お兄様視点 王宮のお茶会での周りを牽制するためにユリアに西瓜を食べさせました
「ところで、アルト、王宮のお茶会に王妃様からお誘いがあったんだが」
父が話しかけてきた。
「嫌です」
俺家は即決した。面倒なお茶会など行きたくなかった。
「はああああ? 何を言っているんだ。公爵家の嫡男ともあろう者が王妃様のお茶会をそう簡単に断れる訳はなかろう」
「学園在学中は学業優先のはずですが」
俺は父の言葉を正論で返した。
「まあ、そうなのだが、今回の歓迎のお茶会は昔我が家で世話したこともある留学生のツェツィーリア殿下の歓迎のお茶会も兼ねているそうだ。その縁もあってお前達には出て欲しいそうだ」
「確かに、それは出た方がよいのは判りますが、王宮であるというのが……」
俺はあまりそのような催し物に出たくなかった。女達が寄ってきて碌な事が無いのだ。
「王妃様からは是非ともご家族全員で来てほしいって言われているのよ」
リーゼまで横から言い出してくれた。
「えっ、私はツェツィーリア様を知らないから行く必要はないわよね?」
何故かユリアが不機嫌そうに反論したのだが、
「何言っているのよ。あんたも来るに決まっているでしょ」
リーゼはユリアの反論を一言の元叩き伏せていた。それを何故クラウス相手に出来ない? 俺は不思議だった。
「そんな!」
「あなたの友達のフルート子爵令嬢の作った化粧水、売り込む絶好の機会よ」
「えっ、それはそうだけど」
「ということでエックとフランツは必ず、二人を連れてくるように」
リーゼがそう言うが、ユリアと二人でサボるのも良いかもしれない。俺はそう思ってしまったのだ。
「父上、無理ですよ」
「この二人が僕らの言うこと聞く訳はないでしょ」
「大丈夫だ。今回はツェツィーリア殿下が帝国から西瓜という果物を持って来たくれたそうだ。ユリア、西瓜という果物はとても美味しいそうだぞ」
父が食べ物でユリアを釣っていた。これは絶対にユリアは行く。
「えっ、西瓜が食べられるの?」
案の定、ユリアは釣られていた。まあ、ユリアと二人で西瓜を食べさせ合うのもいいかもしれない。
それに、確かに幼なじみのツェッツイが主賓なら俺も顔を出す必要があるだろう。
俺は仕方なしに出ることにしたのだ。
「絶対に前回みたいな事のないよう、必ず全員参加するように。もし今回一人でも参加しなかったらユリアのデザートを1週間ぬきにするからな」
父が出がけにとんでもない伝言を残して行ったらしい。
まあ、最悪は俺のデザートをやればいいだろう。
そう思いつつ、ユリアが西瓜という緑の果物に興味津々だったので、仕方なしに、俺は正装した。
「お兄様、今日は会場から逃げないでね」
ユリアが心配して聞いてきた。ユリアを狙うオオカミ共が沢山いるお茶会から逃げ出す訳には行かないだろう。まあ、でもせっかく聞いてくれたので、
「ユリアが俺の相手をしてくれるのなら」
俺は条件を出してみたのだ。
「ええええ! ツェツィーリア様とお兄様は幼なじみなんでしょ。お兄様が相手しないと駄目でしょう」
「うーん、じゃあ、ツェッツィを訓練場に連れて行って訓練でもするか」
折角ツェッツイがきたのだ。皆と一緒に訓練場に行ってもいいかもしれない。
「何でそうなるのよ! 私じゃないからお兄様の訓練に付き合うなんて絶対に出来ないでしょ」
ユリアが信じられないという顔で俺を見てきたけれど、
「そうか? 昔は訓練のまねごとに付き合わせていたよな」
俺がエックに聞くと
「そんなの帝国の皇女様にさせていたの?」
「走り回ったりするくらいだったよ」
「じゃあ、王宮を走るか?」
俺は冗談で言ってみた。確かにツェッツイは昔からよく倒れていた。走ったり剣を振ったりするのは難しいだろう。
「絶対に駄目!」
「俺がいないところで王妃様の騎士をコテンパンにやっつけていたユリアが言えることか」
俺が少し言うと、
「あの時はちょっと売り言葉に買い言葉で」
「ああもう、なんで王妃様も我が家の二大問題児をお茶会に呼ぶかな」
リーゼが聞き捨てならない言葉を吐いてくれたが、
「二大問題児って何よ! 私を入れないでよね」
ユリアまで言ってくれるんだが……
「ユリアは西瓜を食べていたらいいから。絶対に静かにしていてね。お兄様もいいわね」
「判った。俺もユリアの面倒をちゃんと見ているよ」
俺は絶対にユリアから目を離さないと宣言した。
時間になったので年の順に馬車に乗った。俺はここぞとばかりにユリアに手を広げてみたのだ。
「えっ、お兄様」
ユリアが俺を避けようとしたので、
「訓練場に行こうかな」
俺がそう呟くとユリアは仕方が無いという顔で俺の膝の上に座ってくれた。
そうそう、素直にそうすればいいのだ。これから毎日こうやって脅そうか?
しかし、それも無理があるし、どうすればいいのか?
俺なりに考えたのだ。
王宮に着くと俺は嫌がるそぶりを見せたユリアの手を引いて強引に歩き出したのだ。
周りを威圧するには最初が肝心だ。昔はユリアは俺が強引に俺の手を引いてきたのに、今は逆だ。
どうしてこうなったんだろう? 誰かが余計な事をユリアに言い含めたのか?
一度調べてみる必要があるかも知れない。俺はユリアのクラスの騎士見習達に探りを入れようと思った。
そんな俺達は国王夫妻の前に案内された。
「国王陛下ご夫妻にお目通りいたします。ホフマン公爵家のアルトマイアーです」
俺は跪いて挨拶した。
それぞれの挨拶を待って
「おお、今日は珍しく5人揃っておるな」
国王が満足そうに頷いた。
後ろで父がほっとした顔をしていた。
「ユリアが絶対に行かないと承知しないと申しましたので」
俺はユリアのせいにした。
「近隣諸国に騎士の腕が知れ渡っているアルトマイアーでも、可愛い下の妹には頭が上がらないのか」
「あまり怒らせると後が怖いもので」
陛下の言葉に俺は頷いたのだ。
「ちょっとお兄様!」
ユリアが俺のお尻をつねってくれた。
「痛い、お前な」
こいつの力は結構強いのだ。
俺がユリアを見て思った。昔はお兄様お兄様と俺の膝の上に言わないでも乗ってきたのに……今はつねられる立場だ。なんとかして元に戻れないだろうか?
俺が考えているうちにツェッツイの紹介も終わったみたいだった。
俺は考え事をしていたので、ほとんど聞いていなかったが……
「今回帝国よりツェツィーリア殿下がわざわざ我が国に留学してくれたのはその方達も知っている通りだ。私としても殿下には留学生活を楽しく過ごしてもらいたい。その方達もよろしく頼むぞ」
「「「「「はい」」」」」
俺も最後だけは元気よく頷いていた。
後から後から俺達よりも下位の貴族が挨拶に来る。
その中にはユリアを見て目を見開いている男達も当然いた。
ユリアは美少女なのだ。本人は自覚がないけれど……
そんな中、俺達は一つのテーブルに案内された。
そして、そこにはカットされた小さな西瓜が置かれていた。
「おい、ユリア。この赤いのが西瓜じゃないか」
「うん。そうだと思う」
俺の言葉に嬉しそうにユリアは机の上のカットされた西瓜を見ていた。とても食べたそうだった。
食べ物を前にしたユリアはとても可愛かった。
そんなユリアは男達の注目の的だった。
ここはユリアが誰のものか皆に思い知らせる必要があるだろう。
俺はそんな男達を牽制する意味もあって、ユリアの口の中に一口分に切り取られた西瓜を放り込んだのだ。
ユリアは驚くと同時に赤くなっていた。しかし、それ以上に周りの男どもが目を剥いていた。
良いことだ。貴様等にはユリアは絶対に近づけん!
それに驚いたユリアも可愛かった。
人目がなければこのまま抱きしめてやりたかった。
そんなことしたらユリアに怒られるからやらないけれど……
食べさせるくらいいいだろう。
俺はそう思って二口目もユリアの口の中に入れたのだった。
ここまで読んでいただいてありがとうございます
ユリアを溺愛するお兄様でした。








