閑話 属国の子爵令嬢の独り言 皇帝陛下とそのお兄様を抑えるのがお仕事になりました
私はマリアンネ・フルート。ハンブルク王国の子爵令嬢よ。
そんな私が帝国の皇帝陛下というか女帝陛下の側近になるなんて、ついこの前までは想像だにしていなかったわ。
何しろ元々帝国から見たらハンブルク王国は辺境の属国で、私なんてその属国のしがない子爵家の令嬢でしかなかったんだから。
まあ、皇帝陛下のユリアにしても、その属国のホフマン公爵家の養子に過ぎなかったんだけど……まあ、ホフマン公爵家は元をたどれば帝国の皇弟の出だし、嫡男のアルトマイアー様は帝位継承権第25位だったとか。属国の公爵家といえども名門だった。
そこの養女になれたけれど、私は元々平民だからとのほほんと笑っていたユリアーナだったんだけど……
でも、何故、平民のユリアーナの髪の色が銀色なの?
私は元々不思議に思っていたのだ。
でも、いきなり帝国の皇帝陛下に帝国に召還されて変だと思っていたら、やっぱり帝国の皇族の血を引いていた。ユリアはなんと前々皇帝陛下の孫だったのだ。
というか、帝位継承権は元々魔王に憑依された前皇帝陛下よりも上だった。
だって皇弟の娘のツェツィーリア様よりも余程きれいな銀髪をしていたんだもの。
日頃の言動を見ていたら到底そうは思えなかったけれど、静かに座っていれば誰が見ても高貴なお方だった。
元々帝位に近いほどきれいな銀髪の女の子が生まれる可能性が高いと言われていたのだから。
皇帝に目をつけられているからどうかなと思っていたら、謹慎になって、ユリアーナはいきなり行方不明になってしまった。
そう思ったら今度は私も捕まってしまったのだ。
これは命も下手したら危ない。ユリアをおびき寄せるための人質にされたのかもと青くなった。
何しろ皇帝は反対派の連中を尽く根絶やしにした悪逆非道の皇帝として有名だった。
私も拷問されるかもしれない。
そう覚悟した。
だってユリアの言う所のピンク頭の呻き声が一日中牢に響き渡っていたのよ。誰だってびびるわよ。
何とピンク頭は魔王に憑依されていた皇帝に剣で地面に縫い付けられていたのよ。
さすが冷酷非道の皇帝よ。伯父を殺しただけはあるわ。聖女にそんなことをするなんて信じられなかった。
ピンク頭は聖女だから死ぬに死ねずにずっと呻き続けていたとか。
それに恐れをなした一緒に捕まった貴族の何人かはペラペラとあることないこと吐いていた。
私も拷問されて殺されるかもしれない。
私が死を覚悟した時だ。
ホフマン家の3男のフランツ様がピーちゃんを連れて帝宮を解放してくれたのだ。
いつも、ユリアと戦う前に棄権してユリアを怒らせていたフランツ様が私達を助けてくれるなんて、にわかには信じられなかった。
「フランツ、お前は本当にやれば出来るんだな」
王太子殿下なんて感動していた。
まあ、古代竜を10頭も連れていたらいくら帝国騎士団が優秀でもイチコロだった。
もっとも後でユリアに聞いたら、ピーちゃんが無理矢理行きたくないと叫ぶフランツ様を引っ張って来たのだとか。
「でないとフランツお兄様が来る訳無いじゃない!」
当然のようにユリアは言っていたけれど……
でも、ピンク頭のアグネスはそれを知らなかったばかりに、その後はフランツ様に首ったけになっていたんだけど。フランツ様も満更でもないような顔をしていた。
まあ、口うるさいピンク頭とクラウス様命のリーゼ様が喧嘩しなくなって世界は平和になったと思う。
私達は人材の多くが皇帝によって殺されたか今回の責任を取らされて退職させられたので、急遽学園を卒業扱いにされて、仕事に就くことになった。
まあ、学園でユリアの天敵だったマイヤー先生が皇帝の母だったと聞いた時は何かの間違いだろうと信じられなかったけれど……あの冷徹非道な皇帝も周りから妾の子供と蔑まれて歪んでしまったのかもしれない。でも、そのマイヤー先生も実の子供に殺されてしまった。本当に皇帝は悪魔だった。まあ魔王に憑依されていたから当然なのかもしれないけれど……
帝国の行政面だけど、あの冷徹非道な皇帝が多くの優秀な人材を処刑あるいは追放してくれたから、帝国の運営は大変なことになっていた。今いる文官の大半は無能で皇帝に対するおべっかがうまいものしか残っていなかった。
私は無能な物しか残っていないのならばいっそのこと全員を首にして一から雇えば良いと思ったのに、エックハルト様は馬鹿も使い用だと無能な者もすぐには首を切らずに上手い具合に使っていた。
私はこの男は最初に絶対に首を切られるし下手したら処刑されると思ったベンヤミン・フリンツァー伯爵でさえ、エックハルト様が使い出したのには驚いた。
「まあ、こいつさえちゃんと働いてくれたら他の皆もきちんと働くだろう」
ユリアに失礼な事をしまくってアルトマイアー様に殺されそうになった反ユリア派の筆頭のベンヤミンでさえ必死に働き出したので、他の文官達や貴族達も働き出したのだ。
帝国は基本的に宰相補佐のエックハルト様が運営していると言っても過言ではなかった。
「マリアンネ嬢。これを陛下にわかりやすいように説明してきて欲しい」
私はユリアの教育係みたいなことになっていた。
エックハルト様が中心になって計画したことを最終的にユリアに許可をもらうのだ。
これは一言で言えば楽だった。
「まあ、マリア、別にエックお兄様が決めたのならそれで良いわよ」
やる気のないユリアは一言で終わりだ。
一事が万事これなんだけど、一応ユリアも皇帝陛下になったのだ。
それではいけないだろうと懇切帝位に私が教えて一応ユリアに理解させるのが大変なのだ。
ハンブルク王国と帝国は慣例が違うこともあるし、人も気候も違う。
それをユリアに理解させるのが本当に大変なんだけど……
その後ろにいるアルトマイアー様も暇そうだ。
こんな2人で帝国は滅びないのか?
私は危惧した。
でも、これだけならばまだ楽だった。
本当に大変なのは事件が起こった時だ。
「大変でございます。また、東方の族が反逆しました」
「そうか、やっと出て来たか」
「えっ、戦いになるの!」
今までの暇そうにしていたのが、嘘のように、いきなり元気はつらつになるんだけど……
この2人は本当に戦闘狂だ。
こんなのが帝国のツートップで良いのか?
と思わないでもないが、それがまた強いのだ。
でもこの2人見張っていないと本当にデートがてら出撃しかねない。
この前のビアホフ伯爵家の反乱の時は丁度私が休んでいた。
エックハルト様も視察中だった。
見張る人間が少なかった。
そうしたら、誰も止めないから、あっという間に2人で転移して伯爵の首を上げて帰ってきたのよ。
伯爵軍1万はアルトマイアー様の怒りの一撃で殲滅されたし、10万の街も城諸共灰燼となっていた。2人が暴れたら、後始末が大変だった。
エックハルト様は後始末に3日三晩徹夜された。
それ以来、基本的に2人に出撃の許可は出さない。
反対派も伯爵家の悲惨な状況を聞いて、それ以来大人しくなった。
喜々と出撃しようとし始めた2人を見て、慌てて私はボタンを押した。
慌てたエックハルト様たちが駆けつけてきたのだ。
「兄上。今回は出撃は駄目ですからね」
「何故だ、エックハルト。丁度良い運動になるぞ」
「兄上の運動のために1つの領地が灰燼と化す可能性があるから無理です」
「いや、今回は手加減するぞ」
慌ててアルトマイアー様が言い出したが、普通に終わったためしは無かった。
「兄上は手加減しても焼け野原になるのは確実ですから駄目です」
「じゃあ、私が1人で出るわ」
「陛下、陛下こそ静かにしていてください。陛下が出る時は親征ですから、属国が反逆した時くらいです」
「ええええ! どこかの属国反逆しないかな」
「陛下、いい加減にしてください!」
エックハルト様の叱責する声が響いてユリアが1時間くらい怒られるのが最近のパターンになりつつあった。
私もエックハルト様も本当に大変だった。
この2人が無茶な行動をしようとするのを抑えるのが本当に大変で、エックハルト様と2人で連携していくうちに親しくなってしまって、将来的に結婚することになるのだが、それはまだまだ先の話だった。
ここまで読んで頂いてありがとうございます
ユリアの友人のマリアの独り言でした。
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