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増水した川の様子を見に行ってはいけない  作者: ゆずさくら


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20/20

吉川の回想

 俺は大学に入ってからずっと自室としていた部屋で、書いたはずのないノートを見つけた。

 タイトルには『増水した川の様子を見に行ってはいけない』と書かれていた。

 表紙の字は、丁寧に書いた時の俺の字に似ていると思った。

 俺は不審に思いながらも、ノートを開いた。

「俺の字だ」

 書きつけた記憶はないが、俺の字だ。そう確信した。

「なぜ、増水した川に近づいてはいけないのか?」

 ノートに書いてある、そのままの問いを読み上げていた。

「増水した川に、隠れ潜むものがいるからだ……」

 読み進めていくと、ノートには今回の騒動のことが予測されていた。

 誰かが沖で奇妙な生き物を見つけること、それが大型化してしまうこと。

 大型化した生き物が人間を食うこと……

「そんなはずは」

 ノートを読み進めた。

 俺は今回のことを、国内各地のライブカメラ映像を解析した結果として予測していた。

「ライブカメラ映像!?」

 何か引っ掛かる。

 俺は『佐藤』先生が残したノートPCを取り出した。

 ファイル名に拡張子がないファイルをクリックし、拡張子をつけた。

 なぜこのファイルだと思うのか、自分でも説明できなかった。

 アーカイブファイルとして展開しようとすると、パスワードロックがかかっていた。

 俺は知っているように(・・・・・・・・)パスワードを打ち込んでいた。

「これがライブカメラの解析映像?」

 先生のPCのはずなのに俺が集め、解析した映像ファイルがある。

 何かを理解しかけていた。

 選んだ一つの映像を再生した。

 増水した川、その様子を見に近づく男性。

 川の水が、波打ったように見えた瞬間、男性は映像から見えなくなっていた。

 死。

 俺は震えながら映像を戻し、スロー再生する。

 質が悪すぎて分からないが、何かが川から出てきたように見えた。

 フォルダに戻って、別の映像を再生する。

 同じ川を別の角度から撮った映像だった。

 やはり同じ時刻に男が川の様子を確かめている。

 赤い枠線が入ると、俺はそこを凝視した。

 川から飛び出してきているモノが映っていた。

 ワニ型生物。

 日付からすると、何年も前だ。

 先生があのワニ型生物の幼体を拾い上げるずっと前。

「そうだ……」

 そう。

 俺はワニ型生物(このこと)に気づいていた……

 そしてノートの裏表紙を見た。

 知らないインクで、吉川ではない(・・・・)本当の俺の名前が書かれていた。

 音がして、部屋の扉が開いた。

 制服の警察官が入って、俺を押さえつけた。

 警察なら、俺が誰か、俺どうしてこうなったのか、調べてくれるかもしれない。

 気づいてしまったからには、このまま吉川として暮らしていくことはできない。

 今、思えば破壊された住宅街で俺に警告した男が妙だった。

『川の様子を見に行ってはいけない』

 あれは『俺自身』だったのだ。

 美樹ちゃんとの電話の最中に聞こえてきた声も。

 だから、あの男の姿は他の人には見えず、声も聞こえず、俺だけが認識していた。

 俺が全ての始まりで、俺が田村に佐藤先生、弁護士の古市、そして美樹ちゃんまで巻き込んでしまった。

 世界を救えもしないのに、救うつもりでやった結果が、これか……

「もう終わりにしよう」

「なんだと?」

「……」




 取調室で、なぜ牧村家に押し入ったのか尋問が続いていた。

 警察官は吉川がトイレに行きたいというので、トイレに連れて行った。

「なんだ、大か?」

「ええ」

 吉川が気が散るというので、警察官はトイレの外に出て待っていた。

 しばらく何もなく時間が過ぎた。

 すると、廊下を歩いてくる別の警官が言った。

「ん? さっき調べていた男はどうした」

「クソするらしくて」

 廊下を歩いてきた方の警察官は、トイレの札を確認した。

「おい、ここは職員用」

「えっ、トイレぐらい」

「何分経つ?」

 時計を見ると、二人は顔を見合わせた。

 飛び込むようにトイレに入り、吉川の名を叫ぶ。

 応答がない。

 隣の個室を使って覗き込むと、吉川が首を吊っているのが見えた。

「首を吊ってる。救急車!」

「はい!」

 扉をこじ開け、吉川の体を横に寝かせるが、心音も、呼吸も止まっていた。

 警察官はAEDを使いながら、経験上これは助からない、と感じた。

 ふと見ると、トレイの扉に言葉が書かれていた。


『増水した川の様子を見に行ってはいけない』


 吉川がなんのつもりで書いたのか、誰も理解できなかった。




おしまい




最後まで読んでいただきありがとうございます。


お手隙でしたら、評価いただけると幸いです。


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