お兄様の作戦通りに、王太子から王妃様に友人の化粧水をプレゼントしてもらうことになりました
それからブレンダー先生が飛んで来たけれど、心だけ犬になったバルチュを見て呆れていた。
「ユリア、これはないんではないか!」
ブレンダー先生が尻尾があれば振っているみたいな感じのバルチュを見て私に文句を言ってくれるんだけど、
「知りませんよ。私は反射しただけですから」
私はそう反論するしかなかった。それを言うならば私に暗示の魔術をかけたバルチュ先生が悪いんであって、お兄様が知れば激怒して大聖堂に殴り込みに行きかねないレベルだった。
もっとも、私がそんな魔術にかかる訳はないけれど……
その後、何故かマイヤー先生まで飛んで来たんだけど、私がミラーで反射しただけだと説明すると、周りの生徒達も聖女以外はそれを認めてくれて、授業は中止になった。
聖女一人が最後まで私が、悪魔の呪いをバルチュにかけたと最後まで叫んでいたんだけど……
結局、バルチュは生徒に暗示の魔術をかけようとしたということで、学園長の判断で教会に送り返されたのだ。ざまあみろだ!
「ユリア、あなた大丈夫なの? ヒロインの聖女にここまで逆らって、最後は断罪されても知らないわよ」
マリアに心配されたんだけど、
「あんな淫乱聖女がヒロインなんて信じられないわ。私が逆に断罪してやるわよ」
「本当にどうなっても知らないわよ」
私の言葉にマリアは呆れてくれたんだけど……
まあ、いざとなればやるだけよね。別に教会相手でも私は問題ないもん!
王家が困るかもしれないけれど、陛下なら後始末もなんとかしてくれるはずだ。
そして、放課後になった。
クラウスは学園の個室を手配してくれていた。
中に入るとクラウスとその隣にお姉様、そして、その後ろにずらりとクラウスの3人の側近が勢揃いして立っていた。侯爵家のランドルフを先頭に伯爵家のシュテファンもトラウゴットもとても私を警戒しているんだけど、何も変なことを話そうとは思っていないわよ!
私がさっさとお姉様の前の席に座ったら、マリアが驚いていたけれど……まあ、良いのだ。クラウスだし……
「王太子殿下にお初にお目にかかります。フルート子爵家の長女マリアンネでございます」
マリアンネがクラウスにカーテシーして挨拶していた。
めちゃくちゃ貴族みたいな挨拶で私は感激した。
「あんた、王太子殿下に対して挨拶もなしに座るなんて絶対におかしいわよ!」
後でマリアに怒られたけれど、
「だってクラウスだし」
私は一言だった。
でも、側近達はそれを見て感動していた。
「ユリア様のお連れになられた方の中では一番まともな方ですね」
ランドルフが何故か感激しているんだけど、どういう意味よ。
まあ、お兄様はクラウスを子分くらいにしか思っていないし、エックお兄様も手のかかる後輩、フランツお兄様に至っては、側近の話しもあったのに、面倒ごとには近寄りたくないと無視している始末なんだけど……
「そう、で、で、殿下の……」
私が少しマリアを見習ってきちんと話そうとして、盛大に噛んでしまった。
「ユリア、いつものままで良いよ」
あっさりとクラウスが言ってくれたが、そういう訳にも行かない。
私はお姉様を見たけれど、何かクラウスの席の隣で赤くなっているんだけど。
ここは仕方がない。私がクラウスに説明したのだ。
「そうやってマリアンネが開発した化粧水をボケナス伯爵が横取りしようとしているのよ」
「ボケナス伯爵?」
クラウスが怪訝な顔をする。
「うーん、ボケ伯爵だったかな、アホ伯爵だったかな」
「ボーケナ伯爵よ」
私の言葉をマリアが訂正してくれた。
「そうそう、そのボケナース伯爵よ」
「何も変わっていないぞ!」
ランドルフが突っ込んでくれるけれど、
「ああ、あの辺境にある伯爵家か。確か商会を持っていたよね」
すらすらとクラウスが教えてくれた。
さすがクラウス、話が早い。
「そうなのよ。だから、ランドルフのところの商会でも良いから保護して欲しいんだけど」
私が言うと、
「あのう、ユリアーナ嬢。私は君より2年も上なのだが」
ランドルフが苦言を呈してきた。
「堅苦しいわね。そんなこと言ったら私は公爵令嬢よ。それも未来の王妃の実の妹よ」
「いや、まあ、それはそうだが」
「昔からの付き合いじゃない。小さい時にコボルトに追いかけられて失禁したとかばらさないから」
「今ばらしているだろう!」
私の言葉にランドルフは切れていた。
「あっ、ゴメン、言っちゃった」
私はランドルフに謝ったのだ。
立ったままのランドルフはもう真っ赤だった。私に過去のことを色々話させようとするからいけないのよね。そう、この3人の黒歴史も私は握っているのだ。
「ユリアの前ではランドルフも形無しだな」
クラウスが笑ってくれた。
「で、何故公爵家で面倒を見ないんだ?」
と聞いてきた。
私がお姉様を見ても、何かぼうっとしているし、ここは私が言うしかないみたい。
「お父様がナイーブになっているのよね。教会が聖女とクラウスをくっつけようとしているでしょ」
「いや、ユリア、俺は聖女と仲良くなろうとなんかしていないぞ」
クラウスが即座に否定してくれたけれど。
「よく言うわね。今日もお姉様という婚約者がいながら、ピンク頭に胸押しつけられて喜んでいたじゃない」
「いや、だからそれは誤解で」
「ピンク頭に胸押しつけられただけで、既成事実になるのよ。何故ランドルフ達は止めないのよ」
「俺達も一応、止めようとはするんだよ。でも、あの聖女様は中々常識がなくてだな」
「見た瞬間、なんとかすれば良いでしょ。近衞を配置するとか、教会に釘を刺すとか色々できるじゃない」
「まあ、母上には聖女の面倒を見るように言われているからな」
クラウスは王妃様を出してきた。
「ふーん。なら王家は我が公爵家と手を切るというのね」
「いや、待て! そんなことは言っていないぞ」
公爵家は3大公爵家の一つだが、武の公爵家と言われるだけに、領内では剣術などが盛んだ。国軍の2割は公爵領出身者でしめられているのだ。それがいなくなれば下手したら国軍自体が崩壊しかねなかった。
「だってお兄様も怒っているもの。お兄様が今日みたいなのを見た日には一波乱二波乱もあるわよ」
私は側近達を見回したのだ。
「えっ、それは俺等もか」
「当たり前でしょ。頼りない側近にはお兄様は容赦しないと思うわよ。また死の特訓の二の舞ね」
私がそう言うと3人は青い顔をした。
小さい時に、お兄様を3人が怒らせて、お兄様の死の特訓を受けさせられて、3人とも死にかけたのだ。
まあ、年下の私でもうけているんだから、問題はないと思うけれど。
「ユリアと一緒にするな」
ランドルフがゼイゼイ言いながら反論した。
「ならば、聖女は二度と近づけない事よ」
私は念押ししたのだ。
仕方なさそうに、3人は頷いていた。
「しかし、母はどう、説得するんだ?」
そんなの自分で考えなさいよ!
普通ならばそう突き放すんだけど、今日はこちらからのお願いだ。
「マリア、王妃様に献上の品を」
「こちらでございます」
箱詰めして豪勢に見せた化粧水をマリアが差し出した。
「マリアの持てる力を全て絞り出して作った化粧水よ。お肌にしっとりと潤いを残すから、王妃様もお使いになられたら、絶対に気に入られるはずよ」
私はマリアに言われたままをお伝えしたのだ。
「クラウスからのプレゼントと言うことで渡せば良いと思うわ。私の名前は言わないでね」
私は念押しした。
「えっ、ユリアが持って来たのにか」
「私は王妃様には嫌われているから、お姉様から受け取ったことにしておいて」
王子の隣で静かにしているお姉様に呆れつつ、私はクラウスに頼んだのだ。
「お姉様も使って良かったでしょ」
「そうね」
お姉様が頷いてくれた。
家では何、これ、今までの化粧水と全然違うと大はしゃぎだったのに、ここでは本当におしとやかで調子が狂うんだけど……
「このお姉様が大喜びしていたくらいだから、絶対に大丈夫だから」
私が太鼓判をおしたのだ。
「ユリア、また、会えるか?」
いきなりクラウスが聞いてきたんだけど……
「学園では毎日のように会っているじゃない」
私が不思議そうに聞くと、
「いや、そうじゃ無くて……」
意味ありげにクラウスが言い出してくれるんだけど、
「ええええ! 王宮は嫌よ。王妃様はいつも私を目の敵にしてくれるし、いい加減にフリッツの事は許してくれたら良いのに」
私が文句を言うと、
「ああ、そうだ。今回の件、母の反応を見てくるから、結果を知らせた方が良いだろう」
クラウスが言い出した。
「そうね。それは有り難いけれど」
「じゃあ、また、明日の同じ時間で」
「お姉様。それで大丈夫?」
私はぼうっとしている姉に聞いた。
「え、ええ!」
もう、本当にお姉様はクラウスといる時と普通の時の態度が違いすぎるんだけど……
「そうね。じゃあそれでお願いするわ」
私はそう言うと、立ち上ったのだ。
何か言いたそうにしているクラウスを無視して、私はマリアを連れて歩き出したのだった。
「うーん、あんたって罪作りね」
マリアが何か言ってくるけれど、私はマリアの言っている意味を全然理解していなかったのだ。
王太子の前で、お姉様は赤くなって使い物にならないし、マリアは珍しく緊張していましたが、全然緊張せずに好き勝手に話すユリアでした。
次は明朝更新予定です。
聖女はどうする?
お楽しみに!








