お兄様視点 三流伯爵家が身の程知らずにも妹に逆らったので潰すことにしました
ユリアにキスされて俺は舞い上がっていた。
絶対にユリアを手に入れるために首席になって父を倒すのだ。
俺は心に誓ったのだ。
仕方なしに、俺は昼休みに生徒会室で帝国公用語の勉強を一生懸命にしていたのだ。
俺が勉強しているのを見て周りの者達はぎょっとしていたが、俺もやる時はやるのだ。
そんなときだ。
ユリアに渡した髪飾りがユリアの悲鳴を捉えていた。
「ユリア!」
そう叫ぶと俺は転移魔術を発動した。
ユリアに悲鳴を上げさせた者に天誅を加えねば!
俺はユリアの真上に転移するとユリアに何かしようとしていた男を一瞬で足蹴にして踏み台にしたのだ。そして、ユリアを抱きしめていた。
「お、お兄様!」
ユリアが驚いていた。俺はユリアが無事なことにほっとした。
「ギャーーーー」
俺の足下から悲鳴が上がった。
「貴様か? 俺のユリアに手を出したのは」
俺は凍てつくように冷たい声でその男を見下した。
「いえ、手など出しておりません」
男は必死に言い訳していた。
俺は嘘をつくなと雷撃しようかと思ったときだ。
「何をしているのです!」
また、マイヤーに見つかってしまったのだった。
「何だと貴様、ユリアーナにそんなことを言ったのか!」
なんと、その男ボケナス伯爵の息子のアダムスは俺のユリアを平民の養女と蔑んだというのだ。
いずれ公爵家を継ぐ俺の未来の妻に対して、そのような不埒な事を言うとは良い度胸だ。俺のブラックスリストにそのボケナス伯爵家を入れた。何でも商会を持っているのだとか。これはエックに相談して早速叩き潰すべきだ。
「も、もうし訳ありません」
まあ、しかし、男は平身低頭頭を下げてきた。
「二度とするなよ」
俺の言葉に必死に頷いていた。俺はそれで今回のことは釘を刺すだけで許してやろうと思ったのだ。
「二度としてはいけないのはアルトマイヤーさんです」
ヒステリーを起すマイヤーに俺は頷いたのだ。
まあ、マイヤーは適当に頷いておけば良い。いつものことだ。
俺に反省文を書けと言ってきたからまた、六年生の侯爵令息に頼むことにしよう。何しろ俺には反省文をか書いている暇はないのだ。
俺が放課後に生徒会の面々を仕事させつつ、必死に帝国語の勉強をしているときだ。
俺は今度はユリアの髪飾りが発動するのを感じた。
「またか?」
俺は慌ててユリアに向けて転移したのだ。
「ユリア、大丈夫か?」
俺は聞いていた。
見ればユリアをどこかの破落戸どもが囲んでいた。
一人は黒焦げになってピクピク震えていた。
ユリアのお守りにやられたのだろう。
もう少し強くしておけば良かったか?
まだ生きているみたいだったが、俺のユリアに手を上げようとした奴を生かしておく必要はあるまい。
「私は全然大丈夫だけど」
ユリアは少し不満そうだった。自分でやりたかったのかもしれない。
しかし、俺はこのような破落戸どもにユリアのきれいな手で触れさせるのは避けたかった。
「や、やばい」
破落戸どもは俺を見て恐怖を感じたようだ。
「動くな! 動けば斬る」
俺は全員を威圧した。次の瞬間破落戸の大半は泡を吹いて倒れていた。
しかし、少しやり過ぎたみたいだ。ユリアの友達も倒れそうになって慌ててユリアが抱き留めていた。
そこは昼間会ったユリアの友達のフルート子爵令嬢の家の前だった。
不埒な破落戸どもを騎士団に差し出して俺たちはフルート子爵から話を聞いた。
どうやら、ユリアの友人が化粧品を商品として開発して友人達に配っていたら昼間のボケナス伯爵に見つかって強引にその化粧品を寄越せと言われて、断っているうちにあの手この手で伯爵家が手を回してきて今に至るそうだ。
「せっかく娘が開発してくれた物ですから。出来れば領地の利益のために貢献しさせたいのです」
フルート子爵の話は筋が通っていた。ボケナス伯爵はそれを二束三文で取り上げようとしたらしい。
それが断られると今度は娘を婚約者にしようと画策したらしいのだ。
「商品だけ手に入れたら、後は娘を婚約破棄してくるのは目に見えているので断っているのです」
「もう大丈夫ですよ。我がホフマン公爵家がフルート子爵家を守りますわ、ねえ、お兄様」
「そうだ。そのような卑怯な手段に出るボケナス伯爵など気にすることはない」
ユリアがそう保証したので、俺としては頷いた。まあ、俺のユリアに二度も手を出してきた伯爵など絶対に取り潰してやる。
俺は早速父に相談しようと思ったのだ。
「いかんぞ、ボーケナ伯爵家に手を下すことは許さん」
しかし、なんと、父が反対してきたのだ。
「父上、なんと言うことを言われるのです。我が公爵家は悪をのさばらせて良いのですか?」
俺が反論したが、
「伯爵家は今は教会の力を背景に色々やっている。教会は今、聖女が出たことを良いことに、力を伸ばしている。そんな所に手を出してみろ。リーゼの婚約がなくなるかもしれないではないか! 王家と婚約を結ぶことが我が母の悲願だったのだ。ここは問題を起こすところではない。良いな!」
父は言いたいことだけ言うと、さっさと自分の部屋に入っていった。
「なんということだ。我が父とあろうものが、そこまで怯えるとは」
俺には信じられなかった。
「まあまあ兄上、それだけ、ボーケナ伯爵家が力を持っているとの事でしょう。王都騎士団長のキンメル侯爵家がバックについているとの事ですから」
エックお兄様が教えてくれた。
「なんだと、あのキンメル家か、なら、ますます引くわけにはいかないではないか!」
俺は拳を握りしめた。キンメル侯爵家は建国以来、我がホフマン家に対して何かと喧嘩をふっかけてはいつもコテンパンにされている三流侯爵家なのだ。お情けで生かしておいてやっているのに、それを良いことに逆らってくるとは良い根性をしている。
これを機にキンメルも潰すか?
「エック、何か良い手がないか考えろ」
俺はエックに相談したのだ。
「エックお兄様お願い!」
ユリアも頭を下げていたのだが。
俺もユリアにお願いされたい。
「ええええ!、なんか面倒くさいんですけど」
しかし、エックは嫌そうな顔をしてくれたのだ。俺のユリアの頼みを聞かないとは何事だ!
俺がむっとしたときだ。
「このデザート上げるから、お願い」
なんと、ユリアが自分のデザートの皿を差し出したのだ。
「「「えっ?」」」
俺たちは驚いてユリアを見た。
「明日大雪になるんじゃないか」
「いや、大地震だ」
「津波が王都を襲うかも」
「世界がひっくり返るな」
俺たちは驚き慌てた。
ユリアはお願いする時に自分のデザートを差し出したことなど俺が知る限りなかった。
俺はユリアにお願いとあの瞳で言われると断った事など無いが、エックなどは中々うんと言わない。
そんな時にフランツのデザートを脅して取り上げて、それを対価にお願いしているのを見たことはあるが、自らのデザートを差し出したのを見たのは初めてだ。
「ちょっと、どういう事よ。私もお願いする時は大切なものを差し出すわよ。ねえ、ピーちゃん!」
ユリアは自分のペットに確認しようとしたが、ペットも自分のデザートを代わりに取られるのでは無いかと戦々恐々としていたくらいだ。
「いや、判った。やってやるから、ユリアのデザートはいらないから」
エックもさすがに断っていた。食い物の恨みは怖いのだ。特にユリアは。
俺はユリアがデザートを差し出そうとした段階でボケナス伯爵家の運命は決まったのだった。
公爵家の怒りを買ったボーケナ伯爵家は生き残りをかけて必死に教会にすがりつきました。








