兄が私の意見も聞かずに、皇弟の娘に対して謝るように私を促したので、信じられなくて学園の裏庭で号泣しました。
2人の上に軽く水をかける予定が怒りのあまり、大量の水をかけてしまった。
「「「キャーーーー」」」
2人は水で流されたけれど、周りも巻き込んでしまった。
ちょっとやり過ぎたみたいだ。
10人以上が水で濡れたみたいだし……
私はマリアに白い目で見られてしまった。
私の前に、クラウスとピンク頭が流れてきた。
「いや、ユリアーナ。これには理由があって」
必死に言い訳しようとしているクラウスと、
「ちょっと、ユリアーナ! 何を邪魔してくれているのよ」
怒り狂ったピンク頭がいた。
「それは私の台詞よ。お姉様の婚約者の王太子殿下に公衆の面前で抱きつくってどういう事よ!」
「ああら、ユリアーナったら、自分が大好きなお兄様がツェツィーリア様と食べさせしていたからって怒りの矛先をこちらに向けないで欲しいわ」
「なんですって!」
私が更に切れそうになった時だ。
「いかがなさいましたの。あら、アグネス様とクラウス様はびしょ濡れではありませんか?」
そこにお兄様に食べさせられていたツェツィーリア様が現れたのだ。
私はとっさにどう反応して良いか判らなかった。
「ツェツィーリア様。ユリアーナが私とクラウス様に大量の水をかけてくれたのです」
「まあ、そんなことを? 本当ですの、ユリアーナさん?」
驚いてツェツィーリア様が私を見た。
その顔には少し非難の色が見えた。
「アグネスさんが婚約者のいらっしゃる殿下に公衆の面前で抱きついたからですわ」
私は自分が間違っているとは露程も疑っていなかった。
「しかし、幾ら婚約者であるとは言えども、いきなり水をかけるのはどうかと思いますが」
ツェツィーリア様が私をやんわりと非難してくれた。
「そうです。ツェツィーリア様。ユリアーナはいつもすぐに暴力に訴えてくるのです」
ツェツィーリア様の言葉尻を捉えてピンク頭が更に訴えてきた。
「ユリアーナさん。幾らあなたが王太子殿下の婚約者であっても、暴力を振るうことは許されませんわ」
「ツェツィーリア様、私は暴力は振るっていませんし、そもそも私は殿下の婚約者ではありません」
私はツェツィーリア様の言葉を否定したのだ。
「えっ?」
ツェツィーリア様は私の言葉が理解できていないみたいだった。
慌てて側近達がクラウスの婚約者は私の姉だと教えていた。
「えっ、クラウス殿下の婚約者はユリアーナさんではなくて?」
「私の姉のリーゼロッテです」
私ははっきりとツェツィーリア様にお教えしたのだ。
「そうですか? 申し訳ありません。私はてっきり目立っていらしたユリアーナさんが王太子殿下の婚約者だとばかり思っておりました」
目立っていたって、私はできる限り静かにしているつもりなのに!
「静かにしている者が魔術を聖女と王太子に見舞わないわよ」
後でマリアに指摘されたんだけど。
「でも、ユリアーナさん。それならなおさら、クラウス殿下が婚約者を蔑ろにしていると窘めるのは婚約者のリーゼロッテさんのお仕事で、あなたが魔術を使うのは間違っていると思うわ」
ツェツィーリア様がはっきりと言ってくれたが、私はそれに対しては納得しなかった。
「殿下。そもそも、婚約者がいる王太子殿下に対して大きな胸をすり寄せるなんて破廉恥なことをするアグネスさんが悪いと私は思うのですが、帝国ではこのようなことが許されているのですか?」
「ユリア!」
後ろからマリアが裾を引っ張ってくれたが、私は言うことはいうのよ。
「なんだと小娘。言うに事欠いて貴様ツェツィーリア様に説教するつもりか」
ツェツィーリア様の後ろに控えていた側近のコンラートが前に出てきて私に罵声を浴びせてきたんだけど。
「誰が小娘なのよ! 側近風情が横からしゃしゃり出てくるんじゃないわよ」
売り言葉に買い言葉だ。
「なんだと、貴様やるのか」
「上等じゃない。いつでも、やってやるわよ」
昨日から気が立っていた私はやる気満々だったのだ。
「何をしているのだ!」
「お兄様!」
「アルトマイアー様!」
後ろからいきなりお兄様が現れたのだ。
私はなんて報告したら良いか少し躊躇した。
「大したことではないわ」
ツェツィーリア様も納めようとしていくれた。
「何でもないのならば良いが、しかし、我が国の王太子とその王太子によく抱きついているゴキブリ女がずぶ濡れだが」
「ご、ゴキブリ女!」
ピンク頭が絶句していた。
私はお兄様のその言葉に思わず笑みを浮かべた。
「どのみちユリアがしでかしたのだろう」
お兄様は呆れて私を見た。
「ツェッツィも足が少し濡れたのではないか。申し訳ないことをしたな。これで拭いてくれ」
お兄様がポケットからハンカチを出してツェツィーリア様に差し出したのだ。
私はそんなことするお兄様を初めて見た。
私が濡れてもすぐに乾くだろうとハンカチを差し出してくれたこともないのに!
「ユリア、お前もツェッツィに謝れ」
「えっ?」
私はそのお兄様の言葉が信じられなかった。
私が謝るの?
私が謝る必要があるの?
私の感情が謝るのを拒否していた。
「ユリア!」
お兄様が再度促してくれたけれど、私は絶対に嫌だった。
「嫌よ!」
そう言うと後ろも振り返らずに駆け出したのだ。
「ユリア!」
マリア達の声が聞こえたが、私は聞いていなかった。
お兄様が私の言い訳も聞かずにツェツィーリア様の肩を持ったのが、私にはとてもショックだったのだ。
私は脇目も振らずに逃げ出した。
お兄様とツェツィーリア様がこれ以上仲良くするところなんて見たくもなかった。
途中で何かを引っかけたような気がしたけれど、気にせずに私は駆け続けたのだ。
そして、裏庭のフェンスにぶつかるとそのフェンスを握って大泣きしたのだ。
久しぶりに私は号泣したのだった。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
続きは明朝です。








