37. 事件の解決
殺伐とした雰囲気の大ホールの中で、女子生徒たちはいくつかのグループに分かれ、小声で会話をしていた。彼女たちは時折、こちらをちらちらと窺っている。ハンカチを口元に当てすすり泣いている王女のそばには、あの男子生徒たちが侍り、私に冷たい視線を向けてくる。うしろめたいことは何もしていないのに、皆の目つきが辛くて、私は俯き唇を噛みしめた。ノエリスが私の肩を抱き寄せ、ずっと擦ってくれていた。
やがて王宮監察局から派遣されてきた職員による、個別の調査が始まった。私もできる限り心を落ち着かせながら、全ての質問に真摯に答えていった。
皆がようやく解放されたのは、日も沈んでからのことだった。クライヴ様はずっと外で待っていてくださったようで、落ち込む私をタウンハウスまで送り届けてくださった。
さらに、ショックのあまりうまく説明できない私に代わり、クライヴ様は今日の出来事を家族に全部説明してくださったのだ。応接間でクライヴ様から全てを聞いた兄は、案の定激怒した。
「ふ……ふざけやがって……! 一体何の目的でうちのローズを陥れようとしているんだ、犯人は……! いや、どう考えても状況的に一番怪しいのは、おう……」
「ナイジェル、静かにして」
おそらくは王女やその取り巻き男子生徒たちに対して暴言を吐こうとした兄を、母が慌てて制した。
「滅多なことを口走ってはいけないわ。大丈夫よ。調査の結果を待ちましょう。なんと言っても、クライヴ様が現場にいてくださったのだもの。心強いわ。ね? ローズ」
そう言うと、母は私の隣に静かに座り、私の手を包み込むようにそっと握ってくれた。
「ええ。……でも、もしも迷惑をかけることになってしまったら、ごめんなさい」
万が一このまま私が犯人に仕立て上げられてしまったら、ハートリー伯爵家はどうなるのだろうか。サザーランド公爵家とのご縁で業績もぐんと伸び、順調な経営を続けていたのに。
落ち込む私を見て、父は苦笑した。
「何を気弱なことを。大丈夫だ。監察局も馬鹿ではない。間違っても未来のサザーランド公爵令息夫人に冤罪などかけることのないよう、徹底的に調べ上げるに決まっておろう」
「そうだ、ロザリンド嬢。君はゆっくり休んで、何も悩まずに待っているといい。……あとは俺に任せてくれ」
「……はい、クライヴ様」
王女の私物、それも国王陛下が王女に贈られたという、高価な宝石。それを盗んだというあまりにも重い罪を被せられそうになり、気を抜けばすぐに気持ちが沈んでしまう。けれどそんな私を、クライヴ様は何度も勇気づけてくださった。家族も皆同様に、心配するなと笑ってくれる。
翌日から登校停止の措置を告げられていた私は、屋敷の中で祈る思いで、事件解決の知らせを待った。
そしてそれは、予想外に早く私のもとへと届いたのだった。事件から数日後、タウンハウスを訪れたクライヴ様の口から、私はその経緯を聞くことができた。
まず、私が王女に促されレストルームへ向かった時点でも、ブローチは王女の胸元にたしかにあり、複数の列席者がそれを見ていた。
私が花園に戻ってから、王女が花園でショールを羽織る直前まで、王女の胸元にブローチは着いていた、と女子生徒数名の証言が一致したそうだ。
これらの証言に加え、クライヴ様が巡回記録を提出された。それにはガーデンパーティーの最中、王女の取り巻きの男子生徒が淑女科の教室から出てきた時刻と目的が記されていた。彼がその場にいる言い訳にした政務科の教師に確認をとると、その日淑女科の教室に資料を届ける使いなど頼んでいないとのことだった。
取り巻きの男子生徒は当初犯行を否認したが、虚偽申述の刑罰の重さを告げられると蒼白になり、観念したらしい。そして、王女からの指示により、私の専用ロッカーの奥へブローチを置いたことを自白した。問い詰められた王女はしばらく白を切っていたそうだけれど、数々の証言や証拠となる巡回記録に、言い逃れはできなかった。
私は嫌疑なしとして名誉が回復され、出席停止はすぐに解除された。
また、エメライン王女は王宮内での長期謹慎を命じられ、学園からは除籍されることとなった。建前上は「体調不良により学業の継続が困難」とされたが、実際には退学扱いとのこと。けれど、退学という言葉を使うと王家の威信にも関わるため、学園側は避けたようだ。
取り巻きの男子生徒たちは王女の指示に従っただけとはいえ、ブローチを隠し私に罪をなすりつける片棒をかついだ責任は重く、長期停学と王宮での再聴取を命じられたそうだ。彼らが主犯ではないこと、王女の影響力が強かったこと、そして事件を大きくこじれさせまいとする各家の思惑もあり、退学までには至らなかったのだという。ただし、今回の事件に関する彼らの行動は全て記録され、監察局に残された。今後の進路や家名には相当大きな影響が出ることは間違いない。
「君の一時登校停止措置ももう解除された。すぐに学園から連絡が来るはずだ」
「そうなのですね……。本当にありがとうございます、クライヴ様。感謝してもしきれません」
「……婚約者なのだから、何があっても君を守るのは当然のことだ」
(……クライヴ様……)
そのお言葉に胸がいっぱいになり、思わず彼を見つめる。するとクライヴ様は困ったように目を逸らし、小さな声で付け足した。
「巡回に当たっていた騎士の責務でもあるしな」
頬の熱さを自覚しながら俯き、膝の上に揃えた自分の指先を見つめていると、クライヴ様が再び口を開いた。
「それと……、今回の調査の途中、もう一つ分かったことがある」




