お兄様は2つ上の兄をものともせずに弾き飛ばしました
その後、マイヤー先生のお説教はなんとか回避できた。大歓声が会場全体を包んでその後クラスメートを中心に私が囲まれてしまって、言い出しかねるタイミングを失敗したんだと思う。
「さすがユリアーナ様です。王太子に対しての全く忖度なしに、王妃様もろとも倒してしまうなんて」
ダミアンが忘れたいことを蒸し返してくれた。
あの後王妃様の怒りの視線を私は受けていたんだけど……絶対にまずいやつだ。
おそらく王妃様の怒りは私ではなくてクラウスの婚約者のお姉様に向かうはずだし、回り回って私に返ってきそう……
本当に最悪だった。
陛下は巻き込まれて笑っておられたが、後ろに立っていたお父様は何で止めなかったんだろう?
後で聞いたら私の活躍に喜んでしまって、手が出なかったとか言い訳していたたけれど、絶対に王妃様の騎士に止めさせようとしたんだと思う。でも、王妃様の騎士は顔だけ騎士だから絶対にとっさの反応は出来なかったんだと思う。お父様は陛下の前にだけ障壁を張って防いでいたし……
なんか最悪だ。私は後のことは忘れようとした。
そう思った時だ。
「さあて、事実上の決勝戦が始まろうとしています。昨年は決勝戦がこの二人でした。ホフマン家の若き二人です。片や五年生のアルトマイアーさん。一年生から剣術競技の優勝者です。四年連続の優勝をとげています。向かうところ敵なし。無敵の強さです。もう片方は一年後輩の実の弟、頭脳では三年連続主席ですが、剣術では過去三回、実の兄に退けられています。因縁の対決です。この二人と先ほど勝ったユリアーナ嬢はホフマン家の三兄妹、近衛騎士団長のホフマン公爵様も陛下の後ろで鼻高々ではないかと思います」
お父様の方を見ると顔は引き締まった顔をしているが、目は笑っていた。
「ベスト四に残っていたあと一人のクラウス殿下の婚約者の二年のリーゼロッタ嬢もホフマン公爵様の娘ですし、残った全てがホフマン家の関係者というのは驚きの事実です。さすが武の公爵家と言われるだけのことはあります」
「「「おおおお」」」
その言葉に皆、声援を送っていた。
「なんか酷いです。一つの家で独占するなんて」
ピンク頭が見当違いのことを言ってくれたが、
「そうですね。もう一つの武の一族のキンメル侯爵家の嫡男でアグネスさんのクラスメートのボニファーツさんはユリアーナ嬢にあっさり負けてしまいましたもんね」
「ユリアーナは弱い振りして油断させて勝っただけです」
「まあ、頭脳戦で負けてしまったんですね。考えたらホフマン家はここ4年連続で主席合格者を出していますし、武だけではないのかもしれません」
「でも、次のテストでは負けません」
「おおおお、アグネスさんはユリアーナさんにテストで勝つとおっしゃるのですね」
「数学と外国語なら勝てると思うんです」
絶対にこいつも転生者だ。外国語は何も考えなくても意味は判るし、数学は前世と比べると簡単すぎるのだ。でも、私は両方とも私も得意なんだけど……
「なるほど、では頑張ってもらいましょう。さて両者が中央に出てきました。アグネス嬢は今回はどちらを応援しますか」
「アルトマイアー様も凜々しくて素敵ですし、エックハルト様も見目麗しくてどちらにも目移りしてしまいます」
ピンク頭は相も変わらず、ミーハーだ。でもこいつだけはお兄様達には近づけないんだから!
私は決心したのだ。
「なるほどどちらも応援すると言うことですね。私としては不利だと言われているエックハルト君を応援したいと思います。さて、事実上の決勝戦と言われている両者の対決です。見てみましょう」
「始め」
先生の合図で両者剣を取った。数限りない訓練で、今だ嘗てお兄様が負けたことはないのだ。
「エックお兄様、頑張って!」
私は大声でエックお兄様を応援した。
「な、何、ユリアはエックを応援するのか?」
お兄様が何故か動揺していた。対戦するなら、私も勝ち目のあるエックお兄様の方が良いし、お兄様からはすでに入試で首席だったから、デザート一年分はもらっているのだ。お兄様にここで勝ってももらうのは一年後だし一生涯って言われても、兄嫁がくれば無くなるのは確実だし……
「隙あり」
エックお兄様が、上段から斬り込んだ。
お兄様が下から跳ねあげる。
「そこよ、エックお兄様、頑張って!」
私は必死に応援した。
「くくくく、」
お兄様は劣勢だ。そこをついてエックお兄様は次々に打ち込む。さすがエックお兄様だ。
でも、お兄様は全て防ぎきった。
「そろそろ行くぞ」
お兄様はそう言うと、エックお兄様に斬り込んだ。次々と。
エックお兄様は必死に受けるが、じりじりと後退した。
「エックお兄様!」
私が悲鳴を上げた。
「ゆ、ユリア……」
お兄様の打ち込みの剣が何故か、弱くなる。
その一瞬の隙をついてエックお兄様がお兄様の剣を避けたのだ。そして、エックお兄様がお兄様の剣を掻い潜って横になぎ払った。
お兄様が後ろに吹っ飛んでいた。
「やった!」
私は生まれてはじめて、エックお兄様がお兄様に一太刀浴びせたのだ。
「おのれ!」
お兄様の中で何かが入った。これは絶対に不味いやつだ。次の瞬間お兄様は消えたのだ。大半の人間には見えなかったと思う。凄まじいスピードでエックお兄様に襲いかかった。エックお兄様はそのスピードに何とかついていったが、でも、圧倒的に不利だ。
最後はお兄様の力ずくで場外に叩き出されていたのだ。
エックお兄様が飛んでいった先には丁度その場にいたフリッツ先生を弾き飛ばしていた
「おおおお!」
「勝者、アルトマイアーさん! 五回連続決勝進出です」
お兄様と対戦って、巨大竜に武器も無しに対戦するみたいなものだ。私はどよーんとしたのだった。








