巨大生物の行方
真っ黒な恐竜型の巨大生物は、爆発寸前のワニ型生物を飲み込み損ねた。
口の中で激しい爆発で、|黒い巨大生物(G)は固まったように動かなくなった。
「バイタルデータは?」
「停止した値はありません。生きていると判断します」
誘導装置を失ったワニ型生物は、Gを認識してか海に逃げ込んでいく。
「Gにワニ型生物を処理してもらいたかったが……」
「今日の成形炸薬弾の攻撃によって、把握しているワニ型生物は半減しています」
|静岡沖大型生物対策機関(SOBEC)の長官である田中は思った。
ワニ型生物が人間を食うことが心配されたが、状況はかなり変わった。
有効な攻撃手段がわからないGより、成形炸薬弾が有効な事が判明したワニ型生物の方が扱いやすい。
「Gはどれくらいで動けるようになるんだ?」
「計測していた数値が、正常時に計測していた値に戻るまでの時間を推測させます」
「動きが止まっている今、トドメをさせないものか」
田中の発言を受けて自衛官は、あちこちに連絡を取っていた。
バイタルデータを計測、集計しつつ、戦車隊を回し、Gへ照準を合わせた。
「静止している状態なら、背型炸薬弾で同じ箇所を集中的に狙うことができると思われます」
「よし、速やかに実行してくくれ」
Gの肌には、でこぼこした畝のようなものがあり、しかも成形炸薬弾が当たった瞬間に爆発する。
その畝や爆発により、成形炸薬弾の方向が進行方向とは全く異なった向きに変わってしまい全く効果を発揮できないのだ。
だが、畝が爆発して、削れた部分に弾を集めることができれば、Gの分厚い皮膚を貫通することができるかも知れない。
ワニ型生物の爆発で、固まった状態のGなら、その実証が可能だ。
戦車の主砲が、火を吹いた。
弾が垂直に当たりやすく、貫いた時にもっも効果があるであろう、体の中心を狙っていた。
一発目が、着弾した。
畝が反応して、成形炸薬弾はGとは全く異なる方に向けて液体金属を射出してしまった。
「よし、狙い目ができたぞ」
双眼鏡を覗き込んだ田中はそう言った。
かなり狭いが、同じあたりに着弾すれば、貫通するかも知れない。
再び轟音が鳴り響く。
「!」
主砲の光に反応したのか、Gが動いた。
成形炸薬弾は、まだ着弾していない部分に着弾し、今までと同じように貫通することはなかった。
「何だ、今の感じは」
「何か変なことでも?」
「この違和感は計測値に現れないのか?」
田中は自衛官の回答を待った。
だが、すぐにそれを諦めた。
「撤退! すぐ撤退させろ」
自衛官がヘッドセットを押し付けて聞きいっている。
「間違い無いんだな!」
無線の相手からの応答を確認すると、田中に言った。
「G内部に、高圧、高熱源の存在を確認!」
「全員退避!!」
「全員退避!」
国道150号を、バラバラと分散して逃げていく。
田中の乗ったヘリは、高度を上げつつ、海側へ逃げる。
ワニ型生物たちも、何かに気づいて波を立てながらGか遠ざかっていく。
真上を向いていたGが正面に向き直ると、周囲を見回す。
田中長官は、その動きを見て、叫ぶ。
「逃げろぉぉぉ!!!」
二足歩行をしているGが、頭を突き出し前足を地面につけた。
田中は思った。
何かを口から放つのだ。
その力が強いから、反作用で体が吹き飛ばないよう一番力が入る姿勢をとったに違いない。
この距離では声は届かない。
分かってはいるが、彼は恐怖をかき消すように絶叫し続けた。
黒く鋭い背ビレがうっすら発光すると、それが前方に集まっていく。
開いた口から、唸るような音の後、青白い光が放たれた。
光を放っていたが、それは強く吹き出されたガスと思われた。
高温のガスは、まず国道150号のアスファルトを燃やしてしまう。
口元に近いアスファルトは、一瞬で捲れ上がり、吹き飛ばされていく。
ガスを浴びた戦車が、将棋のコマのように吹き飛ばされた。
直接上にあった住居もガスの勢いで破壊され、高熱で発火した。
ガスの吐き出しは終わっていたが、吹き出した高熱のガスの影響はそれだけでは収まらなかった。
配管されている都市ガスに引火したのか、居住地の道沿いで爆発が起こった。
転がった戦車が、内部の砲弾が起爆して爆発する。
ひしゃげた戦車が、そこらじゅうに広がり、穴という穴から煙を吐き出していた。
様々なものが炎をあげて燃え続けている。
焼け野原。
ほんの一瞬だと思われる時間で、様々なものが吹き飛ばされ、燃え上がり、焼けこげた。
「ど、どうして……」
Gは前足をついたまま、頭から海へ入っていく。
顔が海に入ると、海の水が泡立って、蒸気を上げた。
身体中が熱を帯びているに違いない。
そして冷やすには海水が必要なのだろう。
Gはスルスルと海を進んでいくと、あっという間に姿が見えなくなった。
他者があっさり死んでいくのを見たこと。
それが自分の判断ミスが原因であること。
いや、それらは小さい要因だ。
怪獣という存在がもつ、根源的な恐怖。
恐怖が、大気を固めたように存在し続けていた。
田中は全身の震えが止まらなかった。
目を見開いたまま、涙が流れてきた。




