聖女視点 ショックを受けた悪役令嬢を奈落の底に落とすことにしました
なかなか、私とクラウス様の仲が進展しないので、大司教や司教代理はヤキモキしていた。
「悪役令嬢のユリアーナさえ、何とかしてもらえれば、まだ、リーゼロッテはなんとでもなるわ」
私の言葉に、
「ユリアーナと言うと、あの公爵家の脳筋のアルトマイアーが溺愛しているというあれか?」
大司教の声に
「左様でございます。皇家でもないのに、銀色の髪をしている小娘でございます」
「公爵の隠し子とかいう小娘だな」
「公爵が平民の女に生ませたとかいう噂でございますな」
「それならば、教皇猊下から、帝国に働きかけてもらっても良いかもしれん。確か、皇弟殿下のご令嬢が、昔その公爵家に政変の折に滞在されたそうだ」
「殿下から、直々にユリアーナに注意頂けるのですね」
ホイットニーが喜んび出したが、
「それ以上に、殿下が、アルトマイアーにご執心であられたという話もある」
「それは本当なの?」
私は嬉々として大司教を見た。
「噂であるがな」
「あの生意気なユリアーナの泣きッ面が見られるならこれ程嬉しいことはありませんわ」
私はとても楽しくなった。
ユリアーナがショックを受けて静かになれば、クラウス様を口説き落とすなどとても簡単だと思ったのよ。
待ちに待ったそのツェツィーリアが学園に来た。
ツェツィーリアは馬車溜まりでアルトマイアー様を迎えようとしていた。まあ、アルトマイアー様をツェツィーリアに渡すのは少し剛腹だったけど、背に腹は代えられない。
私は我慢することにしたのよ。
でも、着飾ったツェツィーリアがアルトマイアー様に近付いても、アルトマイアー様は全く無視していてユリアーナしか見ていないんだけど……なんなのよ。これは……
「お前は誰だ?」
ツェツィーリアが声を掛けたら、アルトマイアー様は塩対応だった。
これは脈が無いじゃない!
私はがっかりした。
その上、更に、知り合いだと判った途端、アルトマイアー様はツェツィーリアの事を男だと勘違いしていたと判り、私は開いた口が塞がらなかった。
どこがアルトマイアー様の心を掴むかもしれないよ! アルトマイアー様を男色にしない限り無理じゃない!
教会の情報収集能力なんて本当に大したことないわ。
私は唖然としたのだ。
「どうするのよ。ホイットニー、全然駄目じゃない!」
私が大司教代理に叫んでいたら、
「いや、絶対にそのようなことはあり得ませんから」
とかふざけたことを言っているし、私はちゃんと見たのよ!
大司教に働きかけてなんとか歓迎のお茶会を王宮で開いてもらえることにした。
歓迎のお茶会でなんとしてでもアルトマイアー様とツェツィーリアを近づけないと。
そして、その隙を突いて私がクラウス様と既成事実を作るのよ。
私はやる気満々だった。
でも、お茶会が始まる前に、既にアルトマイアー様がユリアーナに西瓜を食べさせしているんだけど……
私でも12年ぶりの西瓜をまだ食べていないのに、何故ユリアーナが先に食べているのよ!
私は聖女様なのよ! 思わず私は叫びそうになった。
アルトマイアー様はゲームでは自分勝手で傲慢なユリアーナを毛嫌いしていたはずなのに、どう見ても溺愛しているじゃない!
こんなんで、断罪して追放するか処刑出来るのかしら?
私が下手にユリアーナを断罪しようとしたら、逆に私がアルトマイアー様の怒りを買って処刑されてしまうかもしれないじゃない!
全然ゲームと違うけれど、とどうなっているのよ。
私はゲームを作った奴らに文句を言いたくなった。
そんな二人して食べさせている間に、ツェツィーリア様が席を代わってくれたので、私はクラウス様に食べさせすることにしたわ。
帝国の皇女殿下の恋心はもう期待していないけれど、その隙を突けるかもしれない。
私は喜々としてクラウス様に食べさせようとしたのよ。
そうしたらどうしてこうなったの?
私がクラウス様に食べさせするために差し出した西瓜をカバのような大きな口を開けてユリアーナが食べてくれたのよ! どういう事なのよ!
私が怒ったら何故かマイヤー先生がやってきたんだけど……
これはやばいわ。
気付いたらホイットニーの野郎は逃げ出しているし、聖女の私を悪の鬼ばばあから守りなさいよ。なんのための大司教代理よ。聖女の代わりに殉職するのが仕事のはずなのに、本当に役立たずね!
私はどうやってマイヤーのミサイルから逃れてユリアーナにぶつけるか必死に考えた。
いつも助けてくれるボニファーツもエンゲンベルトもアダムもマイヤーの顔を見た途端にいなくなっているし、本当に役立たずだ。
マイヤーの2時間説教コースをユリアーナと一緒に受けるのは嫌だ。
その時だ。陛下が助け船を出してくれたのだ。
私はほっとした。1時間に短縮されたかもしれない。
でも、次の瞬間だ。
「ツェッツィ、これはうまいぞ」
アルトマイアー様がそう言ってツェツィーリアの口の中に西瓜をフォークに刺して運んでいるのが見えたのだ。
「「「えっ?」」」
私達は目が点になった。
「先生、皇女殿下もアルトマイアー様に食べさせられていますけれど」
私はマイヤーの視線を躱すのに成功した。
なんとあのマイヤーも絶句していた。私達に説教していたのにさすがに帝国の皇女には説教が出来ないみたいだ。
更には、あの憎たらしいユリアーナも青くなっていた。
溺愛してくれていた兄が他の女に目移りしたのがショックだったみたい。
ユリアーナは口を開けて呆然2人を見ていた。その目には涙が浮かんでいた。
ツェツィーリア、良くやってくれたわ!
いつも憎たらしいユリアーナがこんな泣きそうな顔をしているのを見るのは初めてだった。
私は溜飲を下げたのだ。
固まったユリアーナをA組の面々が連れて行ってくれて、やっと邪魔者が消えてくれた。
今こそクラウス様に近寄るしかない。
「クラウス様!」
私は大きな胸を武器にクラウス様の腕にすり寄せたのよ。
男でこれに陥落しなかったのはアルトマイアー様だけよ。
でも、そのアルトマイアー様はツェツィーリアに陥落したみたいだから、今こそ、クラウス様を私のものにするわ。
私はクラウス様の後ろにいるリーゼロッテは無視して、
「クラウス様。この西瓜はとても美味しいです」
そう言ってクラウス様に食べさせたのだ。
固まっていたマイヤーもツェツィーリアが食べさせられた時点でもう文句を言ってこなかった。
ショックを受けたユリアーナは来なかったし、私はこの時とばかりにクラウス様を籠絡しようと活動したのよ。
婚約者のリーゼロッテはオロオロと私とクラウス様の様子を見ているだけだったし。
これで絶対にクラウス様は私のものになったわ。
私は確信したのよ。
今まで散々邪魔してくれたユリアーナに今こそ鉄槌を打ち込む時だわ。
こうなったら徹底的にツェツィーリアを応援してユリアーナを絶望のどん底に叩き落としてあげるんだから!
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
どうしようもないピンク頭は健在です。
どうなるユリアーナ?
続きは明日です。








