帝国の皇弟の娘視点 公爵家の嫡男が妹を抱き上げて歩くのを見てショックを受けました
「何なの? あの女は、いくら養女の妹とはいえ、アルトマイアー様と近すぎるんじゃないの?」
ダン!
私は部屋に入るなり、傍にあったクッションを壁に打ち付けていた。
ソファに座っていたときも、アルトマイアーとくっついて座っていたし、私には許せなかった。
ハンブルク王国の留学生活は思ったほどは上手くいっていなかった。
再会したアルトマイアーはとても凜々しく成長していて、帝国でも美しいと評判だった私の横に立っても見劣りしなかった。私は見た瞬間に再度アルトマイアーに恋してしまったのだ。
しかし、再会したときに、私を男だと思っていたと言われたときには危うく気絶してしまうところだった。
いくら子供の頃にボーイッシュな格好をしていたからって私を男と思っていたなんて、絶対にあり得なかった。
でも、その後動けなかった私をわざわざ抱き上げて教室まで運んでくれた。
昔も疲れ切って動けないと言う私をよくそうして運んでもらえたのを思い出したのだ。
「うーん、しかし、あのような抱き上げ方は初めて見たのですが」
それを見ていたフローラが驚いていた。
「俺はどちらかというと荷物を運んでいるように思えたんですけど」
「コンラート!」
私の側近のコンラートはフローラに叱られていたが、確かに元々アルトマイアーは人の扱いが雑なのだ。
私が疲れ切ってうずくまっていたら
「大丈夫か? 本当にツェッツィは体力がないな」
そう言って呆れつつも私をよく肩に担いで運んでくれた。
確かに荷物を運ぶみたいだ。しかし、人を運ぶにはいくらアルトマイアーが力が強くても、肩に担ぎ上げないと運べないだろうと私は思ったのだ。
クラスではアルトマイアーは基本的に女性とはあまり話されなくて、男の中にいた。
でも、私にはきちんと話してくれたのだ。
その日も放課後アルトマイアーと昔話に花を咲かせられた。私は優越感に浸れたのだ。
そのアルトマイアーが帰った後だ。
コンラートが部屋の中を銀髪の女が覗き込んでショックを受けていたと報告してくれた。
「妹のユリアーナではないですか?」
フローラが推測してくれた。
「リーゼロッタではなくて?」
私はユリアーナなんか者は知らなかった。
「ツェツィーリア様が帝国に貴国された後に、養女として入ったみたいで、元平民だそうですよ」
フローラが教えてくれた。
「ああ、あの公爵の隠し子だと噂されている」
コンラートも話しに加わってきた。
私はその時はそんな妹がいるんだと軽くながしたのだ。
でも、王妃様のお茶会で、その妹にアルトマイアーが食べさせしているのを見て私はショックを受けた。
なんか仲が兄と妹というよりも恋仲と言った方が良い距離感なのだ。私はさすがに胸が騒いだ。
「アルトマイアー様、少し宜しいかしら」
私は果敢にもその2人のところに行ったのだ。アルトマイアーに微笑みかけた後に、ユリアーナを睨み付けたのだ。
「ああ、ツェッツィ。皇女殿下をするのも中々大変だな」
アルトマイアーが私に返事してくれた。妹のユリアーナは私の睨み付けで理解したみたいだった。
「どうしたんだ、ユリア、いきなり立ち上って?」
「ちょっとお姉様。クラウス様が大変よ」
「えっ? でも」
「いいから行くわよ」
ユリアーナはリーゼロッテと席を立ち上ってくれた。
それを見るとアルトマイアーの弟たちも慌てて席を立って外してくれた。
私はアルトマイアーと二人きりになったのだ。
そんな中でだ。
「ツェッツィ、これはうまいぞ」
そう言ってアルトマイヤーは私の口の中に西瓜を入れてくれたのだ。
私は唖然とした。確かに昔は良くアルトマイヤーに食事の時にもっと食べろといろんな物を食べさせられていたが、まさか、この年になって食べさせられるとは尾もつてもいなかったのだ。
「キャーーーー」
「アルトマイアー様がツェツィーリア様に食べさせされたわ」
「妹じゃなくて」
「帝国の皇女殿下にされるなんて」
周りの者が騒ぎ出したが、私は真っ赤になってよく聞こえなかったのだ。
もう、こうなればアルトマイアーに嫁ぐしかない。
ホフマン公爵家にしても帝国の皇弟の娘が嫁ぐ事はとても名誉なことであろう。
私は諸手を挙げて歓迎されると思っていたのだ。
しかし、その前からお父様から打診している婚約の話が進んでいるという話は中々入ってこなかった。
なんでも、公爵家から色よい返事が返ってこないらしいのだ。
私には信じられなかった。普通は公爵家といえども高々属国の貴族だ。帝国本国ならば伯爵家くらいの扱いになる。皇弟の娘の降嫁はとても名誉なはずだ。我が国の伯爵家ならば涙を流して喜ぶだろう。
「ツェツィーリア様、アルトマイアー様は妹のユリアーナを溺愛しているという噂があります」
教会のホイットニーが教えてくれた。
「そうなのです。あのユリアーナは平民のでなので、皇女殿下のご威光が判らないのです。自分の体を使ってアルトマイアー様を取り込んでいるのではありませんか」
聖女までそう話してくれた。
聖女はハンブルクの王太子との仲をユリアーナに散々邪魔されているらしい。
まあ、元々王太子には婚約者がいるから婚約者の妹のユリアーナの行いがあながち間違いとは言えないのだが、今まで聖女が出れば王太子の婚約者は辞退していたそうなのだ。公爵家はこの国で力があるのを振りかざして権力を行使して、他の貴族達を圧倒しているらしい。
なんでも、その中心にあの平民のユリアーナがいるというのだ。平民出なので、貴族の常識など知らないらしい。血が繋がっていないのをいいことにアルトマイアーの配偶者に収まって権力の中枢に座ろうとしているらしいのだ。私はそれが許せなかった。
丁度父の元から親しい魔術師が来ていたのだ。
教会貴族の伯爵家が子爵家を取り込もうとしていたが、そのユリアーナが邪魔しているらしい。
私はカスパルに伯爵家の手伝いをするように示唆したのだ。
「うまくいけば殿下の憂いを取り去りましょう」
カスパルはそう言って笑ってくれたのだ。
私はまさかカスパルがユリアーナを亡き者にしようと画策したとは思ってもいなかったのだ。
事が失敗に終わったと報告されたときに私は驚いた。
「まあ、殿下。公爵家の娘の一人や二人死んだところでどういう事はありますまい」
お父様からつけられたバルトルトに言われて、私は更に動揺した。
「失敗したカスパルをそのままにしておくのは何かとまずいので殿下の名前で取り戻しますね」
私はバルトルトの言葉に頷くしか出来なかった。
そんな時だ。アルトマイアーが我が離宮に来たと聞いて、私は喜んだのだ。
やっと父から持ちかけている婚約の話が整ったのだろうか?
私は喜んでアルトマイヤーを迎え入れたのだ。
そうしたら、そこにはアルトマイアーだけで無くて、その妹までいたのだ。それも銀髪のとてもきれいな妹が。今まであまり見たことは無かったが、よく見ると今はまだ子供だが、いずれ絶世の美女になるかという容姿だった。
そして、アルトマイアーの言葉を聞いて婚約の話では無いと気付いた。アルトマイアーはカスパルを返せと言いにきただけだった。
「宗主国の帝国にそのような要請をするなど、帝国を舐めているとしか思えませぬ」
とバルトルトは後で怒っていたが、私は取りあえず、アルトマイアーに謝ったのだ。私はまだアルトマイアーとの仲を諦めた訳では無かった。アルトマイアーは怒り出すと後が長いのだ。ここは言葉を濁して誤魔化したのだ。単純なアルトマイアーは私が調べると言う言葉に素直に頷いて帰ってくれた。
後は適当に流していけばいずれ忘れるだろう。私は何しろ帝国の皇女なのだから。
そんな私はアルトマイアーから視線をそらせてアルトマイアーの手元を見た。
そうしたらその左手の薬指に緑色の宝石をつけた指輪を見つけたのだ。
今まで無かった指輪だった。そして、その横のユリアーナの指を見ると青い指輪が左手の薬指に嵌っていたのだ。私は唖然とした。これは何かの間違いだろう。たまたまが重なったに違いない。私はそう思おうとした。
しかし、アルトマイアーが帰る時に私は更に衝撃を受けたのだ。
何とアルトマイアーはユリアーナを軽々と左手で抱き上げたのだ。
私を荷物のように肩に担ぐのでは無くて、愛しい幼子を抱き上げるように……
私はその時に初めて私は女としてアルトマイアーに扱われていないことに気付いた。
去って行くその2人の指輪がキラリと光っていたのだ。
ゆ、許さない。私をここまで虚仮にしてくれて、絶対にユリアーナは許さないわ。
私は歯ぎしりして心に決めたのだった。
ここまで読んで頂いてありがとうございました。
アルトの心を知って怒り狂った皇女。
どうなるユリア?
続きは今夜です
お楽しみに