王太子に聖女が食べさせようとしていたので、代わりに私が食べました
「ちょっとお兄様。まだお茶会始まっていないんだから、ユリアの口に入れるのは止めてよ」
お姉様がやっと注意してくれた。
「えっ、そうなのか? まだ始まっていなかったのか」
人を食ったようなことをお兄様が言い出してくれるんだけど……
「お兄様。止めてよ。マイヤー先生がいるのに、変なことしないでよ」
私は涙目で注意した。
「悪い悪い、お前は本当にマイヤー先生が苦手なんだな」
「当たり前でしょ。私は礼儀作法はお姉様と違って全然なんだから」
お兄様に私が文句を言うと、
「いやいや礼儀作法はだいぶましになったと思うぞ」
無礼の代表格のお兄様に言われてもという気がしないでもなかったけれど、私は少しだけ嬉しかった。
「まあ、このようなところで帝国の皇女殿下にお会いできるなんて感激です!」
甲高い声が陛下達の机の方から聞こえた。この話し方はピンク頭だ。
お姉様がうんざりした顔をしている。
「これアグネス」
その横のホイットニーの窘める声がした。
「申し訳ありません。この国の聖女をしておりますアグネス・ヒンデンブルクです」
「教会の大司教代理を拝命しておりますホイットニーです」
ピンク頭とホイットニーが挨拶しているのが見えた。
「帝国と教会の関係はこのハンブルク王国の王族とより近いからな。今回も教会の要請でツェツィーリアが来たという話もある。リーゼもユリアも十分に注意するんだぞ」
エックお兄様が注意してくれたけれど、
「私はあまり関係無いんじゃないかな。ピンク頭はクラウス狙いだからお姉様こそしっかりしないと」
私が言うと
「判っているわよ」
お姉様が答えてくれるんだけど、お姉様がいつもの半分で良いから強気でいけば、あんなピンク頭易々排除できると思うのに!
クラウスの前では、何故かあり得ないほどに乙女心全開なお姉様は頼りなくなるんだけど……
「ユリアもだぞ。帝国の留学生がこれを機にたくさん入り込んでいる。昨日はユリアはいきなり帝国の伯爵令息を叩きのめしたんだろう」
「えっ、いきなりやったの」
エックお兄様の指摘にお姉様が顔をしかめてくれた。
「だって、王国には剣の出来る奴がいないのかとふざけたこと言うから」
私が頬を膨らませて反論すると、
「ユリア、よくやった」
お兄様が褒めてくれて私の頭を撫でてくれた。
「でしょう。ハンブルクにも剣が使える者がいることを示しておかないと」
私が笑って自慢すると、
「あなたたちね、いちいち問題を起さなくても良いじゃない」
お姉様が注意してくれるんだけど、
「たとえ帝国の人間といえども、剣で舐められるわけにはいかん」
「そうよね、お兄様」
私はお兄様に微笑み返したのだ。
私は遠くからそんな私達を忌々しそうに見ている視線があるのには気付かなかった。
「皆の者、今日はこのように多くの者が集まってもらって感謝の言葉もない。此度、帝国からツェツィーリア殿下が短期留学という形でこのハンブルク王国の学園に来て頂けた。ここにいる多くの者が学園に籍を置いている。殿下並びに留学生達とは学園で仲良くしてくれたらありがたい」
陛下がまず挨拶された。
今日は周りを見渡すと伯爵家以上の貴族の子供が呼ばれているみたいだった。
ボニファーツも懸命に陛下を見て頷いている殊勝な姿に思わず笑いそうになった。
「先ほど紹介に預かりましたツェツィーリアです。ハンブルク国王陛下ご夫妻を始め王太子殿下並びに皆様に、このような歓迎の場を作って頂けたことに感謝いたします。皆様とは出来れば仲良くして頂けたらありがたいです」
そう言ってツェツィーリア様はにこやかに微笑まれた。その視線はお兄様に向いていたけれど、お兄様は全く我関せずで
「ユリア、あの緑の果物はなんだ?」
私に関係のないことを話しかけてくるのは止めてほしかった。
お茶会が始まった。
私は早速に目の前に積まれているデザートに舌鼓をうとうとした。
「お、この緑の果物もうまいぞ。俺には甘すぎるようだが」
「それはメロンよ。お兄様。メロンがあるなんて嬉し……んぐ」
いきなりお兄様がメロンの話をしている私の口に運んでくれたんだけど……
「キャー!」
「あの子アルトマイアー様に食べさせられているわ」
「本当にアルトマイアー様は下の妹を溺愛しているのね」
女の子達の黄色い声が聞こえて私は赤くなった。
「なんかペットを愛でるって感じよね」
最後の声は絶対にピンク頭だ。
私は食べさせられているピーちゃんを思い出していた……
お兄様の私に対する扱いはペットなの?
「お兄様。このスイカも美味しいわよ」
私は負けじとお兄様の口の中に大きめの西瓜をわざと放り込んだのだ。
でも、お兄様の口は大きくてあっさりとその西瓜をあっさりと口の中に入れてくれた。
「キャー」
「あの子アルトマイアー様に食べさせ返したわよ」
「いくら妹だからっておかしくない?」
「あの子元々アルトマイアー様とは血が繋がっていないみたいだし」
女達の敵意の籠もった視線がこちらに飛んできたんだけれど、
「ちょっと二人とも王宮のお茶会で余計な事は止めてよね」
お姉様が怒ってきた。
「良いじゃないか、リーゼ。静かにしているんだし」
お兄様がお姉様に反論したが、
「良い訳ないでしょ。礼儀作法に反するし、ユリア、マイヤー先生がこちらを睨んでいたわよ」
「えっ、それまずい!」
私が慌てた時だ。またしてもお兄様がメロンを一切れ口の中に入れてくれたんだけど……
「おひいはま!」
私は口に入れたままお兄様に抗議した。
面白がってやるのは止めてほしい。お兄様はびくともしないかもしれないけれど、私はマイヤー先生には睨まれたくないのよ!
「あれだけ毎日怒られていたらもう手遅れだと思うけれど」
フランツお兄様の呆れた声がしたけれど、それでも嫌なの!
「アルトマイアー様、少し宜しいかしら」
そんな私達の所にツェツィーリア様が後ろに確か伯爵令息のコンラートと侯爵令嬢のフローラという二人の側近を従えて現れた。
「ああ、ツェッツィ。皇女殿下をするのも中々大変だな」
お兄様がツェツィーリア様を振り返って笑った。お兄様が女の人に笑いかけるのはとても珍しい。
私は後ろから側近2人の席を替われオーラに当てられて、少し反発したものの、ここはお兄様のためだ。慌てて席を立ち上ったのだ。
「どうしたんだ、ユリア、いきなり立ち上って?」
「ちょっとお姉様。クラウス様が大変よ」
私はお兄様は無視してお姉様に注意した。ツェツィーリア様が席を空けたところにピンク頭がいけしゃあしゃあと座っているのを発見したのだ。一応皇女殿下の手前で私はクラウスに様をつけた。
「えっ? でも」
「いいから行くわよ」
強引にお姉様を連れて立上がると私達はクラウスの方に歩いて行ったのだ。
ついでにお兄様にエールを送る意味で片目を瞑ったんだけど、お兄様は手を上げて私に合図を返してくれたんだけど、好みの女性を相手にするのになんか違うように私には思えたんだけど……ピンク頭に対処する私にエールをくれたのか?
ピンク頭はなんと、国王夫妻の前に平然と座り込んで、クラウス様に西瓜を食べさせようとしていた。お姉様は目が点になっているし、国王夫妻やマイヤー先生は呆然とそれを見ていたし、クラウスは何も考えずに口を開けたように見えた。
仕方がない。女の子に食べさせられる趣味はないのだが、ここはお姉様のためだ。
パクッ
私はピンク頭の指しだしたフォークに齧り付いたのだった。
国王夫妻の驚いた顔は置いておいて、マイヤー先生の怒りに満ちた顔が私の視界の端に映って私はまたとんでもないことをしてしまったと思い知らされたのだ。
問題児ユリア、今日も健在です。
誰からでも、餌を漁るように食べさせられる女だと噂されるようになる?
続きは今夜です。
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