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増水した川の様子を見に行ってはいけない  作者: ゆずさくら


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首都圏の防衛2

 田中(たなか)は苛立っていた。

 自分の左ふとももを叩き続けている。

「おい、まだか?」

『指示が通ったようです。京葉線は止まりました。湾岸線は、あと十分ください』

「なんだと!」

 無線の先で、ブツブツ文句をいう声が聞こえる。

『すでに通過してしまっている車が通り過ぎる時間です』

「わかった。十分したらこっちは行動を開始する」

 田中は無線を切る。

 同時に、ドローンを操作している自衛官が言う。

「ドローンのバッテリーが切れそうです」

「なんだと!? 上流に誘導している状態だぞ? ここで電源を切ったら」

「ゆ、有線で動かしましょう」

 もう一人がそう言うと、そのまま積んであったコンテナボックスを開けた。

 そして中からケーブルを引っ張り出し始める。

 二、三メートルといった程度のものではなく、ある程度長いものではある。

 だが…… と田中は考えた。

 有線で誘導すると言うことは、ドローンとこのヘリとの距離が縮まると言うことだ。

 つまりヘリを低空に飛ばす訳だ。

 橋桁に当たることは考えなくていいかもしれないが、タワマンなど建物が作り出す乱気流の影響をもろに受けてしまうだろう。

「バッテリーが切れる前に、ドローンを回収します」

 ヘリがドローンを迎えるように、低空に降りていく。

 ドローンも高度を上げ、開けた扉へ誘導する。

 ヘリが作り出す下降気流の受けて、ドローンがブレる。

「まっすぐ向かわせるな、ドローンは迂回させろ」

 迂回させると…… 誘導装置も迂回することになる。

「違う、そのルートはまずい!」

「!」

 ドローンが川の上空を外れると、ワニ型生物も同じように移動してしまう。

 ドローンをコントロールしている自衛官が慌ててドローンの方向転換を行った。

 そうやって高さが近くなってからヘリの開いた扉に飛び込ませようとするが、ヘリが作り出す気流でうまく回収できない。

「もうバッテリーが持たない」

「手で回収するしかない」

「はしごを下せ」

 田中は彼らの決断を承認するしかなかった。

 開いた扉から縄梯子をセットして下す。

 一人の自衛官が梯子を伝って下りていく。

 ドローン操作の自衛官は、PCの映像を見ながらドローンをコントロールする。

「早くしろ!」

「いくぞ!」

 ヘリの作る風の影響も距離が離れれば、無視できる。

 一方で、梯子で下りる自衛官が危険に晒される。

 この状態で片手を離してドローンをキャッチしなければならないのだ。

 いくら自衛官とて、ヘリから釣り下がる縄梯子で、ドローンを掴む訓練などしていない。

 下には未知のワニ型生物がいる状況だ。

 それら全ての条件を含んだプレッシャーがかかる。

「ダメだ、梯子を上り下りする余裕はない」

「奴がドローンを持って誘導するってことですか?」

「そうだ」

 田中は下りて行った自衛官が準備したケーブルを掴んで扉際へ移動する。

「次でキャッチしろ!」

 声が聞こえたのか、聞こえないのかはわからなかった。

 だが、彼はやってきたドローンをつかんだ。

 田中は、ケーブルの先端をヘリの電源へ繋ぐと、丸めたケーブルを放り投げる。

「そこでドローンと繋げ!」

「これは電源ケーブルで、ぶら下げるには、強度が足らない!」

「違う! そのまま手で持っているんだ」

 田中は思う。

 どんなブラック企業でも、さすがにこんな指示はしまい。

 彼が持っているドローンのプロペラは停止し、誘導装置の電源LEDのみが点灯していた。

「わかりました!」

 田中は頷いた。

「よし、ゆっくり湾側へ向かう」

「まだ十分たっていませんが」

「到着することには十分経過している」

 ヘリは再び下流へと動き出した。

 二つ目の橋に近づくと、ワニ型生物は誘導装置を目指して、橋脚をつたい橋桁に上がってきた。

「あんなことも出来るのか」

 田中は肉眼でワニ型生物の動きを見ながら恐怖した。

 あの短い足では、橋脚をつかまえるのは難しいように思えたが、意外にも簡単に上ってしまった。

 この調子だと、橋の構造を上って、あっという間に数メートルの高さの差を埋めてしまう。

「慎重に距離をとりながらいこう」

「あまりゆっくりとしていたら、奴の体力が持ちません」

 確かにその通りだ。

 ゆっくりしていると、ワニ型生物が湾側から誘導されてくるだろう。

 ワニ型の数が増えれば、今度はあの黒い大型がやってくる。

「わかった。だが、高度は十分確保してくれ」

「はい」

 首都高の湾岸線と、京葉線が並んで走る場所が近づいてくる。

 車は…… よし。いないようだ。

 田中はケーブルの状況も確かめながら、外の様子を確認した。

「頑張れ!」

 腕を縄梯子に絡めながら、ドローンを持ってぶら下がっている自衛官。

 田中の方を向きはしなかったが、大きな声で返事をした。

 ワニ型生物は、誘導装置の進行方向に進み、橋脚を上り始める。 

 ここにきて奴らが、先回りするようになっていたのだ。

「!」

 田中は叫んだ。

「引き返せ! 京葉線が動いている!!」

 勢いよく橋脚を上り、湾岸線の道路上に三体上り、橋脚にも五体ほどいる。

 高速道路と京葉線は接続していないが、乗客が乗っていることにワニ型生物が気づいたら……

「列車に気づかれたら、乗客が喰われてしまう」

 ヘリは減速したが、引き返さない。

 列車にはテーマパークや臨海公園から帰る客などが、扉や窓から大勢乗っていることがわかる。

「どうした、早く上流に戻れ!」

 パイロットは下を示し、即答する。

「あいつが振り落とされてしまう」

「!」

 田中は下を見た。

 減速したヘリのせいで、縄梯子ごと大きく前方に流されていく。

 湾岸線の路面上にいるワニ型生物は、おり重なって高さを出し、上の一体は縄梯子に向かって口を広げた。

「危ない!」

 田中が叫ぶと、ヘリはパイロットの判断で上昇した。

 おかげで間一髪で避けることができた。

 一番上で口を開けたワニ型生物が、荒川へ落ちていく。

「もう十分以上経っている! なんで電車が止まってないんだ!」

 ヘリは再び上流へ移動を始めた。




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