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システム構築

 俺は先生が書いた実験道具を見ながら、同じような構成になるように機械などの構成を書き直した。

 そして通販サイトを見て、同じような役割を持つもの、分解しやすいものを選んで注文した。

 その際、先生が持っていたクレジットカードがまだ停止されていなかったこと、この廃ゴルフ場が怪獣被害で配達できない地域の外であることが、幸いだった。

 研究所の中を探していると、俺は部屋の端、棚の上でドローンを見つけた。

 ドローンは大型のもので、それなりの運搬能力がありそうだった。

「ドローンを操作できても……」

 ドローンに括りつけた誘導装置をコントロールできない。

 制御用の接点でも出せないと……

 接点出力出せたとして、それに対応したコントローラーも必要になる。

 やるならドローンにつけた誘導装置自身に別のリモートコントロール装置をつけるしかない。

 俺が悩んでいると、田村が覗き込んできて、すぐに言った。

「……何悩んでるの? ラズパイに4G通信をつけるユニットぐらいあるでしょう」

「まじ!?」

 ラズパイは小型マイコンで、こう言った用途にはよく使われるものだった。

「急いで用意しよう」

 俺は必要そうなものを手当たり次第注文した。

 注文が漏れるよりマシだ。

 そしてエミュレータを使って機能を作り込み始めた。

 サーバー上のデータを参照して動き、動作を変える仕組みで、参照できなかったら前回の動作を繰り返す。

 そうしないとドローンの高度や位置で4Gの圏外になった時に生物のコントロールを失ってしまう。

 過去の経験はない。

 どんなことが考えられるか、とにかく推測するしかなかった。

 ソフトがエラーで止まることも怖かった。

 エラートラップは万全にすることと、最悪止まっていることすら検知できなかった時のために、定期的にリブートするように設定を追加した。

 そんな風に、俺はその日の夜遅くまでソフトを準備していた。

 気がつくと、そばに田村が立っていた。

「あの生物、人を喰っていたわよね」

 田村は何かを発見したようだった。

「先生のデータでは無機物ばかり食べていた」

「俺もざっとしか見ていないけど、そんな感じだったね」

 俺は手を止め、田村の顔をみた。

 真剣な表情で見つめ返す彼女は言った。

「無機物ばかり食べている連中が、人を選ぶようにして食べている理由。それは…… スマホよ」

「まさか、だって、すごく微量じゃないか」

「奴らにとっては必須で不可欠なのよ」

 彼女がデータを丁寧に説明してくれる。

 必要としている物質の分布がどれくらいスマフォと酷似しているのか。

 奴らは人を喰らうことで、人がスマホを持っていて、結果、自分たちが必須とする栄養を摂れることがわかってしまった。

 つまり、奴らからすれば人は『美味い』のだ。

「!」

 スマホにメッセージが入った。

 佐藤先生BOTだった。

 俺と田村はほぼ同時にメッセージを開いた。

「また現れたのか」

「スマホを、スマホを捨てるように……」

 彼女は何度も呟きながら、SNSに投稿した。

 すぐに批判のレスがつく。

『デマだろ』

『災害時に、スマホ(=情報源)捨てるなんて危険すぎる』

 田村が必死に説明する。

「あの生物はスマホの希少金属(レアメタル)を欲しているの。スマホは置いて情報はラジオとか、公共放送を……」

『レアメタルが匂い(・・・)を放つわけじゃないんだ。持ってるか持ってないかなんて、どうせわからない。悪質なデマだ』

「違う、そうじゃなくて……」

 田村はそれ以上、書き込むことをやめた。

 もし書き込んだらさらに強い批判が返ってくるだろう。

「もう無理だよ。あの怪物は人イコール希少金属と覚えてしまっている。今後食われる何人かがレアメタルを所持してなくても、なんとも思わないだろう。まさか、万一食べられた時に怪獣の栄養とならないようにスマホを手放せって言ったって、聞いてくれる人間(ひと)はいないよ。『食べられる前提かよ』とか『食べられなきゃいいんだろ』って返ってくるだけだ」

 彼女はスマホを握りしめ、涙を流した。

「それでも…… 少しでも…… 他人の役に立ちたい」

 俺は頷いた。

「とにかく、これを作って、誘導出来ることを証明しよう。社会が認めれば、きっと量産してくれるに違いない」

 田村は同意すると、泣きながら研究室を出ていった。

「……」

 俺はコードを書き続けた。

 AIに論理的なチェックをやってもらったり、一部の不明な処理はまるまるAIに頼んだりもした。

 モノがきたら組み立てて、テストするだけで済むぐらいまで進めたい。

 気がつくと、俺は生涯の中で書いてきたコードと同じくらいを、この短時間で書き上げていた。

 俺はいつの間にか、実験室で椅子を並べて寝てしまった。

 気がつくと、スマホが振動していた。

 荷物がついたようだった。

 俺は椅子から落ちることで体を起こした。

 実験室を出て、館内を歩いたが、田村を見かけることはなかった。

 外に出ると、廃ゴルフ場の正面オートドア前にたくさんの荷物が置かれていた。

 俺はスマホを取り出して、メッセージアプリの通話機能を使って田村を呼び出した。

 だが、何も応答がない。

「……」

 寝室代わりのレストラン内の一室にも居なかった。

 駐車場には車は止まっていた。

 いったい、どこに行ってしまったのだろう。

 仕方なく俺は一人で荷物を運びこみ始めた。

 途中で事務室の中で台車を見つけてからは、多少効率が上がったが、全ての荷物を実験室に入れる頃には、昼を過ぎていた。

 もう一度、田村に連絡を取ってみる。

「!」

 部屋の中で、スマホの振動があった。

 スマホを置いていったのか。

 これでは連絡が取れない。

 こんな廃ゴルフ場に人がいるとは思わないだろうから、誰かに連れさられたとかではないだろう。

 だが、自らどこかに行ってしまったのなら、探しようがない。

 そう思いながらスマホの方へ歩いて行くと、捉えた生物を入れていた風呂場の方が目に入った。

「おい!」

 俺は慌ててワニ型生物を飼育していた風呂場の方へ入った。

 田村が浴槽の縁に引っ掛けたように、うつ伏せで倒れている。

「どうした! 田村、おい、聞こえるか!」

 反応がなく、あまりに静かだ。

 まさか、死んでる?

 俺は触れるのも怖くなって、じっと見ていると、ゆっくりと呼吸をしているように背中が動いた。

 大きくため息をつくと、肩に手を触れて揺すった。

「田村、こんなところで寝るな」

 肩から感じる彼女の体温が、この感じで正常なのか不安になった。

 いつからこの状態だったのだろう……

 彼女が出ていってから、いつここに戻ってきたのか。

 コードを書いている間に戻ってきたのなら気がついただろう。

 田村の額に触れ、自分の額と比較してみる。

「熱!?」

 手の感覚で熱を測ることは出来ない。俺はどれだけ曖昧なことをしてるかと思い、この建物で体温計を見なかったかと、思い返す。

 違う、そんなことより彼女をちゃんとした場所に連れて行き寝かせる方が先だ。怪物誘導用ドローンを作成する必要がなければ、迷わず救急車を呼んでいただろう。

 俺は彼女をなんとか抱えて、レストランの個室へと運んだ。

「田村、大丈夫か?」

 やっぱり返事がない。

 これだけ揺すって移動させても目を覚さないということは、眠りが深いか、それに匹敵するだけ体調が悪いのだろう。

 熱を測ろう。

 どうしてもダメなら、やっぱり救急車を呼ぶ。

 放射線測定器があるくらいなのだから、何かあるはずだ。

 観察結果にも生物の体温の記載があった。なんらか測定出来るものがあるに違いない。

「ああ、国家の危機なのに!」

 ドローンを早く作らなければもっと大勢の被害者が出るだろう。

 だが、田村一人救えない人間に何が出来る、とも思える。

 俺は並んだ机の上から、非接触式の体温計を見つけた。

 おそらくあの生物の体温は、普通の哺乳類などの体温とは全く違っていたのだろう。置いてあった体温計には、使った様子が全くなかった。

「電池は入っているな」

 俺は田村の部屋に急いだ。

 コロナの時に学んだ三十七度五分より上なら医者に連れて行こう。

 俺は彼女に向けて体温計を使った。

 俺は、安堵した。

 思っているより熱はなかったからだ。

 寝ていると思って、静かに立ち去ろうとした時、後ろから声がした。

「大丈夫。こっちはこっちでなんとかする」

「起きてたんだね。俺もしばらくドローンシステムを構築するから、何かあったらスマホで入れて欲しい」

「スマホで連絡出来ればそうするわ」

 俺は病人に無理なことを言ったと感じた。

 だが、病院に連れて行くほどの熱ではない。俺は心苦しかったが、割り切ることにした。ドローンシステムを完成させ、先生の計測結果が正しいことが証明されれば、ワニ型の危険生物を安全な場所へ誘導し、ひいては伝説の怪獣Gの動きを誘導することにも繋がる。

 俺は実験室に戻り、ドローンシステムの完成を急いだ。




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