皇帝を倒したと思ったら影武者でした
気付いたら私は両親の仇だった赤い悪魔を討っていた。
「お父様、お母様……仇は取ったよ」
私はそう呟いていた。
私の瞳からは一筋の涙が流れていた。
ここまで長かった。
と言うか、あまりにも辛くて記憶の奥底に封印していたけれど、ずっと心の底には引っかかっていたのだ。
やっと仇を取れたのだ。
お兄様達に手伝ってもらって。
まさか勝てるとは思ってもいなかったけれど。
私は少しほっとした。
「おい、見たか?」
「銀の聖女様が赤い悪魔を倒されたぞ!」
「金の騎士様が黒い死神を倒されたぞ!」
「やったぞ」
「「「おおおお!」」」
周りの騎士や獣人達が歓声を上げていた。
「これで帝国四天王は一人もいなくなったぞ」
「これでなんとかなる」
「そうだな」
皆周りを見渡していた。
「ようし、勝てるぞ!」
「「「おおおおお!」」」
一人が叫び声を上げて皆続いた。
帝国の他の騎士達は戦いながら、その状況を見て腰が引けていた。
「ユリア、やったな」
「お兄様も!」
私とお兄様は見つめ合った。
でも、次の瞬間お兄様は私を抱き上げてくれたんだけど……
「えっ、ちょっとお兄様!」
私は驚いた。降りようとするがお兄様は許してくれない。
「者ども! 残る敵は反逆者ヴィクトール一人だ!」
お兄様が叫んだ。皆お兄様を見る。
「いざ、皇女殿下とともに続け!」
お兄様は剣を前に振ると駆け出したのだ。
「「「ウォーーーーーー」」」
他の騎士や獣人達も声を上げて突撃に移った。
目の前にいる敵の騎士達は四天王の二人がやられて浮き足立っていた。
「「「ウォーーーーーー」」」
そこに雄叫びを上げた私達が突入したのだ。
「ギャーーーー」
「に、逃げろ!」
「殺されるぞ!」
前線にいた帝国騎士団が崩れるのはあっという間だった。
逃げ惑う敵騎士団に私達の軍勢が突撃した。
逃走する敵に背後から斬りつけた。私達の軍が圧倒していた。
私達の軍は逃げ惑う敵騎士団を撫斬りにした。
「退けーーーーー!」
お兄様が大声で叫ぶと皆慌てて前を開けた。
お兄様の突き進むところ、前が次々にいなくなり、そこに続く全軍が錐のように突撃した。
帝国軍の厚い陣があっという間に斬り裂かれたのだ。
無人の野を進むようなお兄様の突撃は、しかし、皇帝の近衛の前で終わった。
さすが皇帝の近衛。皆必死で皇帝を守ろうとした。
しかし、お兄様は当たるを幸いに剣で斬りまくったのだ。
近衛は次々に倒された。
そして、その周りにホフマンの騎士や獣人達が次々にやってくる。
近衛はあっという間に数を減らしていった。
「ギャーーーー」
近衛の隊長らしい男をお兄様が斬ると、そこには本陣があった。
皇帝らしい男が中央に座っていた。
周りは魔術師達が囲んでいるみたいで、そこから次々に火の玉ファイアーボールが飛んできた。
私は障壁を張ってそれを防いだ。
「ウォーーーー」
お兄様が叫ぶとその敵魔術師の中に飛び込んだ。次々に魔術師を斬り倒して行く。
私は魔術師達の魔術の攻撃をお兄様の周りに障壁を張って防いだ。
敵魔術師はお兄様を攻撃して私の障壁に弾かれてその障壁から飛び出してくる黄金の剣で次々に倒された。
金の剣と金の杖による共同作業だった。
私とお兄様の息もぴったりだった。
気付いたらお兄様は皇帝の前にいた。
「逆臣ヴィクトール、覚悟!」
お兄様が剣を構えた。
「逆臣とは愚かな。その方共が逆臣であろうが」
皇帝は笑って言ってくれた。
「何を言う。まず、自らの兄を毒殺し、続いてそれに疑いを持った当時の皇太子殿下を毒殺。皇帝陛下をも毒殺して自らの父を皇帝位につけ、更には正式な皇位継承者のクラウディア皇女殿下を弑逆して自ら皇帝についたのが簒奪者ヴィクトールであろうが」
お兄様が糾弾してくれた。
「ふんっ、有能な者が皇帝になるのが何が悪い。世のためであろうが」
不貞不貞しそうに皇帝が宣った。
「何が有能よ。反対する者達を皆殺しにして獣人を奴隷にするなんて皇帝のすることではないわ」
私が睨み付けると、
「ふんっ、愚かな者よ。死ね!」
皇帝の手から真っ黒な闇が私に向かって飛んで来た。
しかし、私の手前でそれは黄金の杖の張った障壁で霧散した。
「死ね!」
次の瞬間お兄様が剣で皇帝を斬り裂いていた。
「ギャッ」
皇帝は血を吹いて倒れた。
私を下ろしたお兄様は皇帝の首を取ろうとした。
「此奴は違うぞ」
お兄様がその顔を改めてみて見て驚いていた。
そこにいたのは年老いた老人だったのだ。
幻の魔術か何かで顔を変えていた。死んだから元に戻ったんだろう。
「ふふふふ、愚かな奴らだ! 皇帝陛下はとっくにお逃げになったわ」
得意そうに魔術師の一人が叫んでいた。
「言え! どちらに逃げたのだ!」
お兄様はその魔術の首根っこを締め上げて聞いていた。
「言わぬ」
「そうか、では死ね」
お兄様が剣で魔術師を刺していた。
「ギャーーーーー」
魔術師が叫んでいた。
「もう一度刺そうか」
「あっちだ、あちらの方に」
魔術師が後ろの黒い山を指さしてくれた。
お兄様がその男を離す。
「ギャッ」
男は地面に激突していた。
「よし、ヴィクトールを追うぞ」
お兄様は私を再び抱き上げると駆け出してくれた。
ここで皇帝を逃がしたらやっかいだ。
私はとても不吉な予感がしていた。
そして、それは思わぬ結末になるのだった。
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ユリアの不安の正体は?
続きは今夜です。








