魔王視点 妹を殺された兄を闇堕ちさせて皇帝を殺させ、その兄に憑依しました
俺は魔王様だ。
古より世界を支配していた。
そう、古から世界を支配していたのだ。
人間などと言う下等生物がこの世に生まれる遙か以前から……
何しろこの世界を作り出したのは俺様なのだから!
昔は余が作り出した魔物達が世界を闊歩していた。
のどかな時代だ。
まあ、もっとも弱肉強食の時代で力の弱い人間共は小さくなって生活していた。
と言うか、人間共を皆殺しにしても良かったのだが、それも面倒と生かしておいてやったのだ。
それが間違いだった。
魔物や獣だけでは俺様が不便なので、獣から獣人を作り出して俺様の世話をさせるようにしたのが人間の始まりだ。そうしたら世界は獣人で満ちてしまった。その中から獣になれなくなった劣等種族が人間だった。人間共はいつの間にかその獣人を駆逐して奴隷として扱っていたが。
あまりにも人間がでかい顔をして、神である俺様を蔑ろにするようになったから、俺様が魔王として世界を再び魔物の世界にしてやったのだ。
大きな顔をして世界を闊歩していた人間共は次々に魔物達に駆逐され、古の世界に戻ったのだ。
人間共は世界の果てで魔物達に脅えてひっそりと暮らすようになった。
それから数百年が経った時だ。
金の剣を持つ騎士と銀の杖を持つ聖女が黄金の竜とともに余にいきなり襲いかかって、俺様を封印してくれたのだ。俺様が寝ている間に襲いかかるなどどれだけ卑怯なのだ。俺様の世話をしていた獣人のヘルカが裏切ってくれたのだ。
あの婆、今度見つけたらただではおかない。俺様はこの何もない真っ黒な山に封印されてしまった。余は雌伏の時を迎えた。
元もと世界を作り出した創世の神である俺様を封印するなどとんでもないことだった。
俺様は怒り狂った。
でも、この山は魔王を封印している山として恐れられていて魔物さえ近寄って来なかった。
近寄ってくれさえすればなんとも出来た物を誰一人近寄ってこず、以来数百年、俺様はこの地に封印され続けた。
そんな俺の前に現れたのがヴィクトールとか申す男だった。この男は自ら兄を殺し、従兄妹を殺し、伯父を殺し、果ては実の父まで殺して皇帝になった、とんでもない男だった。
ただ、この男は俺様に逆らった獣人共を制圧してくれて、俺様の溜飲を下げてくれた。
そして、この男は俺様の封印されたこの山にやってきてくれた。
そして、何をとち狂ったのか、自ら魔王になると宣言してくれた。
封印されている創世の神でもある俺様に向かってだ!
俺様に成り代わり魔王になるなど片腹痛い。創世神様に作られた人間が創世神になどなれるわけはなかろう。身の程知らずも良いところだ。
だが、まあ、この世界を再び魔物の支配する世界に戻すために俺様が憑依してやっても良かろう。
俺様は此奴の望み通り憑依してやった。
男はむかつく人間共を沢山殺してくれて余を喜ばせてくれた。
更に余の力を強大にするためにこの男に余の封印を緩めさせた。
何万人という愚かな騎士達を殺して、余の力は更に強大になった。
この男は俺様が示唆するだけで実の親まで殺してくれた。愛する息子に殺されて驚く女は見物だった。そう、その恨むような視線、俺様はそれが見たかったのだ。
その余の前に愛すべき兄妹が現れたのだ。妹を愛する兄の姿の何と目障りなことか!
俺様はその目の前で魔王に命じてその娘を殺させた。
今まで見たくもない愛を見せつけられていた俺は、その兄の心がどす黒い怒りで染まるのを見てほくそ笑んだ。
そうだ。今こそ、俺様に魂を売るのだ。
兄は物の見事に俺様の期待にこたえてくれた。
なおかつ、この兄は魔力も剣の力も強かった。今まで憑依していたヴィクトールとは違う。さすればこの弱いヴィクトールよりも余程強大な魔王の依り代となろう。
俺様は兄にヴィクトールを殺せと囁いたのだ。
兄はヴィクトールをあっさりと惨殺してくれた。命乞いするヴィクトールの無様な様。この男は本当に俺様を楽しませてくれた。まあ、今憑依しているこの兄より腹黒さは一枚も二枚も上だったが。その点この兄は単純だった。面白みがない。
「うううう」
俺様の横でこの男の妹が呻いてくれた。
なんじゃ。まだ生きておったのか。しぶとい女じゃ。そう言えばこの女も余を封印してくれた一味のあの憎き聖女と同じ銀髪をしておる。この男にこの妹を惨殺させるか?
その事実を後で知らしてやればこの男は発狂するだろうか?
「殺せ。この女を殺すのだ」
俺様は兄を示唆した。兄は妹の首に手を伸ばしたが、そこで止めてくれた。
何という事だ。
この創世の神である魔王様に逆らうのか?
余は驚いた。
それとあろうことかこの兄から妹に対して愛が湧き出るようにあふれ出したのだ。
「待て、止めろ! 俺様が浄化される!」
さすがの俺様も慌てふためいた。
そんな時だ。
顔を上げた俺の目の前に憤怒の形相のヘルカがいた。
「出たな山姥!」
俺が思わず口に出した時だ。
「誰が山姥じゃ!」
バシン!
俺様は激怒した山姥に杖で思いっきり殴られていた。
「「ギャーーーー」」
俺様は依り代の兄と一緒に吹っ飛ばされていたのだ。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
魔王になったお兄様はどうなる?
続きは今夜です。
お楽しみに








