兄や姉が順番に帰って来るように言ってくれましたが、私はそれを断って友人の家に行くことにしました
お兄様はすごすごと引き返して行った。
「良かったの? ユリア、何かアルトマイアー様はご用がおありだったように見えましたけれど」
「良いのよ。お兄様は。ツェツィーリア様と仲良くしてくれていれば」
ビアンカの言葉に私は首を振っていた。
「そう? ユリアを愛しく見ていたような気がしたけど」
「良いのよ。いつもの事だから」
ムカついていた私はビアンカに言いきったのだ。
今日の帰りはどうしよう?
今はお兄様とは会いたくないし、今度はマリアの家にお邪魔しようかしら。
私は家に帰りたくなかったのだ。
「ユリア、エックハルト様がいらしたわよ」
「えっ? エックお兄様が?」
私は教えてくれたマリアの声に驚いた。エックお兄様が教室に来るなんて初めてだ。
「どうしたの? エックお兄様?」
「いや、ユリアが元気かなと思って」
私はまじまじとお兄様を見た。
「どうしたの、エックお兄様、熱でもあるの?」
私は慌てて、エックお兄様の、額に手を当ててみた。
「何をする?」
エックお兄様は慌てて、私の手を退けてくれたんだけど。
何で?
「熱なんかない!」
「だって、エックお兄様は私が高熱を出して寝込んでいた時ですら、『ユリアは夕食を食べたら、治るだろう』って言ってたって皆に聞いたけど」
「その通りに治っただろう?」
ムカつくことにその通りなんだけど……
「あれはお医者様がくれた薬が良かったのよ」
私は反論した。
「何言っているんだよ! 医者は『ユリアーナ様にはあめ玉を渡しておきました』って言っていたぞ」
「嘘、あれあめ玉だったの?」
薬にしては甘くておかしいと思ったのよ。
あの医者、真面目に人を診なさいよ!
私は切れかけたんだけど、
「あの時は俺たちは誰も心配していないのに兄上だけが心配してうろたえていて面白かったな」
「全然面白くないわよ!」
私は叫んでいた。人の事を少しは心配しろ。
私が高熱を出したのは、その前にダンジョン潜っていて、毒グモの毒にやられたからだ。
「『普通のものなら、死ぬ可能性もありますが、ユリアーナ様の免疫力なら、なにもしなくてもすぐに治りますから』とその医者は太鼓判を押していたからな」
エックお兄様は更に酷い事を言ってくれるんだけど。普通の人は死ぬかも知れないのに、何故私はすぐに治るのよ! 絶対におかしいじゃない!
「なるほど、ユリアは昔からおかしいのね!」
マリアが横で納得してくれるんだけど、絶対におかしい!
私は納得がいかなかった。
「で、私が毒グモに襲われても大丈夫だと思っているエックお兄様が、私の何を心配しているのよ?」
私が質問すると、
「いやあ、兄上が機嫌が悪くてだな、是非ともユリアには家に帰ってきてほしいなと思って」
「はああああ! 嫌よ! 私はしばらくは帰らないから」
私はお兄様とは会いたくないのだ。
「そこを何とかしてくれないか? 俺のデザート一週分差し出すから」
私はそう言うエックお兄様をまじまじと見た。ケチなお兄様がデザートを差し出すなんて、絶対に変だ。
「嫌よ」
でも私の声は少し小さくなっていた。
「じゃあ、二週間分で」
「えっ?」
ケチなエックお兄様が二週間もデザートを私に差し出すなんて、あり得なかった。
私は思わず頷く所だった。
「デザートを何年分積み上げても帰らないから」
ダメだ、ダメだ。
私は良心を総動員して、断ったのだ。
「そうか、残念だな、こんな機会はめったにないのに!」
エックお兄様は断った私が悪いような言い様で帰って行った。
ふん、絶対に帰らないんだから!
でも、次の授業の終わった時には、今度はフランツお兄様がやってきたのだ。
何なのよ!
「ユリア、頼む、帰ってきてくれ! 昨日も半徹夜の訓練に付き合わされて、このままでは俺は死んでまうんだ」
フランツお兄様が私を拝んできた。
死にそうだと言いながらフランツお兄様が差し出した条件はデザート1日分しかなかったんだけど……
ちょっと待ってよ!
フランツお兄様からデザートを1日分くらい取り上げるのに苦労はしないわよ!
フランツお兄様の弱みなんて山のようにあるんだから!
そんなの条件にも入らないわよね。
それも何故、エックお兄様よりも条件が悪くなっているのよ!
私があっさりと断った後だ、今度は満を持してお姉様がやってきたのだ。
「ユリア、お父様も心配しているからいい加減に帰ってきなさい」
それもお姉様は最初から命令口調だった。
「いやだ。しばらく帰りたくない」
私がそう言うと、
「なに我が儘言っているのよ。私なんてあの淫乱聖女がクラウス様の周りをいつもうろついているのに、それにもめげずに、クラウス様の前に出て行っているのよ。お兄様が少しツェツィーリア様に食べさせたくらいで、何を文句言っているのよ。一番の犠牲者は淫乱聖女がそれを真似てクラウス様に食べさせしてくれたのを散々見せつけられた私なんだからね」
堂々とそれが言えるお姉様は凄い。
「申し訳ないけれど、お姉様、今日はマリアの所にお世話になるってもう約束しているから」
でも、私はお兄様に会いたくなかったのだ。
「えっ?」
聞いていなかったマリアは唖然としていたが、
私は無理矢理マリアの手を取ってマリアに懇願の視線を向けたのだった。
「ね、マリア」
「え、ええ」
仕方なさそうにマリアは頷いてくれたのだった。
私はその様子を教室の扉からじっと覗いている影があるとは思ってもいなかったのだ。
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つきまとう不審な影、ユリアの運命や如何に?
続きは明日です








