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入学式で考えた挨拶文を持ってこなかったので適当にアドリブで話したら、後で散々怒られました

 王立学園はこのハンブルク王国の最高峰の学園で、貴族の子弟を中心に13歳になる年の生徒から18歳になる生徒までの六学年が通う。入学式で一年生の席は一番前だった。クラスは全部で3クラスあって、私は右端のAクラスだった。基本は王立学園は成績順でクラスが決まるのだ。私はその一年生の席までお兄様に連れて行かれたのだ。

 目立つことこの上ない。

 お兄様は上背もあって、鍛えているからがたいもでかいのだ。私はお兄様に比べたら小さなこびとだった。


「誰、あのお子ちゃまは?」

「アルトマイアー様の一番下の妹じゃない」

「ああ、リーゼロッテ様の妹の」

「でも、リーゼロッテ様とは似ても似つかないわね」

「胸も無いし」

 私はそう言った女を睨み付けていた。

「何でも養子みたいよ」

「そうなんだ」

 女は慌てて私から目を逸らしてくれた。失礼な。私も少しくらい胸はあるわよ!


「ユリア、ここだ」

 お兄様は私をその中でも一番前の席に案内してくれたのだ。壇上の席から丸見えだ。

「えっ、一番前!」

 私はぎょっとした。こんな前では居眠りも出来ないじゃない!


「お前も話すんだろう。寝ている暇はないぞ」

 私の考えなんてお兄様はお見通しで呆れて言ってくれた。

 そうだった。私はお兄様とデザート1年分をかけて、必死に勉強して主席の座を勝ち取ったのだ。まさか主席が挨拶しないといけないなんて思ってもいなかった。

 決してずるなんてしていない。一次方程式の数学なんて簡単だったし、転生者のチート能力か外国語も全て見ただけで理解できたのだ。話せるかどうかはまた別だったが……。後は歴史と地理を覚えれば入学試験はなんとかなかったのだ。


「悪役令嬢だ」

 わたしは隣の女がぼそりと呟やいた言葉を聞いて、慌ててその言葉を吐いた女を見た。

 青髪のその子は私が睨んだのを見てまずいという顔をした。

 悪役令嬢ってなんだろう?

 お姉様に虐められている私が何で悪役令嬢なのよ! どう見ても私は悪役令嬢よりは薄幸のヒロインなんだけど……


 まあ、良い、後で聞こう。

 一番最初は国王陛下の挨拶は短かくて良かった。

「今年の新入生は聖女殿を始めユニークな生徒も多い」 

 という所で私をしっかり見てくれたんだけど、王宮のお茶会以来、私は陛下には会っていないし、何も変なことはしていないのに何でだろう?


 その後ろに立つ近衞騎士団長のお父様を見て嬉しくなって軽く手を振ったらお父様に睨まれてしまった。


 その後に続いた学園長の挨拶はどこともに同じでつまらなかった。


 寝そうになったけれど、前の壇上の端で目を光らせているマイヤー先生の手前、私は必死にあくびをかみ殺したのだ。まあ、挨拶文はマイヤー先生達の言葉をまとめたものがあるから、問題はないだろう。私は安心していた。


 そして、次はお兄様の挨拶だった。

 私は目を爛々と輝かせて、お兄様の言葉を聞こうとした。


「新入生諸君。王立学園に入学おめでとう。私が生徒会長のアルトマイアー・ホフマンだ。我がハンブルク王国は建国以来300年以来、武の国として近隣諸国に鳴り響いている。

 しかるに、最近は剣も満足に振れぬ軟弱な騎士も増えてきて、憂うるべき事態だ。この王立学園でも剣術の授業が選択科目になってから相久しい。しかしだ。それではいけないと言うことで、今年度から剣術の授業が必須になったのだ」

 お兄様はニコリとしたのだ。


「えっ」

「嘘!」

「そんな」

 女の子の中から悲鳴が上がった。


 私も今初めて聞いた。絶対にお兄様が無茶をして、先生等を説き伏せたのに違いないのだ。


「女子供であろうと、最低限の防御手段として剣の使い方はマスターしておいた方が良かろう。何しろこの国は始祖様が剣を手に作られた国なのだから。諸君の奮闘を期待する」

 私は盛大な拍手をした。もっとも女の子達はお兄様の言葉を聞いて唖然としていたけれど……


 お兄様は騎士団の挨拶みたいな感じで言い終えたんだけど……

 ちょっとこれはさすがにまずいんじゃないだろうか?

 マイヤー先生も頭を押さえているし……


「続いて新入生代表、一年ユリアーナ・ホフマンさん」

「はい」

 司会の先生に呼ばれて元気良く私は立ち上ったのだ。

「えっ、あの子が首席なの?」

「また、ホフマン家?」

「今年は聖女様もいらっしゃるのに!」

 皆が騒ぎ出した。なるほどマイヤー先生が危惧したのはこういうことなのか。確かにちゃんとした挨拶文は必要だけど、原稿用紙10枚分の挨拶文を読む私の身にもなってほしい!


「金で買ったのよ」

 私は壇上からそう言った隣のクラスの一番前のピンク髪の聖女を睨み付けた。

 あんたのせいなんだからね!


「ごほんごほん」

 後ろからマイヤー先生の咳払いが聞こえた。

 これはまずい!

 私は慌てて先生と作った挨拶文の紙を広げたのだ。

 そして、目が点になった。


『皆さんおはようございます。私は王太子殿下の婚約者のリーゼロッテ・ホフマンです』ってこれはお姉様の自己紹介の文じゃない。お兄様が私を膝に乗せたりしてくれたので、お姉様が間違えてえて私の鞄を持っていったんだ。私が雑貨屋で可愛い鞄を見つけてきたので、お姉様もそれが欲しいとだだを捏ねたのよ。髪飾りの件でお姉様の機嫌を損ねていたから、仕方なしに苦労して同じ鞄をもう一つ見つけてきたのに! こんな風に間違われるのならば別の鞄にすれば良かった。

 でも、後悔先に立たずだ。これを読む訳にはいかない。

 どうしよう?


「どうしたの?」

「緊張して挨拶を忘れてしまったんじゃないの?」

 私が黙ったままなので、皆ざわざわし出した。


「金と権力で首席の座を奪ったのが恥ずかしくなったんじゃない?」

 何言ってくれるのよ!

 最後のピンク頭の言葉に私はぷっつん切れたのだ。

 仕方がない。ここはアドリブだ。


「在校生の先輩方、並びに先生方。今日から私達はこの栄えある王立学園の生徒になりました。王立学園の生徒として恥じる事のない生徒になれるよう、精一杯頑張っていく所存です。私達がこの学園に入学するに当たって国王陛下ご夫妻もお忙しい中、わざわざこの場に来ていただいています。それに伴って近衞騎士団のわが父もここにいます。昨日はお前の晴れ姿を保護者席で見たかったと叫んでいましたが、陛下の後ろで見れるから特等席じゃない、と私は思いました。護衛しているからお前を見れないと叫んでいましたが、今はちゃんと私を見ているんですけど」

 お父様が頭を抱えていて、マイヤー先生も唖然としているんだけど……だって書面がないんだもの。

 陛下がお父様の前で笑っていた。


「我が家はエックお兄様から始まって私まで4兄姉続いて首席を輩出しています。公爵家はずるい、何か手を回したんじゃないかと巷では噂とされていますが、もし、それやるのならば一番上の現生徒会長のお兄様の代からやりますので間違わないでください。何しろお兄様は我が家で一番強いので、先生方を脅すのも簡単です」

 一部の生徒がどっと笑ってくれた。大半の生徒は唖然としていたけれど……

 私がお兄様のことをそこまで言うのが信じられなかったんだと思う。

 お兄様が少し嫌そうな顔をしたが、首席を取らないのが悪いのだ。


「それに王立学園は実力が全てです。忖度なんてしません。するなら、2年前、首席は我が家のフランツお兄様ではなくて王太子殿下がなられているはずです。それに今年は私ではなくて聖女様がなられているはずです。まあ、尤も聖女様はAクラスにもいらっしゃらないので、忖度しようもなかったのかもしれませんが」

 私は段の上からピンク頭を見下して笑ってやったのだ。


「な、何ですって!」

 ピンク頭が睨み付けてくれたが、知ったことでは無い。金で買ったとか権力を使ったとか訳のわからない事を言ってくれるからだ。


「何でもそつなくこなすエックお兄様は頭も良いので当然首席ですし、フランツお兄様は、自分が首席になれなかったにもかかわらず、お兄様に死んでも首席になれと脅されて涙目で寝る間も惜しんで勉強していました。でも、そこは絶対に王太子殿下に華を持たせなければいけないところだったと思うんですけど……」

 どっと一部の生徒が笑ってくれた。来賓席から王妃様がこちらを睨んでいるし、あんまりこの話題は止めよう。


「お姉様は私と違って首席になるために、あの礼儀作法のマイヤー先生の授業の時間も勉強していました。お陰で私はその間、ずっと個人レッスンで精神を削られていました。まあ、そのお陰で平民の私が今皆さんの前で普通に話せるように、少しは礼儀作法もましにはなりました。その点についてはマイヤー先生に感謝の言葉しかありません。我が家でお兄様の次に出来の悪い私が首席になれたのは、お兄様が私が首席になったら1年分自分のデザートをやろうと言ってくれたからです。私は食べ物がかかって負けたことはありません」

 そう言うと皆どっと笑ってくれた。これだけ笑いを取れれば良いだろう。

 私の家族はお兄様以外は皆頭を抱えてくれていたけど……


「お兄様、いや、生徒会長がおっしゃられたように今年から剣術が必須になったとのことに私も驚いています。ただ、私達子女は基本は先輩や、兄弟達に守られる存在です。守られる存在になるには、淑女でなければならないと我が家の礼儀作法の先生がおっしゃられたので、私は必死に礼儀作法の練習をしました。でも、我が家のお姉様は小さい時から学んでいるので、礼儀作法も完璧です。最近始めた私では到底適いません。学園では猫被っていますが、家では厳しくて、あなたそんなのも出来ないのと礼儀作法の先生と一緒になって私を虐め……いや、違ってご指導していただけるので、最近はなんとか少しは見れるようになりました。でも、淑女になったらダンジョンで守ってもらえるってお姉様には言われたのに、この前魔物に襲われたら、フランツお兄様はあっさりと私を見捨てて逃げてくれました」

「お前の方が強いだろうが!」

 遠くから罵声が飛んできたが、無視だ。

「私は怖くなって泣いていたらお兄様がやってきて魔物を倒してくれました。礼儀作法の授業より泣くことが大切だと私はその時に学んだのです。学園で魔物討伐の実技があると聞いていますが、女の子は泣けば周りの男の子が助けてくれると思います。と言うことで、先輩方と先生方、こんな右も左も判らない一年生ですがよろしくお願いします」

 私はなんとか話を終わらせた。

 エックお兄様とフランツお兄様とお姉様の怒りの視線を感じたけれど、

「良いぞちびちゃん」

「面白かったぞ」

 後ろから声援が飛んだので、私は適当に手を振ったのだ。

 後であの話はなんだと散々マイヤー先生に怒られたけれど、クラスの皆には好評だった。


爆弾発言のユリアでした。

後でどれだけマイヤー先生に怒られたのか……

次はホームルームです。

何故かそのマイヤー先生が……

続きは今夜です。お楽しみに!

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