礼儀作法の先生と姉に入学式の挨拶分を延々と考えさせられました
「ユリアーナさん、なんですか? その礼は!
両手を伸ばして、そう、指先まで伸ばす。そして、背筋が曲がっています。伸ばして! はい、もう一度!」
「はい!」
私はマイヤー先生に返事すると礼をした。
今朝もお姉様と一緒に受けさせられている礼儀作法の授業で、私はザビーネ・マイヤー先生から徹底的に絞られていた。
私は相も変わらず礼儀作法はお姉様に比べて苦手だった。それに対してお姉様は小さい頃から王太子殿下の婚約者目指して努力してきたので、完璧だった。そう、そんな私がお姉様と同じ動きなんて絶対に出来る訳はないじゃない!
だから2人で受けさせられるようになってからは、私がいつもマイヤー先生に徹底的に虐められて、いや指導をうけていたのだ。
特に今日は髪飾りとアイスクリームの恨みで、お姉様は怒り狂っているみたいで、マイヤー先生と一緒に白い目で私を見てくれるんだけど……
酷い! 私の方が小さいのに! 2人とも悪魔だ。
でも、ここにはお兄様もいないし、私を助けてくれる人は一人もいなかった。
何で女だけ礼儀作法を勉強しなければいけないんだろう? フランツお兄様もやれば良いのに! 絶対に私と同じだけ、出来ないはずだ。
私は絶対に乙女ゲームの世界で姉に虐めまくられる不幸なヒロインに転生したに違いない。私はそう思ったのだ。乙女ゲームなんてやったことなかったから詳しくは全然判らなかったけれど……
ただ、ここまで礼儀作法で指導という名の虐めを受けていたら、先生とお姉様に虐められて失意の中に死んでしまう悲劇のヒロインの設定かもしれないと思いついたのだ。
可哀相なユリアーナは二人に虐められて死んでしまうのだ……可哀相なリアーナ……
そう一人で自分の世界に入り込んでマイヤー先生の言葉を適当に流していたら、
「ユリアーナさん!」
マイヤー先生の雷が落ちて、それからがまた大変だった……
「ユリアーナさん、ところであなたは、首席で王立学園に入学すると聞きましたが、新入生代表として挨拶しないといけないんでしょう。挨拶文は考えたのですか?」
やっとマイヤー先生が話題を変えてくれた。
「えっ、挨拶って何ですか?」
私の言葉にお姉様と先生は頭を抱えてくれた。
「入学の案内状に書かれていたでしょう!」
先生が指摘してくれたし、
「エックお兄様が教えてくれたじゃない!」
お姉様が教えてくれた。
「ああ、何か適当に話したら良いってエックお兄様が言ってたあれね」
私は思いだした。確かお兄様は思い付くままに話をしたそうだ。
「ユリアーナさん! あなたは何を言っているのです! 私の教え子がそんな適当な挨拶をするなんて事は許されるわけはないでしょう!」
マイヤー先生が激怒してくれたし、
「エックお兄様は天才だからなんとでもなったかもしれないけれど、あなたがそんな事したら、飛んでもないことを話しそうじゃない!」
お姉様まで言い出してくれたのだ。
「本当です。ユリアーナさんは王太子殿下の婚約者の妹なんですから。ちゃんと考えてもらわないと王家までが恥をかきます。それに今年の新入生の中には久しぶりに聖女様もいらっしゃるのです。その方の前で恥を曝してはいけません」
「聖女様?」
私はよく知らなかった。聖女って、確かよくラノベとかに出てくるやつだ。私が前世で読んだ本の中の聖女様はとても清廉な子なんだけど、周りから虐められていた。特に悪役令嬢が虐めていて、本当に可哀想だった。そんな子がいたら、私なら庇ってあげるのに!
「教会は聖女様こそ、王太子殿下の婚約者に相応しいとか訳の判らないことを申しているのです」
「えっ、だって王太子殿下の婚約者はお姉様ではないですか!」
「そう、だから、ここで、殿下の婚約者の妹のユリアーナさんが、恥をかいて教会に付け入る隙を与えてはいけないのです」
そこまで言われたら、仕方がない。お姉様は私には意地悪だけど、一応私のお姉様だ。少しはお姉様の為に頑張ろう。
そう殊勝にも思ったことが間違いだった。それから延々、ああ、でもないこうでもないと二人して意見を出してくれたのだ。
私がそれをまとめさせられたんだけど、本当に、大変だった。
『暖かく、やわらかい風に包まれ、桜が満開を迎え出した頃、陛下並びに王妃様はじめ、学園の様々な関係者の方々のご尽力によって、春の訪れを感じるこの良き日に、私達は新入生として、この歴史と伝統ある王立学園に入学する運びとなりました……』
文章にして、原稿用紙十枚くらいの大作なんだけど、これを私に覚えろと言うの?
私は目の前が真っ暗になった。
マイヤー先生への賛辞が2ページ、王家に対しての賛辞が1ページ、学園に対しての賛辞が半ページもあるんだけど……何でマイヤー先生への賛辞が2ページもあるんだろう?
テスト科目に礼儀作法は1問も出なかったのに……私の貴重な勉強時間をいつも2時間も使われて、邪魔にしかならなかったんだけど……出来たら主席になるための勉強時間を作るために礼儀作法の授業をなくしたいってお父様に頼んだら、お姉様に大反対されて、結局お父様もうんって頷いてくれなかったんだけど……お姉様はマイヤー先生の弾除けに私を置いておきたいだけだと思う。私と一緒だと私の粗しか目につかないのだ。
まあ、口が裂けてもマイヤー先生にそんなこと言えなかったから、仕方なしに、そのまま言うがままに書いたけれど、こんな文章は絶対に覚えられない。
先生もさすがに、暗記するのではなくて読むのを許してくれたけど、これを全校生徒の前で本当に読むの? マイヤー先生の礼儀作法の注意満載の挨拶をそれが出来ていない私が読むって、罰ゲーム以外の何物でもない。
私は目の前が真っ暗になってしまった。
礼儀作法の苦手のユリアでした。
ついに次から王立学園です。
天敵の聖女の登場です。今夜更新予定です。
お楽しみに