30. 王女のガーデンパーティー
「学園の敷地内で、王女がガーデンパーティーを、ですって? 何なのよ一体」
招待状を配られたうちの一人であるノエリスが、眉間に皺を寄せその招待状を見つめている。さっき騎士科の男子生徒の一人が持ってきたものだ。ちなみに私にも、同じものが一通渡された。
おそるおそる開封し、中を確認する。招待状にはこう記してあった。
『親愛なる生徒の皆様へ
このたび私エメラインは、皆様と親睦を深めるために、ささやかなガーデンパーティーを催すことにいたしました。
振り返れば、これまでの私の振る舞いが、知らず知らずのうちに皆様との距離を生んでしまっていたのかもしれません。
そのことを思い、学園長やマナー教師とも相談のうえで、このたびの催しを開く運びとなりました。
花香る中庭にて、紅茶とお菓子を囲みながら、互いの理解を深め合う穏やかなひとときを過ごせましたら幸いです。
皆さまのご参加を、心よりお待ち申し上げております──』
どうやら参加したくないらしいノエリスが、すぐさま学園長に確認しに行ったところ、この招待状が送られたのは特修クラスの女子生徒たちと、他クラスの公爵家、及び侯爵家の令嬢たちに限られているとのことだった。「社交マナーの授業の一環として、特別課外授業という位置付けで開催を認めた」との返答だったそうだ。形式上はあくまでも、将来社交界の中心となる令嬢たちのための学内行事、とのこと。そのため、週末の中庭での開催だが、学園長やマナー教師もその場に同席するらしい。
「何が親睦のためよ。ご自分の評判を上げたいだけでしょう、どうせ。巻き込まれた女子生徒たちもたまったものじゃないわよね。面倒くさいわぁ」
ため息をついてそれらのことを報告してくれたノエリスの隣で、私は不安でいっぱいになっていた。
「……伯爵家の令嬢で招かれているのは、私だけなのね」
「サザーランド公爵令息の婚約者ですものね。呼ばれない方が不自然だわ。……心配しなくていいわよ。あなた、お屋敷でも高位マナー教育の勉強をしているのでしょう? 怖気づくことないわ。何かあれば、私がフォローするしね」
私の不安を見抜いたノエリスが、そう励ましてくれる。
「ええ。ありがとう、ノエリス。あなたがいてくれるから、いつも本当に心強いわ」
そうお礼を言うと、ノエリスは美しく口角を上げた。
「そうでしょう? ……参加者は全員制服着用のこと、って書いてあるわね。でもどうせ、皆髪型やアクセサリーでセンスを競い合うはずだわ。まぁ、学生の私たちにとっては数少ない華やかな行事ですものね。ローズもおしゃれしてくるといいわよ」
「ええ。……ふふ。それはちょっと、楽しみよね」
「そうねぇ」
これがぼさぼさのかつらと黒縁眼鏡着用の頃だったら絶望していたはずだけれど、今回は皆と同じようにおしゃれをして参加できる。そのことを思うと、緊張と不安がほんの少し軽くなった気がした。
そして迎えた当日。私は悩みに悩んだ末、低めの位置で緩やかな編み込みを作ったハーフアップの髪型にしてもらった。髪の留め具はローズクォーツの、小さな飾りピン。制服の赤いリボンの上から、薄桃色の細いリボン結び重ねてみた。小さなパールのイヤリングと、同じくパールのついた小ぶりなブローチを胸ポケットの上に飾る。薄く化粧を施し桃色の口紅を控えめに塗ることで、今日の私のおしゃれが完成した。周りのご令嬢たちに比べれば地味かもしれないと悩んだけれど、王女主催のガーデンパーティーで一人だけ悪目立ちしてしまう方が怖かった。私にはこのくらいがちょうどいい気がする。
登校し中庭へ向かうと、そこは普段よりも格段に華やかに演出されていた。
王宮から取り寄せたものなのか、整えられた芝の上には見たことのない茶器の数々や長テーブル、椅子などが運び込まれ、すでに芸術科の生徒たちによる音楽の演奏までもが緩やかに行われている。
長テーブルには白いクロスがかけられ、フルーツや可愛らしい菓子などを飾った皿が、メイドたちによって次々に並べられている。彼女たちも王宮から派遣されてきたのだろうか。
周囲には数人の王国騎士団の騎士様たちもいて、一瞬どきりとした。けれど、そこにクライヴ様の姿はなく、私は少しがっかりしてしまった。どうせならお顔が見たかった。
続々と集まってくる令嬢たちは、やはり皆華やかだった。普段よりも豪華な髪飾りで髪を高く結い上げたり、襟元に向かって垂らした編み込みの先に小さな宝石の飾りを着けていたり。アクセサリーも私のような小ぶりで控えめなものとは違い、皆家格を知らしめるかのように立派なものを選んできていた。制服姿というルールの中で、誰もが少しでも自分を美しく見せようとしているのが伝わってくる。
「ローズ! それに皆さんも、ごきげんよう」
「っ! ノエリス……」
しばらくして姿を現したノエリスは、やはり一際皆の目を引いた。
真っ直ぐで艶やかな銀髪を低い位置でひとつにまとめ、黒のベルベットリボンで結っている。それだけなのに、その完璧な姿勢と落ち着いた気品が、周囲の空気を自然と引き締めていた。彼女の胸元には、シンプルな濃いブルーの宝石のネックレス。その輝きは彼女の瞳の色と同じで、自身の美しさを際立たせていた。
華美ではないけれど、誰もが「さすがはオークレイン公爵令嬢だ」と息を呑むような、凛とした姿だった。
集まっていた令嬢たちと挨拶を交わし、私はしみじみとノエリスに言った。
「あなたって本当に素敵だわ、ノエリス……。私なんかがそばにいていいのかと気後れしてしまうほどよ」
「馬鹿ね、何を言っているのよ。あなただって本当に素敵なのよ」
ノエリスがそう言ってくれると、私の言葉が聞こえていたらしい何人かの女子生徒たちが、口々にフォローしてくれる。
「そうよ! ロザリンドさんだってとっても素敵だわ」
「ええ。ノエリス様とお二人で並んで歩いている姿、いつも皆の目を引いているんだから」
「本当に……。真っ直ぐな銀髪と凛としたお美しさを持つオークレイン公爵令嬢と、巻き毛の金髪に柔らかで愛らしい雰囲気のハートリー伯爵令嬢。対照的で、一緒にいるととても華やかだわ……! いつも目を奪われていますのよ」
「あ……ありがとうございます、皆さん」
次々と手放しで褒められ、ものすごく照れてしまう。そんな風に見てもらえていたのか。私は常に、別格の輝きを放つノエリスの引き立て役だと思っていたから……なんだか信じられない。
皆で楽しい雑談に興じていると、しばらくしてエメライン王女殿下が中庭に姿を現した。




