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混沌

 俺たちは規制線の外に出た。

 中で撮った映像を、持っている限りのSNSに展開した。

 有名な人をフォローしてみたり、フォローバックして、可能な限り注目を集まられるようにもした。

 だが、思ったほど話題にはならなかった。

「そんなにすぐに反応は増えないよ」

美樹(みき)ちゃん、SNS詳しいの?」

「芸能人でも、うまくいく人といかない人に分かれるし、難しいの」

 俺はいずれ増えるだろうと簡単に考えていたが、どうやらそういうものでもないらしい。

 田村(たむら)が怒ったような顔をして、言った。

「私、やっぱり研究所に戻って駆除する方法を見つける」

「今からか? 明日にしよう。俺にとっては何もかもが今日だったんだぞ」

「明日になれば何かいいアイディアが浮かぶとでも?」

 確かに田村のいう通りではあるが……

「かといって、今から行って何ができる? 廃ゴルフ場の部屋で寝てしまうだけだ」

「そんなことわからないでしょ」

 美樹ちゃんが、田村に話しかけた。

「家、遠いなら家に来ませんか」

「そういうわけじゃないんだけど」

「家が近くても、泊まって構いませんよ。これからのことで不安なら、お二人でじっくり話あった方がいいですよ」

 なぜ美樹ちゃんが彼女を誘うのかはわからないが、俺も確かにもう少し話し合いは必要だと思っていた。

「同じ部屋に泊まるわけじゃないから」

「当たり前でしょ!」

 田村が乗っていた車に乗り、俺の下宿先、牧村家に向かった。

 車の近くの時間貸しの駐車場に停めると、家に入った。

 祐子(ゆうこ)さんを紹介すると、田村は妙に丁寧にお辞儀した。

 四人で食事を終えると、俺と田村、美樹ちゃんの三人で俺の部屋に入った。

「何もないのね」

「スッキリしているとか、綺麗にしてる、といってくれ」

「田村さんは学さんとはどういうお知り合いですか?」

 田村はため息をついた。

「大学の同じ期だというくらいよ。研究室が同じにならなければ、一生口を聞くことはなかったわね」

「そうだったんですか」

「研究室が一緒だったことで、俺と田村で先生の遺産を相続したんだ」

 田村が、美樹ちゃんに見えないように突いてきた。

 そして何かスマホで入力していたら、それが『俺に』送られてきた。

「……」

 田村は、美樹ちゃんに遺産相続のことを言ったのが気に食わなかったらしい。

 俺も田村に送り返した。

『彼女にも全て話して、問題を整理してもらおう』

 田村は睨むと、素早く入力して返してきた。

『彼女を巻き込むわけにはいかないわ』

 田村は言う。

「申し訳ないんだけど、美樹ちゃん、私と彼を二人きりにしてもらえないかしら」

「……」

 何かいけないことをしたかと、不安気な表情を浮かべながら、美樹ちゃんは部屋を出て行った。

「もう少し言い方があったんじゃないかな」

「そう思うならフォローするような声、かけてあげればいいのに」

 俺は言い返せなかった。

「遺産とか、家を壊した生物を知っているとか、そういうこと知られない方がいい」

「広く知られないと、被害が拡大していく」

「やっぱり話し合うことなんてなかったわ。さっさと研究所にいっていれば」

 背中を椅子の背もたれに預けると、田村は諦めたような顔をした。

「あなたは、あの生物のことどう思う?」

「どうって?」

「たとえば、異星の生物だと思う?」

 隕石付近から湧いて出てきたのだとすれば、異星の生命体だとも思える。ただ、それはきっかけであって、元々地球上にいた生き物が変化したのだとしたら地球上の生命体なのではないか。

「この地上で生きていけるのだとしたら、地球の生物なのではないだろうか」

「意外とまともに考えていたわ」

 田村の顔はからかう風ではなく、真剣な顔だった。

「完全な異星生命だったら、適応できずに死んだでしょうね。たまたま環境が合う場合もあるでしょうけど。生きて、大きくなったということは適応できている。つまり、地球上の生命体が変化したものの可能性が高い」

「先生はどう思っていたんだろう。わざわざ隕石落下地点を調べて、その海底を調査したんだから、異星からやってきた生命体だと思ったんだろうか」

「分からない。あの生物を見て『絶望』して自殺すると言うのも、理解し難いし」

 俺はあの生物は、十分自殺の動機に足るのではないかと考えていた。

「それは簡単さ、先生が自殺を考える前、あの生き物が逃げ出した。成長率が馬鹿早いし、止める手段はない。さらに、増えたら、大きくなったらと考えたのさ。賠償問題になったら目も当てられない。この状況からなら先生が自殺した気持ちはわかる」

「私たちが今、自殺しようとしていないのだから、この程度(・・・・)の事、先生はあらかじめ理解していたんじゃないかしら」

「先生のファイルを全部開いて見てみるしかないな。あの生物の対策も書かれているんじゃないだろうか」

 田村はテーブルを叩いた。

「そう思うなら先生のパソコン出しなさいよ」

 パソコンを取り出して、起動した。

 パスワードは彼女が知っている。

 テーブルの上でパソコンの向きを変えると、彼女がパスワードを入れた。

「それ、俺にも展開してくれる?」

「待って、複数アカウントを作って別々に運用しよう。先生のファイルを改竄されたらたまらない」

 田村が改竄したら誰も分からないじゃないか、と言いかけたが、言わなかった。

「田村も田村のアカウントで入り直すってこと」

「当然でしょ」

 互いにアカウントを作り、パソコンに入ってみた。

 田村はしばらく自分のアカウントの環境を整えていた。

「で、あの生き物を退治する方法は?」

「……わかってるわよ」

 田村がようやく、先生のファイルを開いた。

 日誌の続きを読んでいった。



 大学に運びこんだ生物は、死にかけている。

 私は運びこんだ生物について、何も分からなかった。

 摂食行動が分からないため、生きたものを生きたまま与えるのか、あるいは、植物でもいいのか、悩んでいた。

 有機物を食べる、と言う固定概念がいけないのかと思って土砂を運び入れたがそれも違うようだった。

 水の中にいるのだろうと思っていたが、見かけると水の外にいた。

 地上の生命なら水中のものはいつまで経っても水中で生活するものだが、この生物は成長に応じて環境を移動するのかもしれない。

 いまだにサイズが港で計測したサイズのままだ。

 摂食していない事を考慮すると、すごい事なのかもしれない。

 だが、何とか栄養を補給しないとこの生物が死んでしまう。



「なんだろう、先生、もっと生態がわかっているものを拾ってきたのかと思った」

「……」

 田村は無言で画面をスクロールした。



 摂食行動が分からないでいる間に、ちょっとした放射線の騒ぎが起きた。

 騒ぎの経緯から推測すると、どうやらこの生物を運びこんだことが関連している。

 計測器を借り出し生物を測定してみた。

 想像より大きな値が出ていた。

 体の大きさに比較して重量が大き過ぎる原因は、放射性のものを含め、それなりの種類と量の重金属を体内に抱えていることが考えられる。

 とても生物の体内に興味があるが、X線を使える場所にこれを持ち込むことができないのでやれていない。

 生きている間は、だ。

 生物が摂食できず死んだ場合は、すぐに解剖してしまおう。

 まずは、これ以上大学内で騒ぎが大きくなる前に、この生物を移動させる事を考えなければならない。



 先を読もうとした時、田村の手が止まっていることに気づいた。

「どうした? 何か気になる記述があったか?」

「あ、ああ…… なぜここに測定結果とかを残していないんだろう。大学の教授なんだぞ」

「これは日記みたいなものでは?」

 横から彼女の表情を見たが、本当にそんなことを問題にしている感じはに見えなかった。

「なあ田村、君、今何か不安なことでもある?」

「当たり前だろう。あの生物が増えたらどうするんだ。あの壊れた建物を見ただろう」

 いや、お前が抱えているのは、そういう不安じゃないだろう。

 いきなり親しくない人間に悩みを打ち明けるわけもない。

 彼女の抱えている問題については、それ以上、問い詰めないようにした。

 俺と田村は、そのまま先生の記述を読んでしばらく考えを言い合ってから寝ることにした。

 田村は美樹ちゃんが用意してくれた部屋に行った。

 一人になった俺は、ベッドに横になり、漠然とさっき読んだ内容を整理しながら考えた。

 生物は重金属を体内に持っていて、一定量の放射線を出している。

 捕獲した当初、有機物をほとんど食べなかったこと。

 あの廃ゴルフ場に作った研究所では生物は成長していた。

 そして逃げた後も、短時間で相当大きくなっている。

 では、何を食べたのか。

「放射性物質を含む土…… とか?」

 例えばラジウムとか原子番号の大きい物質を含んだ土砂を体に取り込むとか。

 海で海水を体の中を流して、()すことで重金属を集めることができるかも知れない。

 だが、隕石が落ちてあの生物が生まれたのだとしたら、あまりに時間が無さすぎる。

「そもそも本当に隕石と関係がある生物なのだろうか」

 そこからして疑わしい。

 確かに隕石が落ちた付近を捜索して捕まえた生物ではある。

 どうやって隕石との関係を調べた。

 隕石そのものをしっかり引き上げ、調査する必要があるだろう。

 人間に害をもたらす生物の存在は現実としてあるのだが、先生の研究としては全く形をなしていない。

 何か、モヤモヤとした感情に混乱しながら、俺は眠りについた。




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