クラスメートに馬車の中では兄の膝の上にいると話したら溺愛されていると勘違いされました
「キャーーーー」
「アルトマイアー様がツェツィーリア様に食べさせされたわ」
「妹じゃなくて」
「帝国の皇女殿下にされるなんて」
周りの女達が何か叫んでいる黄色い声が聞こえた。
エックお兄様とフランツお兄様は驚いてお兄様を見ていたし、ツェツィーリア様は真っ赤になって固まっていたんだけど……
唯一お兄様だけが平然としていたように思う。
私の頭の中は『お兄様が私以外の女に食べさせた』という言葉がリフレインしていた。
私は何故かとてもショックを受けていた。
お兄様が妹の私以外の女に興味を持つことはとてもいいことだと理性では判っていたのだが、何故かとても悲しかったのだ。
呆然としていたところをビアンカやダミアン達クラスの面々に囲まれたのだ。そして、彼らの席に連れて行かれた。
「ユリアーナ様。美味しそうな西瓜をお持ちしました」
「ユリアーナ様。私の方が美味しそうなケーキをお持ちしました」
ダミアンは正常運転だったし、留学生のゲオルクまでが何故か私にデザートを持ってきてくれた。
「き、貴様、ユリアーナ様のお世話は俺の仕事だ」
「何を言う。貴様のような弱い者がユリアーナ様のおそばには相応しくない」
2人が喧嘩を始めたんだけど……
「ふんっ、貴様こそユリアーナ様には一撃でやられていたではないか」
「その俺に一撃でやられた貴様が何か言うのか」
「なんだと」
「ちょっと、喧嘩するなら外でやってね」
「本当に男達は野蛮ね」
ビアンカ達がダミアン達をはじき飛ばして私の周りに来ると、
「どうしたんです。ユリアーナ様? いつもはたくさん召し上がっているのに」
デザートを前に手を伸ばさない私を見て伯爵令嬢のフィリーネが驚いていた。
「判りますわ。実の兄が恋人とイチャイチャするのは見たくありませんよね」
ビアンカが口にしてくれた。
「恋人?」
でも、私はそのビアンカの恋人と言う言葉が何故か胸に響いた。
ツェツィーリア様はお兄様の恋人なんだ……
「私もあるんです。隣の侯爵家の優しいお兄様に淡い恋心を抱いていたのに、ある日可愛い子爵令嬢と歩いていらっしゃるのを見て、その日は食事が喉を通りませんでした」
「あなたのは単純な失恋じゃない」
フィリーネが断言していた。
「私はあの優しかった兄が婚約者を連れてきた時に食事が喉を通りませんでしたわ」
その後フィリーネが自分の体験を教えてくれた。
「それは未来の兄嫁に自分の食い意地の張っているのを見せないために、わざとやったって言っていたじゃない。後で侍女に命じて食事を部屋に運ばせたって聞いたわ」
ビアンカがばらしてくれた。
「さすがフィリーネ、やることは周到よね」
私を気遣ってか皆で周りでわいわい楽しくしてくれたんだけど、私の心が晴れることはなかったのだ。
そんな中、皆がいきなり私の後ろを驚いて見ていた。
「ユリア、そろそろ帰ろうか?」
その声はお兄様の声だった。
普通はそう言われたら私は喜んで一緒に帰ろうとしたはずだった。
でも、今日は嫌だった。
「お兄様。今日は私はビアンカに送ってもらうわ」
私はお兄様の方を見ずにそう言った。
「アルトマイアー様、ユリアーナ様は私が責任を持って公爵家の邸宅にお送りいたしますわ」
ビアンカは驚いて私とお兄様を見比べていたが、仕方なさそうに言ってくれた。
「そ、そうか、ならビアンカ嬢、よろしく頼む」
「はい」
お兄様にそう頼まれて、何故かビアンカが赤くなっているんだけど、何で?
結局私はビアンカに送ってもらうことにしたのだ。
「ユリアーナ様。宜しかったのですか、一緒に帰られなくて。アルトマイアー様はご機嫌が悪そうでしたけれど」
気にしてビアンカが帰りの馬車で聞いてくれたけれど、
「いいのよ。お兄様はツェツィーリア様と仲良くしていれば」
私がむっとして主張した。
「ユリアーナ様は良くアルトマイアー様と一緒にいて普通に過ごせていますね。私ならあの麗しいお姿で見られたら何も手に付きませんわ」
ビアンカが赤くなって質問してくれたけれど、
「そうかな、小さい時から一緒だから別になんとも思わないけれど」
私が答えると、
「まあ、ユリアーナ様も本当にお美しいですものね」
ビアンカが私を見てお世辞を言ってくれた。
「私は普通の容姿だと思うわ」
「まあ、公爵家の方々は皆様、見栄麗しいですから。その中にいたら普通に思えるかも知れませんけれど、学年の中では一、二を争う美しさだと思いますよ」
ビアンカは褒め上手だ。そんなことはあり得ないけれど、いたたまれなくなった私は話題を変えることにした。
「でも、この馬車ゆったりしていていいわね」
「えっ、公爵家の馬車に比べたら全然狭いでしょ」
驚いてビアンカが聞いてくるけれど、
「だってあの馬車に5人も乗るのよ。窮屈で」
「公爵家になら何台も馬車をお持ちでしょう。二台で行かれたらいいんではないのですか」
「お兄様が一台で行くって聞かないのよ」
「そうなんですね、じゃあ、ユリアーナ様はフランツ様とリーゼロッテ様と一緒に座っておられるんですか?」
「最初そうしていたら誰が太っているかで喧嘩になってしまって、お兄様が怒り出して私がお兄様に抱えられているのよ」
「えっ? 抱えられているって……ひょっとしてユリアーナ様は馬車の中でずっとアルトマイアー様に抱えられているんですか?」
ぎょっとした顔をしてビアンカは私を見た。
「いや、抱えられているって言うか、膝の上で、やっぱり変よね」
私が少しはずかしがって聞くと
「いや、変と言うことはないですけれど、あのアルトマイアー様がユリアーナ様を膝の上に抱えていらっしゃるって、めちゃくちゃ溺愛されていますね」
「えっ、いや、だからそんなことないって。小さい時はお兄様の膝の上で本とか読んでもらっていたから、その延長線上なのよ」
「そんなことありませんわ。今までアルトマイアー様の浮いた話はあまり聞いた事ありませんでしたけれど、ユリアーナ様を溺愛していらっしゃるって言う噂は本当だったのですね」
私は必死に言い訳したけれど、ビアンカは聞き分けてくれなかったのだ。








