王妃様のお茶会で帝国の皇女の前でいきなりお兄様が私に西瓜を食べさせしてくれました
お茶会当日は我が家は本当にもう大変だった。
何しろ男3人女2人の兄妹全員がお茶会に参加するのだ。
まあ公爵家だから使用人に過不足はなく準備してくれたけれど。
私は青の布地に金の花柄模様の刺繍の散りばめられた豪華なドレスだった。
お父様は陛下の護衛があるので早朝に出ていった。
「絶対に前回みたいな事のないよう、必ず全員参加するように。もし今回一人でも参加しなかったらユリアのデザートを1週間ぬきにするからな」
お父様が悪魔の伝言を残していったらしい。
信じられない! そんな伝言するなんて!
お父様は悪魔だ。
でも、こうなったら全員を参加させないと。
私はお兄様の侍女、侍従達にどんなことがあっても逃走させないように確認させていた。
「ユリア様。何もそこまでされずとも、ユリア様のデザート1週間分がかかっているのに、逃げ出すような勇気のあるお兄様方はいらっしゃいませんよ」
ニーナは笑って言ってくれたけれど、そんなの判らないじゃない!
皆、日頃の恨みとばかりに逃げ出すかもしれないし……
でも、そんな心配は杞憂だった。
珍しく兄たちは集合時間前に着飾って集合してくれた。
我が家の3兄弟は金髪碧眼のお兄様が白の正装。青髪でグレーの瞳のエックお兄様が黒の正装。赤髪碧眼のフランツお兄様はグレーの正装だった。
戦闘服とか乗馬服でなくて私はほっとした。
「だから心配することはないと言ったでしょう」
ニーナが言ってくれたが、そんなの判らないじゃない!
「なんだ? ユリアは俺達が逃げ出すとでも思ったのか? デザートのかかったユリアの前から逃げ出すなんて怖くてする訳ないだろう」
エックお兄様の言葉にフランツお兄様が大きく頷いてくれるんだけど……
うーん、この二人は絶対に口だけだ。
一番の問題はお兄様か? 果たしてじっと会場にいてくれるかどうか?
「それはユリアの動向にかかっているわよ」
一番最後に遅れてやってきたお姉様が言ってくれた。
どういう意味よ?
今日のお姉様は黒のドレスだった。クラウスの色そのままの。
「お姉様が頼んでみてよ」
私がそう言ったけれど、
「お兄様がユリア以外の者の言うことを聞いたことはないでしょ。デザートを死守したいのならばあなたがちゃんとしないと」
お姉様がそう言ってくれるんだけど……
「お兄様、今日は会場から逃げないでね」
私が仕方なしに頼んでみた。
「ユリアが俺の相手をしてくれるのなら」
「ええええ! ツェツィーリア様とお兄様は幼なじみなんでしょ。お兄様が相手しないと駄目でしょう」
お兄様の言葉に私は言い返したのだ。
「うーん、じゃあ、ツェッツィを訓練場に連れて行って訓練でもするか」
「何でそうなるのよ! 私じゃないからお兄様の訓練に付き合うなんて絶対に出来ないでしょ」
私が指摘すると、
「そうか? 昔は訓練のまねごとに付き合わせていたよな」
お兄様はエックお兄様に確認していた。
私はぎょっとしてお兄様を見た。
「そんなの帝国の皇女様にさせていたの?」
「走り回ったりするくらいだったよ」
「じゃあ、王宮を走るか?」
お兄様なら、本気でやりかねなかった。
「絶対に駄目!」
私がそう叫んでいた。
「俺がいないところで王妃様の騎士をコテンパンにやっつけていたユリアが言えることか」
お兄様が言い出してくれたんだけど……
「あの時はちょっと売り言葉に買い言葉で」
「ああもう、なんで王妃様も我が家の二大問題児をお茶会に呼ぶかな」
お姉様が聞き捨てならない言葉を吐いてくれたんだけど……
「二大問題児って何よ! 私を入れないでよね」
私が文句を言うと、
「だって王妃様の騎士を倒したユリアは反論できないわよ」
お姉様にまで昔の古傷に塩を塗り込まれてしまった。
「ユリアは西瓜を食べていたらいいから。絶対に静かにしていてね。お兄様もいいわね」
「判った。俺もユリアの面倒をちゃんと見ているよ」
お兄様が訳のわからない事を言ってくれるだけど。私の面倒を見るんじゃなくて私がお兄様の面倒を見るんでしょ!
「ああ、なんか今日も最悪の予感しかしないんだけど」
「まあ、いつものことだから仕方がないだろう」
お姉様の言葉にエックお兄様が諦めムードで言うと、それにフランツお兄様が大きく頷いていた。
何か違うと思う!
時間になったので年の順に馬車に乗った。しかし、私の乗る時に、お兄様は大きく手を広げて私を待ち構えていた。
「えっ、お兄様」
私が文句を言おうとすると、
「訓練場に行こうかな」
お兄様がそう言って脅してきたんだけど……卑怯よ。
でも本当にやりかねないし……
私は仕方なしに、お兄様の膝の上に座ったのだった。
馭者が私を見て微笑んでいたし、絶対に変なのに!
私がブツブツ文句を言うのを皆無視してくれた。
馬車はあっという間に王宮に着いてくれた。
侍従が迎えに来てくれて、私を抱き下ろしたお兄様が私の手を引いて歩き出そうとしてくれた。
「えっ、お兄様はお姉様のエスコートした方がいいんじゃない?」
「俺が逃げださないように、ユリアが面倒を見てくれるんじゃないのか?」
お兄様がニコニコして聞いてくれた。
「二人して逃げ出さなかったら、それでいいわ」
お姉様は肩をすくめるとエックお兄様の腕に手を乗せていた。
私もエスコートがいいのに、お兄様に手を引かれて、そのまま歩き出したのだ。
私達が国王陛下ご夫妻の席の前に案内される。
席にはクラウスとツェツィーリア様が座っていた。
陛下の後ろにはお父様がいて満足そうに大きく頷いてくれた。
「国王陛下ご夫妻にお目通りいたします。ホフマン公爵家のアルトマイアーです」
お兄様が跪いた。
「エックハルトです」
「フランツです」
エックお兄様とフランツお兄様も跪く。
「リーゼロッテでございます」
お姉様がカーテシーしてくれた。
「ユリアーナです」
私もカーテシーする。
横でマイヤー先生が見ているので、気が休まらなかった。
「おお、今日は珍しく5人揃っておるな」
国王陛下が満足そうに頷いた。
後ろでお父様が再度大きく頷いてくれる。
「ユリアが絶対に行かないと承知しないと申しましたので」
お兄様はいけしゃあしゃあと私のせいにしてくれるんですけど。
「近隣諸国に騎士の腕が知れ渡っているアルトマイアーでも、可愛い下の妹には頭が上がらないのか」
陛下が面白がって言ってくれた。
「あまり怒らせると後が怖いもので」
お兄様まで言ってくれるんだけど、
「ちょっとお兄様!」
私がお兄様をつねると
「痛い、お前な」
お兄様が睨んでくるけれど、変なことを言うお兄様が悪い。
「相も変わらず兄妹仲は良くていいの。のう、リーゼロッテや」
陛下がクラウスの婚約者のお姉様に振っていた。
「はい、陛下。いつも家中賑やかで、中々大変です」
お姉様が猫を被って返事してくれた。
「まあ、そんな仲の良い兄弟の中だから安心できたのかな。ツェツィーリア様も」
陛下が向かいのツェツィーリア様に振ると
「はい。ホフマン家にいる時は本当に楽しくさせていただきました」
ツェツィーリア様は笑顔で答えていた。
「今回帝国よりツェツィーリア殿下がわざわざ我が国に留学してくれたのはその方達も知っている通りだ。私としても殿下には留学生活を楽しく過ごしてもらいたい。その方達もよろしく頼むぞ」
「「「「「はい」」」」」
私達は元気よく頷いたのだ。
挨拶を終えて、私達は席に案内された。
私はほっとした。これでデザートが取り上げられることはない。
今日は5人で1テーブルみたいだった。
そして、そこにはカットされた小さな西瓜が置かれていた。
「おい、ユリア。この赤いのが西瓜じゃないか」
「うん。そうだと思う」
お兄様の言葉に私は喜々として西瓜を見ていた。
12年ぶりの西瓜だ。
前世の最後、病院で一口だけ食べた記憶があった。
あれがこの世の最後の食事だったのかな?
私が夢想していた時だ。
いきなり私の口の中に一口分に切り取られた西瓜が放り込まれたのだ。
ええええ!
お兄様、何をいきなりしてくれるのよ!
食べさせなんて! それも王宮のお茶会で!
それもバッチリとツェツィーリア様に見られていたのだ。
ツェツィーリア様は真っ赤になっていたし、少し私を睨んでくれたんだけど……
ちょっとお兄様止めてよ!
私が睨まれているじゃない!
私は慌てたのに、お兄様は早くも2口目を私の口の中に放り込んでくれたのだった。
ここまで読んで頂いてありがとうございます
皇女の前で堂々と食べさせするお兄様とユリア。
続きは明日です。
お楽しみに!








