皇帝視点 情けで生かした小娘と獣人どもを皆殺しにすることにしました
「陛下、帝国の騎士達の動きの中で変な動きがあります」
俺様は影の長のエグモントから報告を受けていた。
「ホフマン家から派遣されている奴らであろう」
俺は興味なさそうに答えた。
「よくご存じで」
「俺様に反逆しようとしてるのであろう。愚かなやつらだ」
俺は唾を吐き捨てた。
「何でも、陛下が前々皇帝陛下を弑逆したとか噂が流れておりまして前々皇帝の孫のユリアーナを皇帝に立てるなどとほざいておるようでございますが」
「ふん、馬鹿な奴らじゃな」
影の報告に俺は呆れてそうとしか言えなかった。
今は昔と違って、帝国内にホフマン家の関連騎士は1割もいない。それも全て辺境の地に配備してある。
魔物達が盤踞する危険地帯にだ。不満を持つ騎士らには無茶な魔物の討伐を命じて数を減らさせれば問題は無かろう。
今回の反逆の動きには、10年前の政変で皇女の娘を庇ってくれた目の上のたんこぶのホフマン公爵がいるそうだ。
「どのみち奴らの黒幕はホフマン公爵でございましょう。陛下のご意向に反して叛逆を企てるとは笑止千万でございますな」
俺の側近のグシュタイン伯爵が言上してくれた。
「左様。今頃前皇女の忘れ形見を出してきたところでそれがどうしたのでございましょう」
「元々前皇女殿下は帝国を出奔、いいたくはございませんがご自身の護衛騎士と駆け落ちされた淫乱皇女殿下で有らせましたからな」
「その皇女殿下の産んだ娘など、どこの馬の骨とも判らぬではありませんか」
「由緒正しき皇帝陛下とは生まれも何もかもが違いすぎます」
俺は側近どもの言葉を顔を少ししかめて聞いていた。
「余が初代皇帝に似ていないとその方どもは言いたいのか」
俺は氷のような声で側近どもに確認していた。
「そのような滅相もございません」
「そ、そのようなつもりでは……」
「左様でございます。陛下は至高な存在で」
「何者にも代えられない唯一無二のお方でございます」
側近達は慌てて俺におべんちゃらを言ってきたが、俺には信用ならなかった。
こいつらは力のあるものに平気で鞍替えするであろう。そのためにもこいつらにも恐怖心を植え付けておいた方が良いだろう。
そもそも俺自身が父である前皇帝が侍女か何かに生ませた私生児なのだ。俺様の見た目も茶髪に黒目と金髪碧眼だった初代皇帝陛下の色は全くまとっていない。どこの馬の骨とも判らぬと側近どもがいうユリアーナの方が、銀髪で緑眼と初代聖女と同じなのだ。見た目では圧倒的に皇族らしかった。
学園の教師や生徒の中には初代聖女様の再来と期待する向きもあるという話だ。
俺はそいつらを全員絶望の淵に叩き落としてやることにしたのだ。
「我が意に反して奴隷の獣人どもを助けたユリアーナのその後の行方は判ったのか?」
「申し訳ございません。近郊の陛下影を総動員して行方を掴むように鋭意捜索を行っておりますが、未だに有力な足取りを掴みきっておりません」
「ふん、小娘達は隠れておるのか? 小賢しいの」
俺は不満そうに親指を噛んだ。
「ホフマン家の屋敷を見張るように申したエルネスタ等の首尾はどうなっておる?」
「早朝に多くの馬車を引き連れて次男のエックハルトと長女のリーゼロッテが陛下に何の断りもなしにハンブルクの国境に向かいましてございます」
「ほう、こちらに何の断りもなしにか」
眉を上げて俺がエグモントを睨むと
「はい。グレーテルが騎士団を連れて逃げたエックハルト等を追っております」
「余も舐められたものじゃのう」
「申し訳ありません。まもなく捕縛の報告が上がるかと」
「館にはもう誰も残っておらんのか?」
「三男のフランツという者が一人で残っているそうでございます」
「よし、その者をエルネスタに命じて捕まえさせろ」
「御意にございます」
エグモントが頭を下げてくれた。
「その三人を生きたまま、張り付けにして帝都の門につるすのも良かろうて。さすれば逃げておるユリアーナも出てこざるを得まい」
「そこはいかがでございましょう。ユリアーナはこの一週間隠れて静かにしております。果たして兄姉達をおとりにしても出てくるかどうか」
「その時は兄姉達を見せしめに処刑すれば良かろう。近頃、余も優しくなりすぎたようじゃ。二度とこのような不届き者が現れぬように、再度綱紀を粛正する必要があろう」
俺はヘラヘラする側近どもを見渡した。
こいつらにもたまには恐怖を味わわせる必要があろう。
「左様にございますな」
「さすが陛下でございます」
一部の者が頷いてきたが、大半は青い顔をしていた。
慌ててそれに頷いてきたが……
「申し上げます」
そこへ影の伝令が駆け込んできた。
「どうした? 御前であるぞ!」
「許す、即答せよ」
影の長が慌てて制止しようとしたが、俺が即答を許可した。
「はっ、やっと獣人どもの秘密の隠れ家を見つけましてございます」
「そうか、やっと見つけたか」
俺は立ち上がった。
獣人達の多くは制圧して奴隷として売り飛ばしたが、未だに一部の不届き者が俺に逆らっていた。
その獣人もろとも、ユリアーナを処分できると俺は踏んだのだ。
「よし、余もその地に行こう、アーベル、クレーメンス、余と共に行動せよ」
俺は残っていた四天王の二人の赤い悪魔と黒い死に神に命じていた。
「「はっ」」
後ろに控えていた二人は俺に跪いてくれた。
「ふんっ、今まで余のお情けで生かしてやったのに、その恩に反して反逆した娘を余は許すつもりは無い。余の前に平伏させてなぶり殺しにしてやるわ」
俺は伯父である前々皇帝の最後の生き残りの娘とそれを庇った獣人どもを許す気はなかった。
「それを匿ってくれた獣人どもも女子供構わず一人残らず皆殺しにしてやるわ。今度は手加減するでないぞ」
俺はアーベルにそう命じると現地に向かうべく謁見室を足早に出たのだ。