れて来ようと思います」
ムースを口に運ぶ合間にそんな話をしてみると、クライヴ様は優しく微笑む。
「ああ。店に話を通しておくから、行く時はよければ事前に教えてくれ。……この休暇中は、俺がほとんど君を独占させてもらうことになるからな。サザーランド公爵領で、彼女への土産も選ぼうか」
そう言いながら、クライヴ様はこちらに手を伸ばし、私の口元をそっと指でなぞった。驚いて少し飛び上がると、クライヴ様はその指先についていたムースを自分の口元に持っていき、ぺろりと舐めた。
「〜〜〜〜っ!!」
なんだか妙に妖艶なその仕草と表情、そして口の端にムースをつけながら食べていたらしい自分のみっともなさに、全身が燃えるほど熱くなる。
呆然とクライヴ様を見つめながら、息が止まりそうになった。けたたましく打ち続ける心臓が、今にも外に飛び出してしまいそうだ。
激しく動揺する私とは裏腹に、クライヴ様はとても満足そうに目を細めた。
「すまない。君とこうしてゆっくり過ごせるのが嬉しくて、少しはしゃぎすぎた。……だが、個室はいいな。また来よう」
(な、なんだか……最近のクライヴ様は以前とは別人のようです……)
照れる私のことを見つめているクライヴ様は、無骨で無愛想ないつもの彼とは違い、蕩けるほど甘い恋人の顔をしていた。
その翌週、ついに私はクライヴ様とともにサザーランド公爵領へと向かった。
公爵家の紋章が刻まれた大きな馬車で現れたクライヴ様は、私の家族に丁寧に挨拶をすると、自ら私をエスコートしその馬車に乗せてくださった。いつもお迎えに来てくださるものよりもさらに広くて、豪奢な馬車だった。
クライヴ様が乗り込み御者へ短く指示を出すと、馬車は静かに動き出す。その後ろには、荷物を積んだ馬車が続く。サザーランド家の護衛騎士たちがそれぞれ馬へ跨り、前後に距離を取りながら続くのが窓越しに見えた。
馬車の中には、私とクライヴ様、そして向かいの席の隅に控える私付きの侍女だけだ。気分が高揚し、私は隣に座るクライヴ様に笑顔を向けた。
「ついにサザーランド公爵領をこの目で見ることができるんですね。とても楽しみです……!」
「ああ。王都を出て丸一日で、公爵領内に入る。領地は広大で全てを見てまわることはできないから、今回は数ヶ所に絞って回ることにしよう」
「はいっ」
行程を説明してくださるクライヴ様にそう返事をし、私は小窓から外へと目を向ける。すっかり見慣れた王都の石畳を、馬車がゆっくりと進んでいく。もう待ち切れない。サザーランド公爵領、きっととても素敵なところなんだろうな。
「ロザリンド嬢、この馬車は他のものに比べてあまり揺れを感じない仕様になってはいるが、疲れたら気にせず俺に体を預けて休むといい。眠っても構わないぞ」
「い、いえ、そんな……。ありがとうございます、クライヴ様」
優しい言葉に振り返りそう返事をすると、クライヴ様は目を細めて私の髪をそっと撫でた。照れくささと嬉しさで、胸が甘く締め付けられる。
初日は時折休憩を挟みながら王都を進み、ホテルに滞在することになった。私には、当然クライヴ様とは別の部屋をとってくださっていたけれど、隣の部屋に彼がいるのだと思うと無性にドキドキして、なかなか眠れなかった。
そのせいか、翌日昼間の移動中に、馬車の中で本当にうたた寝をしてしまい、気付けばクライヴ様の肩にもたれかかっていた。飛び上がるように起きた私は、顔を火照らせながら謝罪する。するとクライヴ様は、「……寝顔が可愛かった」などとぼそりと言い、私はますます体温が上がったのだった。




