帝国の皇女様の事をお兄様は今の今まで男だと思っていたみたいでした。
その日の朝も馬車の中で、私はお兄様の膝の上にいた。
いい加減にちゃんとした椅子に座りたいのに!
「お兄様、いい加減に下ろしてよ」
私は言うだけ言ってみたが、
「狭いから仕方ないが無いだろう」
お兄様は平然と私を抱いているんだけど……うーん、何か変だ。
「そう言えば兄上。ツェツィーリアが学園に留学してくると噂になっていましたが、何か聞かれましたか?」
エックお兄様が聞いてきた。
「ツェツィーリア? 誰だ?」
「「「えっ」」」
お兄様の言葉にエックお兄様達が驚いていた。
「昔、我が家に少しの間いたじゃない!」
「兄上はよく一緒に遊んでいたわよ!」
「そうだよ。2人で庭を走り回っていたじゃないか」
3人が言い張るが、
「そんな奴いたか?」
お兄様は判らないみたいだった。
「ツェツィーリアって誰なの?」
私も判らないので聞いてみた。
「帝国の皇弟の子供だよ」
「帝国の皇族なの?」
「そうだ。昔、ユリアの来る前に我が家に二ヶ月くらい一緒に暮らしていたことがあるんだ」
エックお兄様が説明してくれた。
「ああ、あのツェッツィか!」
お兄様も思い出したみたいだ。
「ツェツィーリアなんて正式な名前言われても判る訳無いだろう」
お兄様はいい加減だ。
「お兄様。私の名前は覚えてくれているの?」
私は少し心配なって聞いてみた。
「何言っているんだ。お前はユリアだろう」
「違うわよ。正式な名前よ」
「ユリアはユリア以外あり得ない」
お兄様は言ってくれたのよ!
「そんな!」
私が膨れてみると、
「ユリア、皆、同じだって」
「兄上が名前を覚えている訳無いだろう」
エックお兄様とフランツお兄様が私を慰めてくれたんだけど……そんな訳内でしょ。
「じゃあ、お兄様、エックお兄様の本名は」
聞いてみた。
「エックはエックじゃ無いか」
本当だ。同じだ。
「フランツお兄様は?」
「フランツ以外に何があるんだよ!」
「そうだ。ユリア、それが俺の正式な名前だぞ」
「馬鹿じゃないの?」
皆に突っ込まれて私は何も言えなかったのだ……何もそこまで言う必要は無いじゃない!
「でも、何故フランツお兄様にニックネームが無いんだろう?」
お姉様が言い出して
「じゃあ、フランにしようよ」
「止めろ! フランなんて女じゃないか」
私の提案にフランツお兄様が怒り出したんだけど。
「そのツェッツィがどうしたんだ?」
お兄様が聞いてきた。
「何でも留学してきたみたいですよ」
「そうなのか? なら我が家に来れば良いのに」
「しかし、一応皇族ですからね。当然王宮に滞在されるでしょう」
「そうか、それは残念だな。今度はダンジョンにでも連れて言ってやろうと思ったのに」
お兄様は言い出したけれど、帝国の皇族をダンジョンに連れて行くのは難しいんじゃ無いかと私は思った。
わいわい言い合っているうちに馬車は学園に着いた。
エックお兄様達は着くと同時に降りていった。
最後に私を抱き上げてお兄様が下ろしてくれた。
でも今日はいつもの如くのブーイングは起きなかった。
何でだろうと周りを見ると、こちらに、見たこともないようなに銀髪のきれいなお姉さんが歩いてきたのだ。
私はこんなにきれいな人を見たことはなかった。
でも、何故かお兄様は全く見ていないんだけど……
周りをいつもの如く睥睨して威圧しまくっているのに! このきれいな人を視界に入れていない訳は無いと思うのに、全く無視していた。
「アルトマイアー様、お久しぶりですね」
その人がお兄様に挨拶したのだ。
その時になって初めてお兄様は気付いたみたいだ。
「お前は誰だ? 俺は知らないが」
戸惑った声でお兄様が言った。
「えっ?」
お姉さんは少し驚いたみたいだった。
「お兄様。先程エックお兄様が言われていたツェッツィ様じゃ無いの?」
私はお兄様に教えてあげたのだ。
「はああああ? 何を言っているんだ、ユリア、ツェッツィは男だぞ」
「えっ?」
私は驚いてお兄様を見た。
お姉様は完全にカチンコチンに固まっているんだけど……
これはまずいわ。
下手したら外交問題だ。
「エックお兄様!」
私はこちらを見ているエックお兄様を慌てて呼んだのだった。
「これはこれは帝国の銀の薔薇と呼ばれているツェツィーリア様。お久しぶりです。ホフマン公爵家の次男エックハルトです」
お兄様は完璧な仕草でその場に跪いたのだ。
でも、ツェツィーリアは固まったままだった。
「えっ、ユリア、これはどうしたんだ?」
「お兄様がツェツィーリア様を男だと思っていたみたいなの」
私が教えると
「えっ、どうやって男だと思うんだよ」
「そんなの知らないわよ」
「兄上、嘘でしょ」
エックお兄様がお兄様を見ると
「いやあ、その時はズボンはいていたし、やたら顔が可愛い男だなと思ってはいたんだが……そういえばツェッツィの面影があるな」
お兄様はそう言ってくれるけれど、絶対にお兄様は髪の毛の色が銀色だからそう思っているだけだと私は踏んだ。
でも、ツェツィーリア様は固まったままなんだけど……
これをどうするのよ?
私はエックお兄様を見たんだけど、エックお兄様は肩をすくめただけだった。
「兄上。ツェツィーリア様と同じクラスですよね。このままでは何ですからツェツィーリア様を教室まで連れて行くしか無いですよ」
「えっ、何故俺が?」
「だって、兄上は同じクラスじゃ無いですか? 俺達には兄上の教室に連れて行って自分のクラスに帰る時間が無いです」
「でも、俺は女を抱いて運んだ事なんて無いんだけどな」
お兄様が言い出しいてくれたんだけど、その言葉は私にはショックだった。
今まで散々お姫様抱っこで運ばれたのは私なのに! 私は女じゃ無いと言うの?
私はむっとした。
「男だと思っていたなんて外交問題になりそうなことを平然と言うからでしょ」
キンコンカンコン
そこに予鈴が鳴り出したのだ。
「やむを得まい!」
お兄様はそう言うとツェツィーリア様を抱え上げると一目散に駆け出したのだ。
なんか丸太を運ぶみたいだ。
と思ったのは決して私だけでは無いはずだ。
ただ、そうやって運ばれるツェツィーリア様がとても可哀相に私には見えたんだけど。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
帝国の皇弟の娘を男としてしか見ていなかったお兄様。
さすがに側近達が怒りそう……
続きは今夜です。








