屋敷に帰ったら帝国の使者が捕まえていた魔術師を連れて行ったとのことで、お兄様が皇女様に抗議に行くのに無理矢理連れて行かれました
私はお兄様にそんなに高価な物ばかり買ってもらうのは悪いと断ろうとしたんだけど、
「俺が可愛い妹に買う段には問題ない」
お兄様は私の言うことを聞いてくれなかったのだ。
私は帰り間際に左手の薬指に、お守りだとお兄様に言われて青いサファイアを着けさせられた。お兄様も自分の左手の薬指に緑のエメラルドをはめてくれたんだけど、薬指に嵌めるのは何か違うような気がするんだけど……
お兄様曰く、お守りを効率的に作動させるには左手の薬指が一番良いそうだ。確かに初代ホフマン公爵とその妻の聖女様は左手につけていたけれど、そういう理由なんだろうか?
お兄様は絶対にそうだと主張してくれたけれど、私は少し信じられなかった。
そして、私達は店の者総出でお見送りされた。
お兄様は部屋を出るときも私を抱き上げてくれた。
私が歩けるって言ったんだけど、転移するには抱きあげた方が転移しやすいって言われて、仕方なしにお兄様の言う通りしたんだけど、小さい子供でもないのに!
「世話になったな」
「いえ、こちらこそ、今後ともよろしくお願いいたします」
全員が頭を下げてくれたときだ。
お兄様は転移したくれた。
次の瞬間には今度こそお兄様は公爵家の玄関に転移してくれた。
でも、公爵家の玄関は何やらとても騒々しかった。
騎士達が次々に駆けてくるんだけど。
「ギルベルト、一体どうしたのだ?」
お兄様を迎えに来た護衛騎士のギルベルトに聞くと、
「アルトマイヤー様。お帰りなさいませ」
ギルベルトが挨拶した。
「実はアルトマイアー様が捕まえられた帝国の魔術師のカスパルが、帝国の皇女殿下の使者なるものの命令で連れ出されたのです」
ギルベルトが言いにくそうに報告した。
「何だと! 我が騎士達が何故帝国の皇女の言うことを聞くのだ?」
お兄様がブチ切れた。
思わず全員ビクリとした。
「申し訳ありません」
慌ててギルベルトが頭を下げた。
「エックハルトはどこだ?」
お兄様はギルベルトに聞いた。
「会議室にいらっしゃいます」
「判った、すぐに行く。ユリアは部屋に戻れ」
お兄様が抱き上げていた私を下に下ろしてくれたが、
「私が捕らえた魔術師の事でしょう。私も聞く権利があります」
こういう時こそ、連れて行ってほしい。
「いや、しかし」
「なんと言われようとついて行きます」
「勝手にしろ!」
お兄様が早足で歩き出した。
私はそれに駆けてついて行った。
「エック、どういう事だ? 我が騎士が勝手に帝国の言うことを聞くなど言語道断では無いか!」
お兄様は部屋に入るなり、エックお兄様に怒鳴り散らしていた。
「申し訳ない。兄上。俺も聞いたのは魔術師を解放した後だった」
エックお兄様が謝ってきた。
何でもその使者は、公爵家の騎士団の詰め所に、王都騎士団の騎士長と30名の帝国騎士を連れてきたそうだ。
「皇帝陛下の魔術師を拘束するとはホフマン公爵家は陛下に反逆を企んでいるのか?」
と使者は最初から上から目線で、詰問してきたのだとか。
「上に問い合わせると現場間の責任者が突っぱねたのだが、騎士長と使者に詰め寄られて、これ以上、拘束を続けるならば陛下に反逆罪として上奏すると言われて、責任者はやむを得ず解放したそうです」
エックお兄様の説明に、お兄様は舌打ちした。
「帝国の使者に丸め込まれるとは、なんと言うことだ。エックハルト、直ちに王都騎士団に抗議してこい。そして、謝罪文を持ち帰ってくるのだ。ない場合は我が公爵家に対しての敵対行動で攻撃すると伝えよ」
「えっ、兄上、本気ですか?」
エックお兄様は唖然としていた。
「当然だ。我が公爵家の騎士に対する命令権は例え皇帝といえども無いはずだ。それを高々侯爵家の騎士長が命令するなど、我が公爵家に対する敵対行為では無いか! 俺は許さん」
お兄様がそう断言した。
「フランツ、全公爵家の騎士に再度、命令権が誰にあるか徹底させろ。基本は全て父上にある。帝国だろうが国王だろうが、我が騎士に命令する権限は無い」
「判った兄上」
フランツお兄様が頷いた。
「それとギルベルト。カスパルを脱獄犯として直ちに王国の全ての騎士達にお触れを回せ」
「宜しいのですか?」
「当然だ。全責任は俺が取る。どんなことがあっても探し出せ」
そう命令するとお兄様は立ち上ったのだ。
「どちらに行かれるのですか?」
エックお兄様が慌てて尋ねた。
「ツェッツイのところに行く」
「えっ、帝国の皇女殿下のところですか? しかし、兄上が行くと下手したら外交問題になるのでは?」
エックお兄様はとても心配そうな顔をした。
「既に外交問題になっているわ。帝国は領主の配下の騎士に対する命令権を侵害したのだ。これは重大な問題だ。今回はツェッツイの使者だと帝国側は言ったのだろう。俺がその真意を確かめてくる。元々父に確認するように言われていたのだ。まさか、帝国が休みの間に動くとは想定していなかった俺の責任でもある」
「しかし、兄上」
エックお兄様が止めようとしたが、
「お前にキンメル侯爵家に行かせるのだ。俺がここでのうのうとしている訳には行くまい」
お兄様は行く気満々みたいだった。
「判った。兄上。行くなとはもう言わない。その代わり、ユリアを連れて言ってくれ」
「えっ、私?」
私は驚いた。私は外交には一番不向きなんだけど……それにお兄様と仲の良いツェツィーリア様とあまりお話はしたくないんだけど……
「ユリア、兄上が暴走しそうになったら何があっても止めてくれ」
エックお兄様は私に小声で頼んで来た。
「そんな、エックお兄様。私には無理よ」
「頼むぞ」
エックお兄様が私に拝んできた。
お兄様の暴走なんて止められないんだけど……
「仕方が無い。ユリア、行くぞ」
ええええ! 待ってよ! そんなの私には無理だって!
私の心の声を無視してお兄様は私を抱き上げると転移してくれたのだった。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
ツェツィーリア様のところに抗議に行くお兄様とユリアでした。
果たしてユリアはお兄様の暴走を止められるのか?
お兄様とツェツィーリア様の仲はどうなる?
続きは明日です。
お楽しみに!








