女子会
ウィズテーラスとして、活動を始めて一週間が経った。二、三日は周囲も凄く騒いでいたし、ギルドへ毎回招集からの指名依頼の流れには、カイルさんも困った顔をしていた。
ともあれ、大分周囲の反応も落ち着いてきたし、活動も安定してきた。頃合いを見て、カイルさんにランクスさんの所へ行きたいとお願いしたら、快く承諾してくれたので、ここへ来ている。
「久しぶりに、来た気がするなぁ」
ランクスさんのいる館、ボカティオパレス。
一応、ギルドの方からランクスさんへ通達を出してもらったら、その日のうちに返答が来た。『何時でもいい、その日は一日開けておく』と。
扉の前には衛兵さんが。私を見ると、こちらへ歩いてきて声を掛けてくれた。
「貴女がもしかして、アメルさん、ですか?」
「は、はい。そうです」
オーガキラーの一件もあって、カイルさんが主導のパーティー、その一員である私も注目されているのかもしれない。そう思っていると、
「フルーラ様より『ランクス様にとって、大事な方です。アメルさんという、青色の綺麗な髪と瞳をしている女性が来たら通しなさい』と言われています。どうぞ」
「あ、ありがとう、ございます」
……自意識過剰でした、ごめんなさい。
私は恥ずかしくなりながらも、歩みを進める。扉には貸切、と書いてある立て札が。ノックをしてみると、勢いよく扉が開き、中からこじんまりとした女の子が出てきた。ランクスさんだ。眼鏡はしておらず、神官の格好もしていない。私服みたいだ。
「きたきた! 待ってたよ、アメルちゃん! ささ、入って入って!」
「お、お邪魔します」
笑顔で招いてくれるランクスさんに促されて、館内へと入る。
あの日、人生を変えてくれた机の上にはーー大量のお菓子が。ところせましと並んでいるお菓子に圧倒されていると、女子会だー! とガッツポーズをして、嬉しさを身体で体現しているランクスさん。そして、私へ向き直り話し掛けてきた。
「アメルちゃん何飲む? なんでもあるよ? なきゃ買ってこさせるし」
親指を向けた先には、衛兵であり執事もされているフルーラさんが微笑んでいた。会釈をされて、私も慌ててお辞儀をする。
「わ、私は何でも大丈夫です。けど、良かったら、お茶から頂けると」
「よしきた! フルーラ、一番いいやつ持ってきて」
「かしこまりました」
お気遣いなく、と言う暇もなくフルーラさんは立ち上がり、奥の方へ消えていった。ランクスさんは、そんなことお構い無しに、ここ座って、ここ! と、自身が座った隣の椅子をペシペシ叩いている。私が隣に座ると、ランクスさんは更ににこやかな笑顔を浮かべてくれて、私も釣られて嬉しくなってきた。
「……一応聞いとこうか。ライムって言ったね? アンタはアメルの護衛で来てるんだよね?」
私の肩にはカイルさんの従魔であるスライム、ライムちゃんが乗っている。一応、と言われてカイルさんが護衛に付けてくれた。
「そーだよー!」
「ならよし。何か食べたいのある?」
「たべたことないやつ!」
「ん。ゆっくり食べるなら、ここにあるの何でも食べていいよ。私達の分は残しておいて」
わかったー! と言って、ライムちゃんは机へと飛び跳ねた。一つ一つ食べ始めており、あまーい! と身体を揺らしている。可愛い。
「さて! これでゆっくりお話できるね、アメルちゃん!」
「はい、ランクスさんのおかげで、楽しい日々を送れています。ありがとうございます」
「……なんかそれ、固くない?」
「え?」
「前々から気になってたんだけど、アメルちゃん、固い。私達、ほぼ同世代だよ? 敬語、いらないって」
「え、そ、急に、言われても……」
「とりあえず、さ。名前、呼び捨てでいかない? お互いにさ」
ランクスさんは笑顔でこう言ってくれた。多分、これは自意識過剰ではなく、私と、仲良くしたいと思ってくれてるからこその提案だよね。応えたい、な。
「……分かりました。よろしく、ランクス」
「……っ! うん! よろしくね、アメル!」
ランクスが、余程嬉しかったのか抱きついてきた。私は温かい気持ちになりながら、ランクスの頭を撫でる。その様子を、奥から戻ってきたフルーラさんが、うんうんと頷きながら眺めていた。
ーーフルーラさんに淹れてもらったお茶を飲みながら、女子会? は、進む。このお茶、すごく美味しい。
「それにしても、オーガ、ねぇ。よく討伐出来たね。二体も居たんでしょ?」
ダンジョンでのオーガと対峙した話になり、ランクスは感心しながら、お菓子を頬張っている。私は、緊張感もほとんど無くなって、ありのままでお話できる様になってきていた。
「それこそ、カイルさんやアミカさん。救援のギルド職員さんがいてこそだったよ。私はほとんど何もしていないの」
「でも、アメルが赤いオーガに致命傷を与えたって報告にあったよ? 何したの?」
そう言われて、私がティアジャールさんの特殊弾を使ったこと、そして、眼について話した。その間、ランクスは百面相みたいな顔になっていた。
「あのおっさん、また危ないもんを。ギルド通してんのかよまったく……ま、それはいいや。私の仕事じゃないし。アメル、眼のチラつきはその頃からなんだよね?」
「うん。集中すると部位が光るの。【射士】のスキルだと思うんだけど、私にはよく分からなくて……」
「ウチがいるじゃん、任せてよ!」
みせてみ? と言って、ランクスは私を見つめてきた。ちょっと恥ずかしいなと思ったけど、多分、鑑定してくれている。
「……うん。その頃から発現したなら、このスキルだね」
「何か分かったの?」
「誰だと思ってるの? ウチだよ?」
ランクスは腰に手を当てて、エッヘン! とポーズを取る。可愛い。
「これは、万視、だね。万を視ると書いて万視」
「万視……」
ピンとこない。視ることに特化してそうな気はするけど……。
「多分、アメルが視える範囲なら、何でも視えると思う。ダンジョンで暗がりもそうだけど、聞いた話だと、めっちゃ遠い所で戦っている人達も視えたんでしょ?」
「うん……それは、あった」
カイルさんが元いたパーティー、オルサフォルム。そのメンバーが苦戦しているのを、順路沿いではあるが確認できた。距離はーー結構あったと思う。
「アメルの眼で現状分かるのは、暗視と遠距離を見るスコープの役割。それと、弱点が分かる事だね。ウチの知り合いに、視え方は違うけど色々と視えるスキルを持ってる奴がいるんだ。使い方はまるで違うことになるけど、そいつと同等クラスの眼になるとみた」
「え、そ、そう? ……なれたら、いいな」
ウチが言ってるんだ、自信持てい! とランクスは言ってくれた。
ーーなれたら、じゃない。ならなくちゃ、いけない。私も強くなって、カイルさん達と一緒に、冒険をするんだ。【射士】スキル、万視。私はこの眼を使いこなそうと誓った。