友人の家に止めてもらって気分を変えた私の前で、いちゃつく王太子と聖女の頭上から大量の水をぶちまけました
結局、私はその後、ビアンカの家にお呼ばれして、ビアンカのペットの白と黒と言う犬を紹介してもらって、夕食までごちそうになって家に帰ったのだ。
ビアンカの家のお父様とお母様はとても優しそうでいい人だった。
「公爵家のご令嬢に会うかどうかは判りませんけれど」
そう言って出してくれる食事は公爵家の食事に比べれば素朴な感じだったけれど、前世日本の記憶のある私にはそれでもとても豪華な食事だった。
二人きりの時はお兄様とのことを根掘り葉掘り聞かれたけれど、貴族の兄弟間って我が家ほど親しくないみたいだ。食事の間も、ビアンカのお兄様達は静かだったし、我が家と比べればとても静かな食卓だった。
「皆さん、とてもお上品なのね」
私が驚いてビアンカに聞くと
「そうかな。どこでもこんな感じじゃないの? 我が家は食事は夕食だけは一緒に取るようにしているけれど、社交シーズンは両親はいない事も多いから」
「うーん、我が家もお父様は仕事で忙しいからいないことも多いけれど、5人兄弟だから結構賑やかよ。お姉様以外は一緒に訓練することも多いから、一緒にいる時間も多いわね」
私が言うと、
「ユリアは本当に騎士なのね」
ビアンカは驚いていた。いつの間にかビアンカの私の呼び方は愛称の呼び捨てになっていた。
私が平民の養子だからユリア呼びにして欲しいとビアンカに頼んだのだ。
最初は戸惑っていたビアンカだったが、いつの間にかなし崩し的になっていた。
結局私はその日は家に帰りたくなかったので、ビアンカの家に泊めてもらったのだ。
ニーナに伝言して制服とか、寝間着を届けてもらった。
「ユリア様、お泊まりなんて初めてなのに、前もって言ってもらっていれば準備しましたものを」
ニーナには怒られたけれど、ダンジョンに潜る時とか野宿とかは普通にしていたからそんな問題になるとは思ってもいなかった。
普通は貴族の令嬢がお泊まりに行く時は、手土産とかもいろいろといるそうだ。
中々面倒くさいと思いながら、ニーナが持ってきたものをビアンカの家の執事に渡しておいた。
翌朝、ビアンカのお母様にとても喜んでもらったのだ。
なんでも公爵領で取れる赤い魔石を使ったネックレスのお守りだったそうだ。
まあ、魔物討伐は私もよくやるので、魔石なんて山のようにあるし、私は市場価値なんて全然知らなかったんだけど、ニーナが言うには金貨30枚くらいの価値はあるらしい。
大体日本円で100万円くらいのもので、泊まりに行くにはそれくらいのものを準備しないといけないのかと頭が痛くなった。これではおいそれと友達に今度は泊まりに来てとは中々誘えないじゃない。
それとマリアの化粧水のサンプルをお渡ししていたんだけど、お母様としては化粧水の方に食いついてくれていた。
「この化粧水はどこで買えますの?」
「これはクラスメートのフルート子爵令嬢が作ったもので、私の兄のエックハルトが立ち上げた商会で扱っています」
私は宣伝したのだ。
マリアの商品をどこで販売するか色々考えたんだけど、結局、こういうことが得意そうなエックお兄様に、四年生から始まる専門課程で領地運営コースの学外学習の一環で商会を立ち上げてもらってそこに任せることにしたのだ。その化粧水と魔石を加工したお守りのネックレスと一緒に販売することにした。魔石は私達4兄妹がダンジョンに潜れば山のように取れるので、魔物博士を目指すフランツお兄様に魔石を使ったお守り用の宝飾品を作る工房を立ち上げてもらった。
フランツお兄様は細かい仕事も得意なので、お守りは取りあえず、フランツお兄様が一生懸命に作ってくれていた。なんとか開業できる目処が付いたのだ。
翌朝は私はお願いして、馬車をマリアとフィリーネのところを回ってもらって4人で学園に行くことにした。
マリアは2人の伯爵令嬢がいるので、猫を被っていた。
とても静かだったのだ。
他の2人もとてもすましていた。
これはまずいと私はマリアの化粧水のサンプルを2人に渡したのだ。
「まあ、なんなのこれ、すべすべですね」
「お母様にくれたものよね。私も使わせてってお母様に頼んだのに拒否されたんだけど、凄いわ」
「これはマリアが作り出してくれたもので、エックお兄様の商会で取り扱っているのよ」
「そうなんです。ユリアーナ様に色々とお手数をおかけてして、やってもらったんです」
「マリア、無理してもう別に敬語は使わなくていいから」
私がそう言うと、フィリーネはさすがにぎょっとした顔をしたんだけど、
「フィリーネもいいからね。同じクラスメートだし、公爵家って言っても私は養子だし、元は平民だと思うから、貴方たちの方が絶対に身分は上よ」
私がそう言うと
「でも、ユリアの髪はツェツィーリア様と同じ銀色じゃない。銀色の髪って皇家の髪の色じゃないの?」
ビアンカが聞いてきた。
「そんな訳ないじゃない。銀の髪の色なんてどこにでもいるわよ」
私が平然と言うと
「そうかな、どこかで皇家の血が混じっていると思うけれど」
あくまでもビアンカはそう主張してくれた。
「私はホフマン公爵家には皇家の血が入っているからそれが出たんだと思ったんだけど」
フィリーネがそう言ってくれたけれど、
「そうかな」
確かにお兄様達の母上は帝国の貴族の出だったと思ったし、元をたどれば皇家の血筋だ。でも、私はお父様の隠し子ではなくて、たまたま助けてくれた子供なだけで、絶対に平民だと思うんだけど。
後でマリアに聞いたらゲームの設定上はユリアーナにはそんな設定はなかったって言っていたし、絶対にたまたまだと思ったのだ。
「それよりもユリア、昨日はツェツィーリア様とアルトマイアー様が仲良くしていたので、とてもショックを受けたんですって?」
私に囁いてくれた。
私が忘れようとしていたことをわざわざ思い出させてくれたのだ。
何が言いたいのよ!
私がむっとしてマリアを睨むと、
「あなたがぼうっとしている間に、王太子殿下と聖女様がとても仲良くなったそうよ」
「えっ、何それ?」
私は聞いていなかった。
「そういえば聖女様が王太子殿下に食べさせていたわ。周りの皆は驚いていたけれど」
フィリーネが教えてくれた。
なんですって……昨日は完全に失敗した。私はお兄様とツェツィーリア様が食べさせしていたのに、ショックを受けてクラウスのガードをするのをすっかり忘れていた。
そして、私達の乗った馬車が馬車止まりに着いた時だ。
「クラウス様!」
前の方で聞きたくもないキンキン声が聞こえたのだ。
クラウスにピンク頭が抱きつくのが見えた。
クラウスも満更でもないように鼻の下を伸ばしていたのだ。
「ウォーター!」
「ちょっとユリア」
マリアが止めようとしてくれたが、私の方が早かった。
次の瞬間、クラウスとピンク頭の頭上から大量の水が降り注いだのだった。








