食事時に何故か会いに来たお兄様をすげなく追い返しました
私の言い分も聞かずにお兄様がツェツィーリア様を優先してくれた……
私にはとてもショックだった。
今まで私以外の女の人をお兄様が優先することなんてなかったのだ。
お姉様と私が争った時も大体私を優先してくれていたのに……
きれいなツェツィーリア様に私は負けてしまった。
それも相手は我が国の宗主国のお姫様だ。
どこの馬の骨とも判らない私と比べるまでもないこととは判っていたけれど……
でも、なんで…………
何だが後から後から涙が流れてきた。
キンコンカンコーン キンコンカーンコーン
一時間目の終わりの鐘が鳴った。
私は一限の授業を完全にサボってしまった。
私はのろのろと立ち上がろうとして、柵がぐらりと動いたのを感じた。
「えっ?」
私は頑丈な柵を力一杯揺すったので、ガタが来てしまったらしい。そのまま倒れそうになっていた。
「やばい!」
こんなのが知れたらまたマイヤー先生に叱られる。それに確か二限目はマイヤー先生の授業だ!
まずい!
私は現実問題に我に返った。
私は柵が動かないようにその辺りに生えていた木を抜いて、つっかえ棒にすると慌ててその場を離れたのだ。
「ユリア!」
「ユリア、大丈夫だったの?」
私が教室に戻るとあっという間に心配そうな顔をしたビアンカらに囲まれた。
「ちょっとユリア、目が真っ赤よ」
マリアが私の顔を見て指摘してくれた。
「えっ、そんなに目立つの?」
私は慌てた。
マリアが手鏡で見せてくれた。確かに私は泣いて真っ赤になっていた。
どうしよう、こんな顔で授業出たらまた何言われるか判らない……
「大丈夫よ。ユリア」
そう言うと、マリアが癒やし魔術で治してくれた。
「凄い、マリア、癒やし魔術が使えるんだ」
私は驚いた。
「聖女様ほどじゃ無いけれどね」
「それでも凄いわよ。我が公爵家にスカウトしたいくらいよ」
「こんなので良ければいくらでも治してあげるわ」
マリアが言ってくれた。
「皆さん、何を立っているのですか? 授業はとっくに始まっていますよ」
そこに現れたマイヤー先生は最初からお怒りモードだった。
私達は慌てて席に着いたのだ。
「最近、学園内の風紀が乱れています。これはゆゆしき問題です」
マイヤー先生がのっけから皆を見渡した。
確かにピンク頭が誰彼構わず抱きついているという噂があった。それは問題だろう!
「我が学園の本文はあなたたちを将来この王国をしょって立つ立派な人間に育て上げることです。風紀を乱すことは許しません」
単純な私はこの先生の言葉でクラウスにつきまとうピンク頭を正々堂々と雷撃できると思いついたのだ。
やる気になった私に向かって、
「判りましたね、ユリアーナさん」
先生が振ってくれた。
「判りました。これで正々堂々と婚約者がいるにもかかわらず、イチャイチャしている王太子殿下と聖女様をただすことが出来ます」
私は自信を持って言い切った。
「何を言っているのですか?」
でも私の言葉にマイヤー先生は頭を抱えててしまったんだけど……何で? いつでもあの二人を攻撃するつもりは満々なんだけど……
「あの二人もそうかもしれませんが、いくら兄妹とはいえ、学園内でお互いに食べさせ合うなんて破廉恥な行為はしないように言っているのです」
私は初めてマイヤー先生が言いたかったことが理解できた。
でも、あれは王宮だし、学園ではない!
そう思うと同時にツェツィーリア様に食べさせしているお兄様の事が蘇って悲しくなってきた。
それに、お兄様はさっきも私よりもツェツィーリア様を優先したのを思い出した。
私の目に涙が一筋流れたのだ。
「ゆ、ユリア!」
「ユリアーナさん、ど、どうしたのですか」
マイヤー先生が驚いた顔をした。
「な、何でもありません」
「先生、酷いです。ユリアーナさんは……」
「ビアンカ良いの!」
それ以上言おうとしたビアンカを私は止めたのだ。
必死に涙を止めようとしている私にマリアが寄り添ってくれた。
「とりあえず、学園内では破廉恥な行為は認めませんからね。授業に入ります」
マイヤー先生は慌てて授業に入ってくれた。
私はマリアからハンカチを借りて必死に涙を流さないようにした。
授業では私が泣いたからか珍しくマイヤー先生は私に優しかった。
涙は先生にも有効だと私は初めて知ったのだ。
これからも折に触れて泣こうかしら……そう思ったときにお兄様に冷たくされたことが思い起こされて私は悲しくなった。
その後の二時間の授業はマイヤー先生が他の先生に注意したのか、私は腫れ物扱いだった。いつもは雑用をいろいろさせられる歴史のコルネウス先生も、雑用にはビアンカを指名していたし……いつも当ててくる数学のデニス先生も今日は私を当てなかった。
お昼休みになった。私を気にした皆はビアンカを中心に私を囲んで食堂に大挙して行ったのだ。
場所は騎士見習いのダミアンらが授業終わるとダッシュで取りに行ってくれていた。
私達は皆で座って食事をしたのだ。
私は皆の友情を感じて嬉しかった。
皆は私とお兄様のことを気にしたのか、恋人とか兄弟の話ではなくて当たり障り無い話をしてくれた。
ビアンカが自分の領地の話をしてくれていたときだ。
周囲が少し煩くなった。
「ちょっと、私はこの国の聖女なのよ! 通しなさいよ」
ピンク頭がクラウスの所に行こうとして騒いでいた。
「クラウス様の婚約者はリーゼロッテ様です。むやみに他の女性を近づけないようにマイヤー先生と生徒会長から厳命されています」
ランドルフ等に止められていた。
マイヤー先生もやるときはやってくれるんだ。私はお兄様の事は無視した。
「な、なんですって」
聖女は叫んだが、少し顔色が悪い。
「これ以上騒がれますとマイヤー先生に報告しますが」
ランドルフに言われてすごすごとピンク頭は諦めていた。
私はスカッとした。ランドルフ等もやる時はやるのだ。
そう私が感心した時だ。
「これ以上はご遠慮ください」
「なんだと、俺はユリアの兄だぞ!」
「お兄様でもです」
私の元に何故か来ようとしたお兄様と止めようとしたダミアンとゲオルクが揉めていた。
私のも周りに緊張が走った。
ダミアン等ではお兄様は止められないだろう。
私の所ではなくてツェツィーリア様のところに行けば良いのに!
私はむっとしてお兄様のところに行ったのだ。
「お前らな!」
お兄様が威圧を発動しようとした時だ。
私がダミアン等の前に出たのだ。
「ユリアーナ様!」
私を気遣うダミアン等に目配せして私はお兄様を見たのだ。
「なんなの? お兄様」
お兄様は私が不機嫌なのが判ったみたいだ。
「いや、折角だから一緒に食事でもどうかと思ったのだが」
私はお兄様の言うことがよく理解できなかった。
「お兄様。私は親切なクラスメートの皆様と食事していますの。お兄様もクラスメートのツェツィーリア様等と食事なさったらいいのではありませんか?」
私の言葉はとても冷たい響きを伴っていたと思う。
「えっ」
私の口調と言葉遣いにお兄様は驚いたみたいだ。
でも、私はこれ以上お兄様と話すつもりは無かった。
「ということで」
私はそう言うととりつく島もなく自分の席に戻ったのだ。
お兄様は何故かショックを受けた顔をしていたが、私は無視したのだ。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
お兄様を追い返したユリアでした。
続きは今夜です。
お楽しみに!








