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増水した川の様子を見に行ってはいけない  作者: ゆずさくら


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11/20

政府との連絡

 ドローンは市内をぐるりと回って、再び海へと向かうルートをとった。

 俺はバッテリーの残量を気にして、なるべく経済的な飛行を心がける。

 乗っていた車を停め、田村(たむら)はハンドルに突っ伏すように寄りかかっていた。

「どう?」

「順調だよ。このままワニ型を海に追い出せば、Gは追って海に出るだろう」

 本当だったらもっと陸上で惹きつけて、ワニ型をGが食べ尽くしてしまえば二度とGが上陸することはない。

 これに代わる食べ物を地上に見つけ出さない限りは。

「これが本当にやりたかったことなの?」

「……ちょっと違うけど、もうバッテリーが持たない」

 本当にやりたいことをすると、奴らが地上で暴れまわることになる。

 静岡市内ではなく、あの巨大なGに踏み荒らされても平気な場所に誘導したい。

 それには今回はバッテリーが足りない。

 バッテリーのことを考えると、海から上がる前に誘導を始めたいのだ。

 その時、田村のスマホが振動した。

「……何この電話」

 俺はドローンを操作しているため、彼女が見せたいスマホ画面が見れなかった。

 彼女はしばらく見つめていたが、指を動かした。

「もしもし」

 何も言わずに相手の言うことをずっと聞いている。

 怪獣達の振動で、電話の相手が田村に何を言っているのかは分からない。

 俺のドローンが海上で静止しているため、ワニ型生物が海の中に集結し、泡立つように波が起きていた。

 海の深さを考えると、Gが来たら叩き落とされてしまう高さだ。

 ギリギリまで惹きつけて、誘導装置を切った。

 誘導装置が切れれば、ただのドローン。

 ワニ型が追ってこない、つまり、Gもやってこない。

 俺はパソコンを片手にしながら、車外に出た。

 Gが次第に海に消えていく。

 オートパイロットにして戻ってくるドローンが着陸するとバッテリー切れの警告が鳴った。

 俺はため息をついた。

「ギリギリだったな……」

 運転席から田村が出てきた。

「何の電話だったの?」

「国の対策機関からよ。今から、研究所に来ることになったから」

 もうこのドローンが何をしているのか分かったのだろうか。

 ドローンや周辺機材を壊れないようにまとめると、田村は車を発進させた。

 俺は助手席にいるうちに寝てしまった。

 田村に起こされた時には、廃ゴルフ場に着いていた。

「すまん、寝てた」

「いいから。ほら、グリーンにヘリが止まってる」

「あれが国の対策機関の人たち?」

 ヘリコプターを守るかのように人が立っている。

「あれは単純に自衛隊の人じゃない?」

「そうか」

 支度をして、俺たちが車を降りると、小銃を構えた男二人が現れた。

吉川(よしかわ)(まなぶ)と田村(のぞみ)か?」

 俺は荷物(ドローン)を持っていたため、手を挙げなかったが、田村は両手を上げた。

「そうです。吉川です。こっちは田村です」

「身分証を出せ」

 俺が困惑していると、男達の後ろから声がかかった。

「事前の調査情報に顔の情報があった。この二人で間違いないよ。銃を下せ」

 俺たちに狙いをつけていた小銃が下されると、声をかけて来た人物が現れた。

 迷彩系の服は着ていたが、帽子はかぶっておらず、事務方の雰囲気がある。

「私は田中(たなか)文世(ふみよ)という。|静岡沖大型生物対策機関(SOBEC)の長官だ。なったばかりだが」

「ソベック?」

「SOBEC、Shizuoka Offshore Biological Emergency Commandだよ」

 彼は、少し白髪の混じった髪を撫で付けるように触れた後、建物を指差した。

「荷物はこの二人に預けて、早く中に入れてもらえないだろうか」

「……」

 俺が荷物を預けないでいると、田中長官は言った。

「預かるだけだ。いきなり徴収するとか、破壊するとか、そういうことはしない。安心して渡してくれ」

 俺は頷いて、近づいてきた男に荷物(ドローン)を預けた。

 田村が小走りに建物に向かうと、田中長官は俺に言った。 

「我が国が今、どれほどの数の潜水艦に囲まれ、衛星の目で監視されていると思う?」

「えっ?」

「静岡沖を中心に、核ミサイルを積んだ原潜が配備され、衛星の映像は瞬きも許さない状況下で監視されている」

 つまり、あのワニ型生物は、まだ静岡沖でしか見つかっていないということだ。

 当然だが、Gも。

「君があの大型生物を誘導したことも、諸外国で今、必死に解析しているだろう。あれは…… 脅威に値するからな」

 田中長官は、俺のドローンへ一瞬、視線を向けるとそう言った。

 俺たちは、廃ゴルフ場のクラブハウスに入った。

 二階のレストランだった場所に入ると、俺と田村、田中長官が対面で座った。

 田中長官の横には小銃を持っていた自衛官が一人立ち、パソコンをテーブルに置いた。

「もう一人、この打合せに参加してもらう」

 俺と田村の方に画面を向けたノートPCに、ベッタリなでつけた髪型をした男が映し出された。

朝倉(あさくら)知彦(ともひこ)です。初めまして」

 俺たちはノートPCのカメラに向かって頭を下げた。

「君たちも混乱していると思うが、こっちも混乱している。私も、ついさっき参加を承諾したばかりだ」

「早速始めよう」

 田中長官が言うと、朝倉がノートPCに資料を映した。

「本当に今、慌てて書いたものだ」

 画面には朝倉が聞きたい質問がいくつも書かれていた。

 生物をどこまで把握しているのか?

 宇宙生物? 突然変異? 何を食べている?

 誘導する方法は? 電磁波? おんぱ?

 それらは本当に、思いつくまま書かれたようだ。

「初めに聞きたいのは、なぜ君たちがあの生物を誘導できたか? まるで以前から研究していたような気がする」

 俺は、ここで佐藤(さとう)先生の名前を出していいかの悩んだ。

 いや、俺たちが預かり受けた資料は全て佐藤先生がまとめたものだ。

 出さざるを得ないのではないか。

 だが、同時にその遺産を受け継いだ『俺たち』が生物を逃してしまったことにより、この静岡沖大型生物事件が引き起こされた、と言うことにされたら。

 何かややこしいことになる気がする。

 弁護士の古市(ふるいち)さんに相談するべきなのではないか。

 俺はいきなり口篭った。

「……あっ、えっと」

「資料はこれです。私たちの大学の『佐藤』先生から預かったものです」

「田村! なんでそれを」

 俺は慌てた。

「出した方が早いじゃない。今は世界の緊急事態なのよ」

 彼女は画面越しに朝倉へデータをやり取りする手筈を整えていく。

 田中長官がやり取りを見ながら言った。

「データの保存先が、他国のクラウドじゃなくてよかった」

 俺はテーブルに手をついて立ち上がった。

「ここから生物が逃げたんです。けど、逃げたのは俺たちがこの生物を知るずっと前だったんです。事故なんです」

「君たちの罪を問うたり、責めたりはしないよ」

 田中長官は、落ち着けといった風に手の平で抑えるようにしてみせた。

 俺が座ると、小さい声で言った。

「……少なくとも生物が暴れている間は」

「誘導している理屈はわかりました。殺す方法を考える前に、彼の誘導装置を載せたドローンを量産しましょう」

「わかった」

 田中長官は折りたたみ式のガラケーを取り出すと、電話をかけた。

「ドローンの手配を…… そうだ…… 誘導装置の回路は…… 頼んだぞ」

 電話を切ると、朝倉に回路図を送るよう指図した。

「で、今度は退治する方法だ」

「それは……」

「資料をざっと見たが、君たちはワニ型生物の方しか知らないのか?」

 その通りだ、と俺は思った。

 佐藤先生の研究は、カエルだかワニだかわからない、あの生物のことだけ。Gのことは一切書かれていない。

 俺は頷いた。

「やっぱり。田中長官、どうしますか?」

 田中長官は椅子の背もたれに体重をかけるように体を伸ばした。

 俺たちには、明らかに失望した目を向けた。

「情報は引き続き収集し、やれることに全力を尽くすしかないだろう」

 すると、田中長官の横に立っていた男が耳打ちした。

「何?」

 田中長官は、テーブルの方へ身を乗り出してきた。

「君たち、さっきの資料のことで聞きたいことがある」




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