願いは流星の中に
夏、甲子園。県予選、優勝決定戦。
タケは汗をダラダラと流しながらも、その集中力は凄まじかった。
投手を見る。ボールを見る。たまに、空も見上げる。
冷静な時ほど、周りがよく見える。
勝てる。絶対に。絶対に、打ってやる。
そう思い、ボールを凝視した。
ボールが、天に昇る。光った気がした。どうしてだろうか。太陽の光だろうか。それとも、何かの魔法だろうか。
投げられたボールを、見て、見ていた。
…気づいた時には、ものすごい痛みと仲間の声が聞こえた。
視界が歪む。目の前には大きな空と、砂埃。
「タケ⁉︎大丈夫か!」
「誰か救急車!」
まだ打ちたい。勝ちたい。どうして…
体が動かない。
「医療係を呼べ!」
「やばいよ!これ!」
みんなの声が聞こえる。
次第に意識がなくなっていく。
二◯一六年、夏。
俺の夢は潰えた。
一年後
「ショウのやつ、車椅子を公園まで来させといて遅刻かよ!」
こっちは久々にボール触れる嬉しさと、もう打てない走れない寂しさに心が少し複雑だっていうのに。
「ごめ〜ん!まったか〜?」
「待ったよ待った!自分から誘っておいて遅刻かよ!」
「ごめんねごめん!」
まあこいつは前からこんなやつだった。
野球部の時は俺がキャプテンでこいつが副キャプテン。
俺のあの事故を間近で見て、まだ仲良くしてる。…まぁ、昔から変わらないやつだ。
あれから部員のみんなは最初こそ見舞いに来ていたが、どんどん来なくなっていった。
それでも来ていたのはショウだけだった。
本当に変なやつ。
「じゃ、投げるぞー」
「あんま速いのは取れねーからな!」
「わかってるって!ほら!」
思ったより速いじゃねえか!
まったくこいつは……
そうして、他愛もない話をしながらキャッチボールを続けた。
その時だった。
空の色が変わったと思ったら、投げたボールが空中で止まる。
「…は?」
眩い光が辺りを照らす。
夕方とは思えないほどの光。
目を不意に塞ぐ。
光が収まる。
恐る恐る目を開けると、そこには見たことのない謎の生物が立っていた。
デカい。人間じゃない。
かと言って地球上のどの動物にも該当しないだろう。
「な、なんだお前⁉︎」
ショウがそんな台詞と共に思いっきりバットを握り飛びかかる。
その瞬間、またもや眩い光が起きる。
今度は一瞬だった。そして異形の生物が口を開く。
「おいおいやめてくれよ!この星はお話で解決するってのが事前の報告だったぜ⁉︎」
俺たちは唖然とした。
見たこともない生物から聞き馴染みのある言語が飛び出したからだ。
「あー驚くのも無理ねえな。おう!俺はエスパニョル星から来たセニョ星人だ!よろしくな、地球の生き物サン!」
意味が分からない。分からなすぎる。なんだこいつ。
「さっきは驚かせてすまなかったなー!なにせ俺操作が下手でさ!宇宙船があっちこっちしてたらこんなとこに不時着しちまってさ〜」
「ま、まてお前は何者だ!」
ショウは続ける。
「…俺たちを殺しに来たのか?」
「なっわけないじゃん!いきなり殺すとかそんな物騒なことするかっての!てか先に殴りかかってきたのそっちだしさぁ!はぁ〜怖い怖い」
怖いのはこっちだ。
「まあまあとりま仲良くしようぜ?俺は観察しにきたんだ、地球ってのを。よろしくな!そうだな〜びっくりさせたお詫びに、お前たちの願いなんでもいいから叶えてやるぜ?ただし、2個までな?」
…展開が急すぎて俺にはついていけない。
が、それでもショウは即座に答えた。
「…じゃあこいつの足を治してくれよ。」
「は⁉︎何言ってんだお前⁉︎」
「なんでも叶えられるってこいつ言ったんだ!お前も治るなら嬉しいだろ!」
嬉しいけど、嬉しいけど危機感なさすぎだろ!
「足を治す?あーこれね、いいよいいよ〜」
またもや光る。
その瞬間、俺の体に電流が走ったように一瞬だけ痺れた。
…足が動く。
立てる。
「タケ!」
「ショウ…」
「よかったね〜感動だね!人間は感動が好きだもんね〜!」
「これでまた野球できるじゃん!」
「で、できるけどよ…」
確かに足は動くし、また歩けるのは泣きたいくらい嬉しい。
だがそれは別として、こいつ危険すぎる。
足を治す?地球の医療じゃ不可能と言われてるこの足を治した?
この時点で人間より絶対に高次元の存在だ。
そんなものに願いなんて言ったら、見返りが何か分からない。
「じゃあ次は俺のお願い言っていいか⁉︎なにがいいかな!金かなやっぱ!超イケメンとかも悪くないなぁ!」
「…やめろショウ。こいつは危険だ。願いをなんていらない。」
「は⁉︎タケ何言ってんだよ⁉︎なんでも願いが叶うんだよ⁉︎こんなこと二度とない!」
「二度とないかもしれないが!こいつがどんなやつかも知らないだろ!危険すぎる!」
冷静に諭したつもりだったが、意味がなかったらしい。
「は?何言ってんだよお前。願いが叶うのに何もしないってないだろ!お前は足が治ったからそれでいいと思ってんだろ。なあ⁉︎」
「ちげーよ!足が治ったのは確かに嬉しいが、そういう問題じゃねえんだよ!」
「そうかよてめえ!ふざけんじゃねえ!」
お互いの距離が近くなる。
きっとおそらく、少しだけ手が触れたのが原因だろう。
次第に殴り合っていく。
力が強くなっていく。
ただ治ったばかりの足は動かし方がまだ不慣れだった。
少しよろけた。その時、ショウに手で押されて頭を打ってしまった。
気が遠のいてく。
また、空と砂埃。
声が聞こえる。
「死なないでくれ…」
それが最後に聞こえた言葉だった。こんなので死ぬわけないだ………ろ…………
俺は気を失った。
白い天井。ここはどこだろうか。
「病院…か。」
今目覚めるのを知っていたかのように、病室のドアが開く。
「ショウか⁉︎」
そこに入ってきたのは、あのセニョ星人だった。
「は〜まったく困ったもんだぜお前さんたちには。こりゃ今までの観察員も手こずるわけだな…」
「…お前かよ。何しにきたんだよ。もしかして、願いでも叶えに来たのか?そこまでしてお前は何がしたいんだよ⁉︎」
俺は声を荒げる。だが、対照的にセニョ星人は淡々と告げる。
「何がしたい?強いて言うなら人間の感情が知りたいだけだね。欲望と理性とに挟まれた時、人間はどのような行動を取るか。お前みたいな人間が絶対正しいとも言えないことも学べたよ。」
「面白いもん見せてくれたお礼だ、お前が地球の時間で言う三ヶ月寝込んでた間のこと、話してやるぜ」
三ヶ月⁉︎そんなに寝込んでいたのか…
「…何があったんだ」
「お?興味あるね〜だよね!いいよ、教えたげる」
やってしまった。思わず力をこめて突き飛ばしてしまった。どうしよう。息がない。どうしようどうしようどうしようどうしよう
「死なないでくれ…」
そう呟いた時、眩い光に包まれる。
が、その光は、大量のスマホによるフラッシュだった。
空もすっかり暗くなってしまった。
俺は気づく。あたりに人だかり、そして警察が来ている。
ああ…俺は、終わったんだ…
そうして気を失ってしまった。
それからは怒涛の日々だった。
まず、セニョ星人のことがSNSで拡散され、世界中の人々が「願いを叶えることができる宇宙人」としてセニョ星人の奪い合いになった。
俺が事情聴取でポロッと話してしまったばかりに、いつの間にか世界に広まっていた。
後は簡単だった。
戦争だ。
いろんな国々が争い合い、「願い」という抽象的なものについて争い合う。
その日から空が毎晩光り、誰かの願いが叶うたびに別の誰かが死んだ。
俺も当然戦争に行かされた。
少年院に入る予定だった俺は、そのまま戦地に送られた。
持ったことのない銃まで持って。
本当にこれが現実なのか?
俺が軽率に願いなんて言ってしまったばっかりに。
「家に帰りた…………………」
「ざっくりこんな感じさ。お前が寝てる間、おれを求めて世界が大変なんだぜ!モテモテで困るな〜!」
ショウが死んだ。
あんなくだらないただの喧嘩で。
俺があそこで拒まなければ。
俺が………殺した………!
「セニョ星人。」
「ん?どうした?」
「最後の願いだ。ショウを生き返らせてくれ。」
「おっついについに来たか!最後の願い!」
「頼む…お願いだ…!」
俺は泣きながら願う。
「まかせてくれ!…と言いたいとこなんだが、申し訳ないな。最後の願いはもう使われちまったよ。」
なっ…もう戦争で使われたのか⁉︎
「もう戦争で使われたのか?って顔してるな。教えてやる、最後の願いは君の友達のショウくんが言ったんだよ。」
「な、なんて⁉︎」
ただ一言
「死なないでくれ」ってな。
「そうさ、お前はあの時死んでいた。当たりどころが悪かったんだろうな、お前は二度もあたりどころが悪くて不幸な目に遭うんだな。でもこうして全身健康で生きてるのもそれはそれで幸運なのか?面白いやつだな」
「う、うるさい。ショウは帰ってこないのか」
「ああ、死んだやつは帰ってこない。俺のこと神か何かと勘違いしてないか?都合のいいやつだな。あんなに危険とか言ってたのに。でもそれも面白い。」
俺は静かに涙をこぼす。
「まあ、一つだけ方法がある。」
「な、なんだ⁉︎教えてくれ!」
「俺は時を戻せる。まあ地球ぐらいなら数ヶ月戻しても始末書書かずに済むだろうし、やってやろうか?」
俺はノータイムで返事をした。
その瞬間、病室が眩い光で包まれる。
目が覚めた時には、ボールを掲げたショウがいた。
投げようとしている。
天に掲げる。
──そのボールが、少し光ったような気がした。
はじめて書いたし初めて投稿します




